表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病魔喰らい ~世界最弱の病人は、世界を旅して神を超える~  作者: 伝説の男前
第一部 第一章「絶望編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/122

第三十五話「妖の棲む森」

その夜、零は、村の集会所の片隅で、横になっていた。聖の治癒魔法と、しばしの休息で、呼吸はいくらか落ち着いていたが、体の奥に居座る重さは、まだ完全には消えていない。

「零、眠れる?」

聖が、そっと様子を見にきた。

「……ああ、大丈夫だ」

だが、その声には、明らかな弱々しさが滲んでいた。聖は、心配そうに零の額に触れた。

「熱があるわ。少し、高いみたい」

「熱……?」

零は、自分の状態を、あまり正確に把握できていなかった。異世界に来てから、こうして本格的に体調を崩すのは、久しぶりのことだった。

「無理に動いたから、悪化したのかもしれない。今夜は、しっかり休んで」

聖は、そう言うと、水に浸した布を、零の額に当てた。ひんやりとした感触が、少しだけ、火照った体を楽にしてくれる。

「……悪いな、こんなことまで」

「謝らないで。私は、治癒師なんだから。あなたを癒すのが、私の役目よ」

聖の優しい声に、零は、静かに目を閉じた。

夜半、零は、うなされるような浅い眠りの中で、ふと、目を覚ました。

体は、まだ怠く、熱っぽい。だが、それ以上に、何か、胸騒ぎのようなものを感じていた。

「……夜?」

見張り番をしていたはずの夜の姿が、集会所の中に見当たらない。

零は、重い体を引きずるようにして起き上がった。

「零、無理しないで」

異変に気づいた聖が、慌てて駆け寄る。

「夜がいない。何かあったのかもしれない」

「私が見てくる。あなたは、休んでて」

聖がそう言って外に出ようとしたとき、集会所の入り口から、夜が、静かに戻ってきた。

「……悪い、少し、様子を見に行ってた」

「夜、どこに」

「村の裏手にある、森。妙な気配がしたから」

夜の言葉に、零は、体を起こそうとした。だが、めまいがして、思わずよろめく。

「――っ」

「零、無理しないでって言ったでしょう!」

聖が、慌てて零を支えた。

「悪い……。夜、何かわかったのか」

夜は、少し表情を曇らせながら、答えた。

「森の奥に、何かが潜んでる。人の形をした、影のようなもの。ただの魔物とは、明らかに違う気配」

「病神の関係者か」

「わからない。でも、可能性は高いと思う」

零は、なんとか気力を振り絞って、立ち上がろうとした。だが、聖が、それを押しとどめた。

「零、今のあなたじゃ、戦力にならない。無理に行こうとしないで」

「でも……」

「熊谷と私で行く。夜も一緒に。あなたは、ここで、村の人たちを見ていて」

聖の言葉には、有無を言わさぬ強さがあった。零は、悔しさを堪えながらも、頷くしかなかった。

「……わかった。頼む」

聖、夜、熊谷が、慎重に森へと向かっていく。零は、その背中を見送りながら、自分の不甲斐なさに、拳を握りしめた。

(また、俺だけ、何もできない)

熱に浮かされる意識の中、零は、静かに天井を見上げた。

(こんな時にまで、体が言うことを聞いてくれない)

かつて、母を亡くしたあの冬も、自分の体は、いつも足枷のようだった。何かをしたいと思うたびに、体がそれを許してくれない。異世界に来て、その呪縛から解放されたと思っていたのに、今、こうしてまた、無力な自分に引き戻されている。

しばらくして、聖たちが戻ってきた。

「零、大丈夫? 森には、確かに、何かの気配があったけど、直接の遭遇はなかったわ」

聖の報告に、零は、僅かに安堵の息を吐いた。

「怪我人は」

「いない。だけど、明らかに、何かがこの村に近づいてきてる。用心が必要ね」

夜が、険しい表情で付け加えた。

「零の体調が戻るまで、ここで待機した方がいい。万全じゃない状態で、また敵と遭遇するのは危険」

その言葉に、零は、複雑な思いを抱いた。仲間の判断は正しい。だが、自分の体の弱さが、旅の足を止める理由になっていることが、どうしようもなく悔しかった。

「……悪い。俺のせいで」

「あんたのせいじゃない」

夜が、きっぱりとそう言った。

「体が弱いのは、あんたが選んだことじゃない。それを責めるのは、お門違い」

その言葉には、いつになく、強い温かさが滲んでいた。

「零、焦らないで。あなたが元気になるまで、私たちが村を守るから」

聖も、優しくそう言った。

零は、静かに頷くしかなかった。

熱に浮かされながらも、零は、ふと、自分の中に眠る力のことを思った。

(苦しみを、糧にする力……なら)

この病弱な体そのものが、いつか、確かな力の源になるのかもしれない。そう信じることでしか、今の零は、この不甲斐なさに、耐えることができなかった。

窓の外には、この島国特有の、澄んだ夜空が広がっている。

見知らぬ、しかしどこか懐かしいこの土地で、病弱な体を抱えながらも、零の旅は、仲間たちに支えられながら、続いていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ