表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病魔喰らい ~世界最弱の病人は、世界を旅して神を超える~  作者: 伝説の男前
第一部 第一章「絶望編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/125

第三十九話「合掌造りの村」

雪山を越えて、二日が経った頃、ようやく前方に、白川郷の集落が見えてきた。

「あれが……」

聖が、感嘆の声を漏らした。急勾配の茅葺き屋根を持つ、独特の建築様式の家々が、雪景色の中に、静かに佇んでいる。

だが、その美しい光景とは裏腹に、集落全体から漂う空気は、これまでの村々と同じように、重く沈んでいた。

「零、無理はしないでね」

聖の言葉に、零は小さく頷いた。雪山を越えたことで、体力は、これまで以上に消耗していた。だが、幸い、あの咳の発作は、しばらく起きていない。

「大丈夫だ。ゆっくり進もう」

集落の入り口に近づくと、一人の老婆が、杖をつきながら、ゆっくりと歩いてくるのが見えた。

「……お客人か。珍しいこともあるもんじゃ」

老婆は、零たちを見て、驚いたように目を見開いた。

「実は、この集落の様子を、聞きつけて参りました」

花霞が、丁寧に頭を下げながら、そう切り出した。老婆は、しばらく黙り込んだ後、深く息を吐いた。

「……ならば、ちょうどよい。この村にも、あの祟りが、及んでおる」

「祟り……?」

零が尋ねると、老婆は、家の奥へと、零たちを案内した。

老婆の家の中には、囲炉裏を囲むようにして、数人の村人が、力なく横たわっていた。皆一様に、顔色が悪く、荒い呼吸を繰り返している。

「三月ほど前からじゃ……。この村の裏手にある、古い祠――その封が、緩んでしまったようでな」

「封……。何を、封じていたんですか」

聖の問いに、老婆は、声を潜めて答えた。

「大昔、この地には、疫病をもたらす、悪しき神が、棲みついておったそうな。村の先祖が、命懸けで、それを祠に封じ込めたと、代々語り継がれておる」

零は、思わず息を呑んだ。

(疫病をもたらす、悪しき神……。まさか)

これまでの旅で耳にしてきた、「病神」という存在。この島国にも、その影響が、古くから及んでいたのかもしれない。

「その祠、案内していただけますか」

零がそう頼むと、老婆は、僅かに躊躇いながらも、頷いた。

「……お若いの、無理はせんでくれよ。顔色が、あまりよろしくない」

老婆の指摘に、零は、苦笑するしかなかった。旅の疲れが、まだ抜けきっていないのは、傍から見ても明らかなようだった。

「大丈夫です。ここまで来て、引き返すわけにはいきません」

零の言葉に、老婆は、それ以上、何も言わなかった。ただ、深い皺の刻まれた顔に、静かな心配の色を滲ませるだけだった。

集落の裏手にある祠へと向かう道は、さらに険しい雪道だった。

「零、本当に大丈夫? 顔色、また悪くなってきてる」

聖が、心配そうに何度も声をかける。零は、額に滲む冷や汗を拭いながら、なんとか歩き続けた。

「平気だ……まだ、動ける」

だが、内心では、体の奥に、あの重苦しい感覚が、じわじわと戻ってきているのを感じていた。標高の高さ、寒さ、そして連日の疲労――それらが、容赦なく、零の弱い体を蝕んでいく。

「――少し、休んだ方がいい」

夜が、鋭くそう指摘した。

「でも、もう祠まで、あと少しだろう」

「あと少しだからこそ、ここで無茶して、また倒れたら意味がない」

夜の言葉には、有無を言わさぬ強さがあった。零は、悔しさを堪えながらも、素直に頷いた。

「……わかった。少しだけ、休ませてくれ」

雪の中、木の幹に寄りかかるようにして座り込むと、零は、荒い息を、静かに整えようとした。

(情けないな。祠まで、あと少しだって言うのに)

だが、無理をして倒れれば、それこそ本末転倒だ。院長の言葉、灰堂の教え、そして仲間たちの言葉――それら全てが、今の零に、「焦るな」と語りかけているようだった。

「零殿」

花霞が、静かに零の隣に膝をついた。

「そなたの弱さは、決して恥ではございません。ですが、その弱さと共に生きるということは、時に、待つこと、休むことを、選ぶ勇気を持つということでもございます」

花霞の言葉に、零は、静かに頷いた。

「……そうですね。少し、我慢が足りなかったかもしれません」

「無理をせぬこと。それもまた、強さの一つの形にございますよ」

しばしの休息を経て、零の呼吸は、なんとか落ち着きを取り戻した。まだ完全に本調子ではないが、なんとか、歩を進められる程度には回復している。

「よし……行けそうだ」

零がそう言うと、聖、夜、熊谷、花霞は、それぞれ頷いた。

雪の積もった道を、五人は、慎重に、しかし確かに、祠のある方角へと歩みを進めていった。

見知らぬ、しかしどこか懐かしいこの島国の奥深く。零の病弱な体を抱えた旅は、仲間たちの支えと、休むことを選ぶ勇気を胸に、一歩ずつ、その先へと続いていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ