第六十四話「四天王・第二の刺客」
陵墓での戦いから数日、零たちは、古都での休息を経て、次なる調査へと乗り出していた。
「四天王が、全滅したとでも思うな――あの言葉、ずっと引っかかってる」
零が、宿の一室で、地図を広げながら呟いた。
「これまで、四柱の四天王のうち、三柱と対峙してきた。日ノ本で二柱、そして、この陵墓で一柱」
聖が、指を折りながら、確認するように続けた。
「残るは、一柱。でも、あの言葉だと、まるで、四天王が、それ以上の数、存在するみたいな」
その可能性に、一同は、緊張を強めた。
「もしかしたら、四天王っていう称号自体、常に四人固定、ってわけじゃないのかもしれない」
夜が、鋭い分析を口にした。
「誰かが倒れれば、新しい者が、その座に就く、とか」
「あり得る話だべなぁ」
熊谷が、腕を組みながら、唸るように言った。
「だとしたら、俺たちの戦いは、思ってた以上に、終わりが見えないってことになる」
零は、静かに、しかし重い息を吐いた。
⸻
その日の午後、零たちは、古都の道教寺院を訪れ、この大陸に伝わる、病神に関する伝承を、さらに詳しく調べることにした。
「――『疫鬼』という言葉、聞いたことは、おありですかな」
寺院の老道士が、零たちの話を聞いた後、静かに、そう切り出した。
「疫鬼……?」
「古い経典に、記されておる言葉じゃ。疫病をもたらす、悪しき鬼神。その眷属たちは、常に、新たな力を求め、増え続けるという」
老道士の説明に、零たちは、これまでの旅で見てきた、様々な現象――使徒、四天王、そして、病神という存在の階層構造――が、この「疫鬼」という概念と、深く重なることに、気づいた。
「その疫鬼は、どうすれば、倒せるんですか」
零が、率直に尋ねると、老道士は、しばらく考え込んだ後、静かに首を振った。
「経典にも、明確な答えは、記されておらぬ。ただ、一つだけ、言えることがある」
「なんですか」
「疫鬼、そしてその眷属たちは、絶望や、苦しみを、糧として、力を増す。じゃが、逆に言えば――」
老道士は、零を、まっすぐに見据えた。
「希望や、生きる意志こそが、彼らにとって、最大の『毒』となり得る」
その言葉に、零は、胸の奥に、確かな熱が、灯るのを感じた。
「希望が、毒に……」
「お主の内に宿る、その力――既に、感じ取っておる。それこそが、疫鬼にとって、最も忌避すべき、力なのかもしれぬ」
老道士の指摘に、零は、深く頷いた。
⸻
寺院を辞去した後、零たちは、街道を進みながら、次なる目的地――さらに西方に位置する、別の地域へと、旅を続けることになった。
道中、突如として、街道の先に、複数の人影が現れた。
「――待テ」
聞き覚えのある、こもった声。零たちが身構えると、そこには、数体の使徒と共に、これまで見たことのない、しかし明らかに、これまでの四天王に匹敵する気配を纏った者が、待ち構えていた。
「――まさか」
零が息を呑むと、その者は、静かに名乗りを上げた。
「我ハ、新タナル、四天王ガ一柱。先ノ同胞ノ、無念ヲ、晴ラサンガタメ、コノ地ニ、参上シタ」
その言葉に、零たちは、夜の予測が、まさに的中したことを、悟った。
「――やっぱり、新しく現れるのか」
零の呟きに、四天王は、静かに頷いた。
「病神様ノ力ハ、無尽蔵。倒レタ者ノ穴ハ、常ニ、新タナ者ガ、埋メル」
その事実の重さに、一同は、改めて、この戦いの、途方もない規模を、突きつけられた思いだった。
「――だとしても」
零は、剣を構えた。
「俺たちは、諦めない。一体ずつでも、確実に、立ち向かい続ける」
その言葉と共に、零の周囲に、あの穏やかな、しかし確かな光が、静かに揺らめき始めた。
見知らぬ大陸の、街道の只中で、零たちの、終わりの見えない戦いは、新たな刺客と共に、さらなる激しさを増していくのだった。




