第六十話「空中庭園の秘密」
張家界での戦いを終えた零たちは、この地に伝わる伝承を調べるため、近隣の集落を訪れることにした。
「この奇岩の連なりには、古くから、伝承があるそうよ」
聖が、集落の長老から聞いた話を、皆に共有した。
「大昔、この地には、天に近い場所に住まう、仙人たちの楽園――『空中庭園』があったと、言い伝えられてるの」
「空中庭園……」
零は、その響きに、微かな興味を覚えた。
「仙人たちは、人々の病や苦しみを癒す、特別な力を持っていたと言われてる。でも、ある日、その力を妬んだ、悪しき者たちによって、楽園は滅ぼされてしまった、と」
聖の説明に、花霞が、静かに口を挟んだ。
「もしや、その悪しき者というのが」
「――病神の、原型なのかもしれない」
零が、その言葉を引き継いだ。
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長老に案内され、零たちは、伝承に伝わる「空中庭園」の跡地――切り立った岩山の頂上付近にある、古い遺跡へと向かうことになった。
険しい山道を進みながら、零は、自分の体の状態を、静かに確認していた。
(思ったより、平気だな)
標高の高い、険しい道のりにもかかわらず、以前のような、激しい息切れは起きていなかった。日ノ本での経験が、確かに、零の体を、着実に鍛えてくれていた。
「零、大丈夫?」
聖が、心配そうに尋ねる。
「ああ、思ったより、楽だ」
零の答えに、聖は、嬉しそうに微笑んだ。
「本当に、丈夫になってきてるのね」
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遺跡に到着すると、そこには、苔むした石造りの建造物の跡が、静かに佇んでいた。かつての栄華を偲ばせる、精緻な彫刻の数々が、風化しながらも、その姿を留めている。
「これが、空中庭園の跡……」
聖が、感慨深げに、周囲を見渡した。
だが、その美しい遺跡の奥には、これまでの旅で幾度となく感じてきた、あの重苦しい気配が、色濃く漂っていた。
「――ここにも、いるな」
零が身構えると、遺跡の中心部から、黒い靄が、ゆっくりと立ち上り始めた。
「――ヨウヤク、辿リ着イタカ」
靄の中から、以前対峙した四天王とは、また異なる気配を纏った者が、姿を現した。
「――貴様ハ、コノ地ノ、封印サレシ力ヲ、解キ放トウトシテイル者ダナ」
零が問いかけると、その者は、静かに嗤うような仕草を見せた。
「イカニモ。カツテ、此処ニ栄エシ、仙人タチノ力。ソレヲ、我ラガ主ノ、糧トスル」
「仙人たちの力……。それは、人々を癒すための、力だったはずだ」
零の言葉に、四天王は、僅かに嘲るような響きを、声に滲ませた。
「癒シノ力モ、視点ヲ変エレバ、絶望ヲ増幅サセル、糧トナリ得ル」
その言葉に、零は、強い怒りを覚えた。
「そんなこと、絶対に、させない」
⸻
戦いが始まると、四天王は、これまでとは異なる、より広範囲に及ぶ攻撃を仕掛けてきた。
「――ッ、これは……!」
零は、遺跡全体を覆うように広がる、黒い靄の圧力に、思わず息を詰めた。だが、それでも、体は、確かに、その負荷に応えようとしていた。
「聖、皆に加護を!」
「わかってる!」
聖の光が、パーティー全体を包み込む。花霞と夜が、連携して、四天王の攻撃の隙を、執拗に探り続けた。
熊谷が、大盾を構えて、正面から、その圧力を受け止める。
「くっ……この重さ、半端じゃねえべ!」
「熊谷、まだやれるか!」
「もちろんだべ!」
零は、剣を握り直し、静かに、しかし確かに、心の中で呟いた。
(この遺跡に眠る、仙人たちの想いのためにも――)
胸の奥で、あの熱が、静かに、しかし確かに、燃え上がる。
「――俺は、癒しの力を、絶望のために使わせはしない」
その言葉と共に、零は、渾身の力で、剣を振るった。
戦いは、これまでにない激しさで続いた。だが、零たちの連携と、着実に育ってきた力が、次第に、四天王を追い詰めていった。
「――バ、馬鹿ナ……! コレホドノ、力ヲ……!」
四天王は、大きくよろめきながら、悔しげに呟いた。
「――今日ハ、コレマデダ。ジャガ、覚エテオケ」
その言葉を最後に、四天王は、黒い靄と共に、遺跡の奥へと、姿を消していった。
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戦いが終わった後、遺跡には、静かな安堵が戻っていた。
「――終わった、みたいだな」
零が、荒くなった息を整えながら、そう呟いた。
聖が、遺跡の周囲を見渡しながら、静かに口を開いた。
「この遺跡に眠っていた、仙人たちの力――もう、二度と、悪用されないといいわね」
零は、静かに頷いた。
「ああ。この場所の平穏を、これからも、守っていけたら」
見知らぬ大陸の、幻想的な奇岩の地で、零たちの戦いは、また一つ、確かな勝利を収めていた。だが、四天王の残り一柱、そして、病神本体の存在は、依然として、大きな謎を残したまま、その旅を、さらなる先へと導いていくのだった。




