第六十一話「兵馬俑の眠り」
空中庭園の遺跡での戦いを終えた零たちは、次なる目的地として、大陸の内陸部にある、古都を目指すことになった。
「聖教会……いや、この大陸では、道教の寺院、というべきかしら。そこで聞いた話なんだけど」
聖が、道中、集めた情報を共有した。
「古都の郊外に、大昔の皇帝の陵墓があって、そこに、無数の兵士の像――兵馬俑と呼ばれるものが、埋葬されてるらしいの」
「兵士の、像……?」
零が問い返すと、聖は、頷きながら続けた。
「ええ。等身大の、精巧な陶製の兵士たち。皇帝の死後の世界を、守るために作られたと言われてる」
「それが、どうかしたのか」
「最近、その陵墓の周辺で、夜な夜な、不気味な物音がするようになったんですって。まるで、何かが、目覚めようとしているみたいに」
その話に、零たちは、緊張を強めた。
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古都に到着した零たちは、陵墓の管理を任されているという、初老の官吏の元を訪ねた。
「――異国の方々が、この件に興味を、と?」
官吏は、疲れ切った様子で、零たちを出迎えた。
「実は、最近、幾人もの兵士が、陵墓の見回り中に、行方不明になっておるのです」
「行方不明……」
「捜索しても、手がかり一つ、見つからぬ。まるで、陵墓そのものが、彼らを、飲み込んでしまったかのように」
官吏の言葉には、深い恐怖が滲んでいた。
零は、静かに頷いた。
「俺たちが、調査します」
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陵墓の内部――地下深くに広がる、広大な空間に足を踏み入れると、そこには、圧巻の光景が広がっていた。
「これが……」
聖が、絶句する。松明の灯りに照らされた薄暗闇の中、等身大の陶製の兵士たちが、整然と、無数に並んでいる。その一体一体が、まるで生きているかのような、精巧な表情を湛えていた。
「壮観、にございますな」
花霞も、感嘆の声を漏らした。
だが、その圧倒的な光景の奥に、零は、これまでの旅で幾度となく感じてきた、あの重苦しい気配を、確かに感じ取っていた。
「――何か、いる」
零の言葉に、夜が、すぐに反応した。
「あんたの勘、当たるのよね、こういうとき」
一行が、慎重に奥へと進んでいくと、陵墓の最深部――皇帝の棺が安置されているであろう場所の周辺に、これまでにない濃密な瘴気が、渦を巻いていた。
「――ヨウヤク、来タカ」
聞き覚えのある、こもった声。零たちが振り返ると、そこには、以前対峙した二柱の四天王とは、また異なる、しかし同じく禍々しい気配を纏った者が、待ち構えていた。
「四天王が、もう一柱……!」
零が身構えると、その者は、静かに頷いた。
「イカニモ。我ハ、四天王ガ最後ノ一柱。コノ陵墓ニ眠ル、無数ノ兵士タチノ魂ヲ、我ラガ主ノ、兵駒トシテ、蘇ラセントス」
その言葉に、零たちは、息を呑んだ。
「兵士たちを、蘇らせる……。それが、行方不明になった、見回りの兵士たちと、関係あるのか」
零の問いに、四天王は、静かに嗤った。
「サヨウ。既ニ、幾人カハ、我ラガ糧トナッタ」
その残酷な告白に、零の胸の奥で、強い怒りが燃え上がった。
「――許さない」
零は、剣を構えた。
「その人たちを、返してもらう」
「――抗ウカ。ヨカロウ、ソレデコソ、糧トシテノ価値ガアル」
四天王の言葉と共に、陶製の兵士たちの目に、不気味な赤い光が、一斉に灯り始めた。
「――なっ……!」
聖が、思わず息を呑む。
無数の兵馬俑が、ギシギシと軋むような音を立てながら、ゆっくりと動き始めていた。
「まさか、あの兵士たちが、全部……!」
夜の悲鳴にも似た声が、薄暗い陵墓の中に、静かに響き渡った。
見知らぬ大陸の、深い地下に眠る陵墓で、零たちは、これまでで最も異様な脅威――蘇りし、無数の兵士たちとの、新たな死闘へと、足を踏み入れようとしていた。




