第百二話「エルナを迎えて」
宿場町を発ってから、三日が過ぎた。
零たちは、次なる目的地――南方の、古くからの信仰の中心地を目指し、街道を、着実に、進んでいた。
「――なあ、聖。エルナのこと、また、考えてたんだが」
零が、道中、ふと、そう、切り出した。
「あの子、俺たちのこと、心配してた。病神が、追ってくるかもしれない、って」
「ええ、覚えてる」
聖が、静かに、頷いた。
「もし、本当に、病神が、エルナを、追って、俺たちの前に、現れたら――俺は、迷わず、エルナを、守るつもりだ」
零の、その、確かな決意に、聖は、静かに、微笑んだ。
「私も、同じ、気持ちよ」
⸻
その日の午後、街道の先に、見覚えのある、小さな影が、佇んでいるのが、見えた。
「――あれは……」
零が、目を、凝らすと、そこに立っていたのは、紛れもなく、あの、白い髪の少女――エルナだった。
「エルナ!」
零が、駆け寄ろうとすると、エルナは、僅かに、身を、強張らせた。
「――近ヅクナ」
その、警戒の言葉に、零は、足を、止めた。
「エルナ、どうしたんだ。何か、あったのか」
エルナは、しばらく、無言のまま、俯いていた。だが、やがて、震える声で、口を、開いた。
「――病神様ガ、ワタシノ、離反ヲ、察知シタ。コノママデハ、ワタシハ、消去、サレル」
その、告白に、零たちは、思わず、息を、呑んだ。
「消去、って……!」
聖が、悲鳴のような、声を、上げた。
「――ワタシハ、ドウナッテモ、良イ。ダガ」
エルナは、静かに、続けた。
「貴様タチニモ、危険ガ、及ブ。病神様ハ、必ズ、コノ場所ニ、刺客ヲ、送ル」
⸻
零は、静かに、しかし、確かな決意を込めて、エルナに、歩み寄った。
「エルナ、お前は、一人で、抱え込む必要は、ない」
「――デモ……」
「俺たちが、いる。一緒に、その脅威に、立ち向かえばいい」
零の言葉に、エルナは、大きく、目を、見開いた。
「――ワタシノ、ヨウナ、存在ヲ、守ル価値ガ、アルノカ」
「価値の、有無なんて、関係ない」
零は、静かに、しかし、確かな声で、答えた。
「お前が、自分の意思で、選んで、ここに、来てくれた。それだけで、俺にとっては、十分、大切な、理由なんだ」
⸻
その言葉に、エルナの、瞳から、再び、一筋の涙が、こぼれ落ちた。
「――ワタシ、選ンダノカ……。自分ノ、意思デ……」
「ああ、そうだ」
零は、優しく、頷いた。
聖も、静かに、エルナに、歩み寄った。
「エルナ、私たちと、一緒に、来ない? あなたの、居場所を、一緒に、探しましょう」
聖の、優しい申し出に、エルナは、しばらく、躊躇っていたが、やがて、小さく、頷いた。
「――ワタシ、行ク。貴様タチト、一緒ニ」
その、決意の言葉に、零たちは、それぞれ、温かい、笑顔を、浮かべた。
「ようこそ、エルナ」
熊谷が、豪快に、そう、告げた。
花霞も、静かに、微笑んだ。
「これからは、共に、旅を、いたしましょう」
夜も、僅かに、口元を、緩めながら、頷いた。
「歓迎するわ」
⸻
こうして、エルナは、正式に、零たちの、パーティーへと、加わることになった。
だが、その夜、野営の焚き火を、囲みながら、零は、静かに、これからの、不安についても、思いを、巡らせていた。
「――病神が、本当に、刺客を、送ってくるとしたら」
零の、呟きに、夜が、静かに、頷いた。
「覚悟は、しておいた方が、いいでしょうね」
エルナも、静かに、俯きながら、口を、開いた。
「――ワタシノセイデ、貴様タチニ、危険ヲ、及ボスコトニ、ナルカモシレナイ」
「気にするな」
零は、静かに、しかし、確かな声で、答えた。
「これまでだって、俺たちは、色んな危険と、向き合ってきた。今回も、同じだ。みんなで、乗り越える」
その言葉に、エルナは、静かに、頷いた。その、瞳には、これまで、見たことのない、確かな、希望の光が、宿り始めていた。
見知らぬ国の、静かな夜、零たちの、パーティーに、新たな仲間――エルナが、加わったことで、その、絆は、さらに、深く、そして、確かなものへと、育まれていくのだった。




