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病魔喰らい ~世界最弱の病人は、世界を旅して神を超える~  作者: 伝説の男前
第一部 第一章「絶望編」

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第二十六話「民を守る者」

零が街の外れへと駆けつけると、そこには、これまでよりも一回り大きな黒い靄が、うねるように渦を巻いていた。

「これは……!」

夜と熊谷も、すぐに追いついてきた。

「零、気をつけろ! さっきの奴らより、明らかに気配がでかい!」

熊谷が、大盾を構えながら叫ぶ。零も、その場の空気の重さに、肌が粟立つのを感じた。

靄の中心から、ゆっくりと姿を現したのは、以前の使徒とは、纏う雰囲気が明らかに異なる者だった。仮面には、複雑な紋様が刻まれ、纏う黒い装束にも、金糸のような装飾が施されている。

「――我ハ、四天王ガ一柱」

その言葉に、零たちは息を呑んだ。

「四天王……使徒より、上位の存在なのか」

零が呟くと、四天王を名乗る者は、ゆっくりと頷くような仕草を見せた。

「病神様ノ、直属タル者。此度ハ、我自ラガ、貴様ヲ迎エニ来タ」

その気配は、これまでの使徒とは、比較にならないほど重く、そして禍々しかった。周囲の空気が、まるで質量を持つかのように、重くのしかかってくる。

「――ぐっ……!」

聖が、思わず膝をつきそうになる。零は、咄嗟に聖を支えた。

「大丈夫か」

「な、なんとか……。でも、この気配、これまでとは桁違い……」

聖の言葉通り、四天王の放つ気配は、街全体を覆うようにして、住人たちにも、じわじわとした恐怖を植え付けていた。

「街の人たちが……!」

零が周囲を見渡すと、逃げ惑う住人たちの姿が見えた。その中には、老人や子供の姿も多い。

「零、ここは俺が食い止める! お前は、民を逃がせ!」

熊谷が、大盾を構えて前に出た。

「熊谷、一人じゃ危険だ!」

「馬鹿言うな! こういうときのための、盾役だべ!」

熊谷の言葉には、迷いのない覚悟が滲んでいた。零は、一瞬躊躇ったが、住人たちの悲鳴に、はっと我に返った。

「……わかった! 夜、聖、俺たちは民を守る!」

「了解!」

夜が即座に動き出し、逃げ惑う住人たちを、安全な方向へと誘導し始めた。聖も、怪我をした者たちに、応急の治癒を施しながら、避難を手伝う。

零もまた、逃げ遅れた人々を助けながら、街の路地を駆け回った。

「こっちだ! 早く逃げろ!」

「あ、ありがとう……!」

一人、また一人と、住人たちを安全な場所へと導いていく。だが、その最中にも、背後からは、熊谷と四天王との激しい激突音が響き続けていた。

「熊谷、大丈夫か……!」

零が振り返ると、熊谷の大盾には、既に幾つもの亀裂が入っていた。それでも、熊谷は歯を食いしばりながら、四天王の攻撃を、一身に受け止め続けている。

「零! 早く民を!」

熊谷の叫びに、零は唇を噛みしめた。今すぐにでも、熊谷を助けに行きたい。だが、まだ逃げ遅れている住人たちがいる。

そのとき、零の視界の端に、一人の子供の姿が映った。

「――トビアス!」

孤児院で出会った、あの病弱な少年だった。他の子供たちとはぐれたのか、一人、恐怖に立ち尽くしている。

「トビアス! こっちだ!」

零が駆け寄ろうとした瞬間、四天王が放った黒い靄の一部が、大きく街の中心を薙ぎ払った。その軌道上に、トビアスの姿があった。

「――っ!」

零は、考える間もなく、地面を蹴った。

「零!?」

夜の悲鳴が、遠くで聞こえた。

零は、全力でトビアスの元へと駆け寄り、その小さな体を抱きかかえるようにして、地面に伏せた。頭上を、黒い靄の刃が、紙一重で通り過ぎていく。

「大丈夫か、トビアス!」

「お、お兄ちゃん……! 助けて……!」

震えるトビアスを、零はしっかりと抱きしめた。

「大丈夫だ。俺が、絶対に守るから」

その言葉は、かつて自分が救われたかった言葉、母に、誰かに言ってほしかった言葉と、どこか重なっていた。

零は、トビアスを安全な場所まで避難させると、再び戦いの中心へと視線を戻した。

熊谷の大盾は、既に限界に近づいている。四天王の圧倒的な力の前に、じりじりと押され始めていた。

(このままじゃ、熊谷が)

零の胸の奥で、あの馴染みの熱が、再び疼き始めた。だが、モルダーヴィのときのような、明確な覚醒には至らない。

(足りない。まだ、何かが足りない)

焦燥感が、胸を締め付ける。それでも、零は、拳を握りしめ、戦いの中心へと駆け出した。

「熊谷、待ってろ! 今、行く!」

見知らぬ世界での戦いは、いよいよ、これまでにない危機的な局面を迎えようとしていた。


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