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病魔喰らい ~世界最弱の病人は、世界を旅して神を超える~  作者: 伝説の男前
第一部 第一章「絶望編」

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第四十二話「京の夜襲」

四天王と使徒たちとの睨み合いは、一瞬の静寂の後、一気に動き出した。

「行くぞ!」

熊谷が、大盾を構えて突撃する。花霞は、流れるような足運びで、使徒の群れの中へと斬り込んでいった。

「――穢レナキ者ヨ、ソノ命、頂戴イタス」

四天王が、黒い靄を大きく広げながら、零へと迫ってくる。零は、剣を構え、迎え撃った。

以前ならば、この重圧だけで、息が上がっていたかもしれない。だが今、零の呼吸は、驚くほど落ち着いていた。

(体が、応えてくれてる)

灰堂から学んだ、無駄のない体捌き。そして、少しずつ育ちつつある、あの内なる力。それらが、確かに、零の中で噛み合い始めていた。

「――ッ!」

四天王の靄の一撃を、零は、紙一重で躱した。以前のように、全身全霊を振り絞るような無理はしていない。それでいて、動きには、確かな精度があった。

「聖、支援を!」

「わかってる! 皆に、加護を!」

聖の治癒と補助の光が、パーティー全体を包み込む。夜が、使徒の一体の背後に回り込み、鋭く短剣を突き立てた。

「――グ、ゥ……!」

使徒の一体が、崩れ落ちる。だが、四天王本体は、依然として、圧倒的な力を誇っていた。

「小癪ナ。所詮ハ、雑兵ノ集マリ」

四天王が、靄を一気に膨張させ、周囲一帯を覆い尽くそうとした。

「くっ……このままじゃ!」

熊谷が、歯を食いしばりながら、大盾で靄を押し返そうとする。だが、圧力は、次第に増していく。

零は、拳を握りしめた。

(まだ、足りないのか)

モルダーヴィでのあの覚醒――あの瞬間のような、明確な力の発露が、今、必要とされている。だが、意図的に呼び起こすことは、まだできずにいた。

「――生キタイ、トイウ想イガ、貴様ノ力ノ源ダロウ」

四天王が、ふいに、そう告げた。

「ダガ、想イダケデハ、真ノ力ニハ、届カヌ」

その言葉に、零は、僅かに眉を寄せた。

「――お前に、何がわかる」

「病神様ハ、貴様ノヨウナ者ヲ、幾度トナク、見テキタ。生キタイト願イ、ソレデモ、力及バズ、消エテイッタ者タチヲ、ナ」

四天王の言葉には、確かな重みがあった。零の脳裏に、これまでの旅で見てきた、様々な人々の顔が浮かんだ。原因不明の病に苦しみ、力及ばず、命を落としていった者たち。

「――だからこそ」

零は、静かに、しかし確かな声で答えた。

「そういう人たちのためにも、俺は、諦めるわけにはいかない」

その言葉と共に、零の胸の奥で、あの熱が、静かに、しかし確かに、燃え上がった。

「――力を貸してくれ」

明確な言葉ではない。ただ、切実な願いだけが、体の奥から溢れ出す。

その瞬間、零の周囲に、微かな光が揺らめき始めた。以前の、力任せの発露とは違う、もっと穏やかで、しかし確かな輝きだった。

「――ナニ……!?」

四天王が、驚いたように後ずさる。零は、その隙を突いて、一気に踏み込んだ。

剣が、四天王の靄を、深く切り裂く。

「――グ、ォォ……!」

四天王が、苦悶の声を上げながら、大きくよろめいた。

「今だ、皆!」

零の合図に応え、花霞、夜、熊谷が、それぞれの攻撃を、四天王へと叩き込んだ。

「――マダダ、コレデ終ワリデハ……!」

四天王は、そう言い残しながらも、体勢を大きく崩し、黒い靄と共に、後退していった。

「マタ、会オウ。神代零」

その言葉を最後に、四天王と、残った使徒たちは、闇の中へと姿を消していった。

戦いが終わった後、零は、その場に立ち尽くしたまま、荒くなった息を、静かに整えていた。

だが、その疲労は、以前の戦いに比べて、遥かに軽いものだった。

「零、大丈夫? 今の力、また新しい感じがしたけど」

聖が、心配と興奮が入り混じった様子で駆け寄ってくる。

「ああ、大丈夫だ。それに」

零は、自分の胸に手を当てた。

「今回は、そんなに、体に負担がかかってない気がする」

「本当に?」

「ああ。前は、力を使った後、ぐったり疲れ果ててたけど、今回は、まだ動けそうだ」

その言葉に、夜が、興味深そうに零を見つめた。

「体だけじゃなくて、力そのものも、少しずつ、あんたに馴染んできてるのかもね」

花霞も、静かに頷いた。

「零殿の成長、著しいものがございます。この分ならば、いずれ、四天王をも凌駕する日が、来るやもしれませぬ」

零は、少し照れくさそうに笑った。

「まだまだ、先は長そうだけどな」

だが、確かな手応えが、今の零にはあった。

体は、少しずつ、しかし確実に、強くなっている。力も、少しずつ、自分のものとして、馴染み始めている。

「京の都、もうすぐだべ」

熊谷の言葉に、零は、静かに頷いた。

「ああ、行こう」

見知らぬ、しかしどこか懐かしいこの島国で、零の旅は、癒えゆく体と、育ちゆく力を胸に、次なる都へと、その歩みを進めていくのだった。

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