表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病魔喰らい ~世界最弱の病人は、世界を旅して神を超える~  作者: 伝説の男前
第一部 第一章「絶望編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/125

第三十話「最弱、世界へ」

レイヴンクロフトの門を抜けた零たちは、街道を歩きながら、これまでとは違う開放感と、微かな緊張を同時に感じていた。

「思ったより、道は整備されてるべな」

熊谷が、周囲を見渡しながら呟いた。

「聖教会や商会が管理してる主要街道だからね。とはいえ、この先は、だんだんと知られていない地域に入っていくことになるわ」

聖が、院長から渡された地図を広げながら説明する。

「まずは、この街道沿いにある交易都市を目指すのが、一番安全なルートみたいね」

「そこから先は?」

零が尋ねると、聖は少し困ったように首を傾げた。

「正直、そこから先は、まだ聖教会にも、詳しい情報が少ないの。海を越えた先に、様々な文化を持つ国々がある、というのは分かってるんだけど」

「未知の領域、ってわけか」

夜が、静かにそう呟いた。その声には、僅かな緊張と、それ以上の高揚感が滲んでいた。

数日間の道中、零たちは、いくつかの小さな依頼をこなしながら、旅の資金と経験を積み重ねていった。道中で出会う人々は、皆一様に、旅する四人組に興味深そうな視線を向けた。

「珍しいパーティーだねぇ。聖女様に、暗殺者風の嬢ちゃんに、大盾持ちに――」

「それに、坊主は何をする奴なんだい?」

行商人の一人にそう尋ねられ、零は少し言葉に詰まった。

「……まだ、自分でもよくわかってないんです」

その答えに、行商人は不思議そうな顔をしたが、それ以上は深く聞かなかった。

夜になり、野営の準備をしながら、零はふと、これまでの旅路を振り返っていた。

(まだ何も、はっきりとはわかってない)

自分の中に眠る力の正体。病神という存在の意図。四天王という、圧倒的な脅威。そして――あの、灰堂の鏡で見た、見知らぬ記憶の欠片。

「零、何を考えてるの?」

聖が、焚き火の向こうから、心配そうに声をかけてきた。

「……色々とな。この先、何が待ってるのか、って」

「不安?」

「正直、少しはある。でも」

零は、焚き火の炎を見つめながら、静かに続けた。

「それ以上に、知りたいって気持ちの方が強い。俺自身のことも、この世界のことも」

熊谷が、豪快に笑いながら口を挟んだ。

「なら、心配すんな。俺たちがついてる。一人じゃねえべ」

夜も、静かに頷いた。

「一人より、四人の方が、できることは多い。それだけの話」

その言葉に、零は温かい気持ちが胸に広がるのを感じた。

「……ありがとう、みんな」

翌日、零たちは、街道の先に見えてきた、大きな港町に到着した。

「あそこが、交易都市――ポートヘイヴンだ」

港には、これまで見たことのないほど多くの船が停泊し、様々な国籍の商人や旅人たちが行き交っている。

「すごい……こんなに賑やかな街、初めて見た」

聖が、目を輝かせながら呟いた。零も、その活気に、思わず圧倒されていた。

港の一角にある、旅の手配所を訪れると、そこには、様々な行き先を示す航路図が掲示されていた。

「この中から、どこを目指すか、決めないとね」

聖の言葉に、零は航路図を、じっと見つめた。

見知らぬ国々の名前、それぞれに異なる特色や、伝承の欠片が、簡単な説明として添えられている。

その中で、ふと零の目に留まったのは――遠い東方に位置する、「日ノ本」という、聞き覚えのない、しかしどこか懐かしい響きを持つ、小さな島国の名前だった。

(日ノ本……)

理由はわからない。だが、その名前に、零は不思議な引力を感じた。まるで、遠い記憶の奥底から、何かが呼びかけているような感覚。

「零、どうしたの?」

聖が、怪訝そうに尋ねる。零は、航路図の一点を指差した。

「ここに、行ってみたい」

「日ノ本……? 聞いたことない国ね」

夜も、興味深そうに地図を覗き込んだ。

「私も、初めて聞く名前。でも」

「行ってみる価値はありそうだべ。零がそこまで言うなら」

熊谷の言葉に、聖も、静かに頷いた。

「わかった。じゃあ、まずは、日ノ本を目指しましょう」

こうして、零たちの行き先が、正式に決まった。

出港の準備を整えながら、零は、港の桟橋から、遠くに広がる海を見つめていた。

(この世界には、まだ俺の知らないことが、数えきれないほどある)

自分の力の正体。病神という存在の真意。そして――自分自身が、いったい何者なのか。

答えは、まだ何も出ていない。だが、少なくとも、もう立ち止まってはいられない。

「最弱、か」

零は、自嘲めいた笑みを浮かべながら、そう呟いた。かつて、水晶が壊れるほどの低い数値を叩き出し、多くの者に嘲笑われた自分。

だが、今の自分には、確かな仲間がいる。育ちつつある、正体不明の力がある。そして何より――決して諦めない、強い意志がある。

「行こうか、みんな」

零がそう言うと、聖、夜、熊谷が、それぞれ力強く頷いた。

船が、静かに港を離れていく。

見知らぬ世界での旅は、こうして、より広い世界へと、その舞台を移し始めていた。

最弱と呼ばれた少年の、本当の冒険が――今、確かに、その一歩を踏み出していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ