第十二話「パーティー結成」
盗賊団襲撃事件から数日後、零はギルドから思いがけない知らせを受けた。
「神代零様、こちらへどうぞ」
受付嬢に呼ばれ、零はギルドの奥にある応接室に通された。そこには、ギルドマスターらしき壮年の男性が座っていた。
「よく来た。私はこのギルドを預かる、ガレス・オーウェンだ」
「……零です。あの、何の御用でしょうか」
「単刀直入に言おう。先日の隊商襲撃事件での働き、報告が上がっている。F-ランクでありながら、Dランク相当の盗賊団を相手に、仲間と共に持ち堪えたとな」
零は少し戸惑った。
「あれは、たまたま――」
「たまたまで済ませられる状況ではなかった、というのが現場の冒険者たちの評価だ」
ガレスは、机の上に一枚の書類を置いた。
「そこで提案がある。お前を、正式にEランクへ昇格させたい」
「Eランクに……?」
「本来なら、いくつかの実績と試験を経る必要があるが、今回は特例だ。ただし」
ガレスは真剣な眼差しで零を見た。
「一人で戦うには、まだお前の力は不安定すぎる。だからこそ、提案がある。パーティーを組むことだ」
「パーティー……」
零の脳裏に、聖や夜の顔が浮かんだ。
「聖教会の聖女見習い殿とは、既に交流があると聞いている。それに、あの黒羽夜という娘とも。どうだ、正式にパーティーを結成してみては」
⸻
その夜、零は聖教会に戻り、聖にこの話を伝えた。
「パーティー……私と、夜さんと?」
「ああ。ギルドマスターの提案だ」
聖はしばらく考え込んでいたが、やがて笑顔で頷いた。
「いいと思うわ。正直、これからもあなたと一緒にいろんな依頼をこなすなら、正式な形にしておいた方がいいもの」
「夜は、どう思うかな」
「聞いてみましょう」
⸻
翌日、零と聖は、街の裏通りで夜を見つけた。事情を説明すると、夜はしばらく黙り込んだ。
「……パーティー、か」
「嫌なら、無理にとは言わない」
零がそう言うと、夜は小さく首を振った。
「嫌とは言ってない。ただ……私は、単独行動が多い仕事もしてる。いつも一緒にいられるとは限らない」
「それでいい。必要なときに、力を貸してくれれば」
夜はしばらく零を見つめていたが、やがて頷いた。
「……わかった。組む」
こうして、零、聖、夜の三人による、正式なパーティーが結成された。
「でも、これだけの人数じゃ、まだ心もとないわね」
聖が呟く。零も同意した。
「前衛が足りない。夜は暗殺者としての技はあるけど、真正面からの戦闘向きじゃない。俺も、まだ自分の力を制御できてない」
「盾になれる人がいたらいいんだけど」
三人がそんな話をしていると、ふいに背後から、野太い声がかかった。
「盾なら、俺が適任かもしれねえな」
振り返ると、そこには見上げるほどの巨躯を持つ、筋骨隆々とした男が立っていた。無骨な大盾を背負い、素朴だが人懐こそうな笑みを浮かべている。
「あんたは……?」
「熊谷岳ってもんだ。この街で、盾専門の冒険者やってる」
熊谷は、なぜか東北の訛りが混じったような、独特の話し方をしていた。
「実はよ、さっきからお前らの話、聞こえてたんだ。パーティー、探してんだべ?」
零は少し驚いたが、悪い気はしなかった。
「見ての通り、俺はまだランクも低い。力もはっきりしない。それでもいいのか?」
熊谷は豪快に笑った。
「ランクなんて関係ねえ。大事なのは、仲間を守る気持ちがあっかどうかだ。お前さん、隊商の件で頑張ったって話、聞いたぞ。悪くねえ心意気だ」
聖と夜も、顔を見合わせた。
「熊谷さん、腕は確かなんですか?」
聖の問いに、熊谷は自分の大盾を軽く叩いた。
「この盾で、これまで一度も、後ろの仲間を死なせたことはねえ。それだけは、胸張って言えるべ」
その言葉には、確かな自信と、誠実さが滲んでいた。
「……よろしく頼む」
零がそう言って手を差し出すと、熊谷は大きな手でそれを握り返した。
「おうよ、よろしくな」
こうして、零、聖、夜、熊谷の四人による、新たなパーティーが結成された。
⸻
その夜、ギルドの一角にある酒場で、四人は簡単な祝杯を上げることになった。
「改めて、パーティー結成おめでとう」
聖がグラスを掲げると、夜も熊谷も、それに倣った。零は少し照れくさかったが、素直にグラスを手に取った。
「これから、よろしく頼む」
「よろしくな、零」
熊谷が豪快に笑う。夜は、いつものように素っ気なかったが、その口元には微かな笑みが浮かんでいた。
「これから、忙しくなりそうね」
聖の言葉に、零は頷いた。
「ああ。でも、一人よりずっと心強い」
これまで、ずっと独りで生きてきた零にとって、こうして誰かと肩を並べ、共に歩んでいくという感覚は、まだ新鮮で、そして何よりも温かいものだった。
酒場の喧騒の中、四人は、これからの日々への期待を胸に、静かに笑い合った。
見知らぬ世界での零の旅は、ここから、確かな仲間と共に、新しい章へと進み始めていた。




