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2話 指名




俺の噂は瞬く間に広まった。

竜種にとっては数千年振り。赤龍にとっては数百年越しの待望の次世代竜種ともあり、その影響力は絶大。


赤龍夫妻のお気に入りスタッフとして、俺見たさに来店する種族が増えたのだ。


「ソラ!7番テーブルヘルプだ!」

「はいっ」


そしてこの世界、ヒト種は基本真っ黒な髪色が多いので、俺みたいに青みがかってるタイプは大層珍しいらしい。


まあ、お呼びがかかるのは純粋に嬉しい。それだけ好かれているということなので(元わんこゆえに、構ってもらえるのが嬉しい)。けれども全員がそうではない。


中には、冷やかしでわざわざ指名してくる奴もいる。…そもそも、ヘルプは指名出来ないシステムなはずなんだけど。


呼ばれたテーブルで、案の定客は俺を見るなりめっちゃ笑ってきた。ちなみに種族を外見で差別する奴にはエルフ種が多い。自分の容姿に自信があるからだそうだ。


「うわっ本当にいた!髪真っ黒じゃない!お前ヒトなの?」

「……」

「ソラ、どうする?」


呼び出すだけして態度が明からさまな客には、店のルールに基づきオーナーから許可を得ている。


「おとといお越しください♡」

「排除完了ー!」


店のガチムチ警備員(オーガ族)による害虫駆除。

俺だと普通に負けるので、ボディガード要員に借りた。めちゃくちゃ助かる。


「人気が出るのも大変だな」

「稼ぎが増えるのは有り難いんですけどね」

「なんだ。買いたいものでもあるのか」

「ん、まあ、今居候状態なので…。一人で暮らせるだけのお金はほしいというか…」

「そうか。拾われてきたんだったな」


ここホストクラブは豪華な外観の建物の一階部分。二階が社員寮みたいに住居スペースになっている。

俺は、拾われてからずっとこの二階に居候として住まわせてもらってるので、ある程度まとまったお金が出来たらどこかに部屋を借りたいと思っていた。


「でもヘルプがこんなに呼ばれてちゃあな。俺達ホストが売上を越される」

「す、すみません」

「いや、お前を否定してるんじゃない。そろそろ真面目にホストになれって話だ」

「え…」


聞いた話、俺のヘルプとしての売上は、ガチでホストランキングに食い込む勢いらしい。もうヘルプだけでは収まらないのだ(主に知名度が)。ゆえに。










「えー、今日から正式に、ソラをうちのホストとして迎えることになった」


営業時間前、フロアに全従業員を集め、オーナーがそう宣言する。


「それと、長期で出張に行っていたギュレイがようやく戻った」


わあ!と歓声が上がる。

エルフのホストはまあまあいるが、彼は一際異彩を放っていた。

自信に満ちたオーラ。絶対的王者の風格。誰もが認めるこの店のNO.1で圧倒的美貌の持ち主。


「NO.1ホストの帰還より、新人の昇格の方が先とはな」


フロアの空気が一瞬で変わった。


ざわめいていた店内が、目に見えて静まる。

それだけで、この男がどれほどの存在かが分かる。


背が高く、すらりとした体躯。

銀に近い淡い金髪、透き通るようなエメラルド色の瞳。

整いすぎた顔立ちは人形めいていて、感情の読めない微笑を浮かべていた。


「……お久しぶりです、ギュレイさん」


誰かがそう声をかけると、彼は軽く顎を引いて応じる。


「俺が留守の間、随分と賑やかだったようだな」


その視線が、ゆっくりと――俺に向いた。


ぞく、と背中に悪寒が走る。

これはただの視線ではなく、品定めしているような感覚。あまり、良い気がするものではない。


「で、お前が新人ホストってわけか」


どこか刃物みたいに冷たい声色。恐らくだが声だけで人を殺せそうだ。


「……ソラです」

「ふぅん」


視線が、髪、目、仕草、立ち姿へと流れる。

まるで商品を査定する商人のように。


「竜種の番に取り入ったらしいな」

「……たまたま、です」

「たまたま、ね」


くすり、と笑われた。

カツ、カツ、と靴音を鳴らしてギュレイさんが近付いてくる。


「この店は“実力主義”だ。たまたまとか運如きで客が定着するほど甘くはない」


周囲の空気がピリつく。

ホスト達が固唾を呑んで様子をうかがっているのが分かる。


「ましてや――」


目の前まで来たところで、視線が、真正面からぶつかる。


「年端もいかない子供が、俺達ホストと肩を並べるなど愚の骨頂」


……あ、これ完全に試されてる。

俺は一瞬迷って、それから正直に答えた。


「……俺、皆さんと同じ立場になれるなんて思ってないです」

「じゃあ何だ?」

「“正しい”と思うことをやりたいだけです」


しん、と空気が静まる。


ギュレイさんの眉が、わずかに動いた。


「……それで?」

「それで、助かる人がいるなら、それでいい。…そこまで稼ぎたいとも思ってないし…」


ちょっと嘘吐きました。自立できるくらいには稼ぎたいです。


すると、ギュレイさんは一拍置いてから小さく息を吐いた。


「……なるほど」


口元に、皮肉とも感心とも取れる微笑。


「随分と、厄介なタイプだ」

「え」

「計算がない。野心もない。なのに人の心を掴むのが上手い」


視線が鋭くなる。


「一番、扱いづらい」


その言葉に、周囲が息を呑む。


(怒ってる、のか…?)


その感情は、俺の鼻でも判別付けられなかった。声色的には、多分、怒ってる。


と思った次の瞬間。


「だが――」


ギュレイは背を向けながら言った。


「オーナーが拾ってきたんだ、素質くらいはあるんだろう」


振り返り、ちらりと視線を寄越す。


「せいぜい俺に踏み潰されないよう足掻いてみろ。足手まといだと判断したら、速攻で追い出す」


そう言い残し、奥へと歩いていった。

静寂。

……からの、


「はぁぁぁ……っ」


誰かの安堵の息。


「生きてる……」

「殺されなかった……」

「ギュレイさんに目をつけられて無事なの初めてじゃないか?」


口々に囁きが漏れる。

俺はというと、


「……今の、褒められたんですか?」


と小さく聞いた。


「半分な」

「半分脅し」

「でもかなり異例」


ヒューロさんが苦笑する。


「気に入られてるよ、ソラ」

「えっ」

「本人は認めないだろうがな」


そのとき、少し離れた場所から。


「……面倒な拾い物をしたものだ」


ギュレイさんが、小さく呟いたのが聞こえた気がした。











そしてNO.1ホスト帰還直後の営業で、それは起きた。

元々特定のホストがいた常連客が、噂を聞いて指名を変えたのだ。その指名相手が…


「…俺、ですか」

「いつもなら知名度が上がってきたと喜ぶべきところなんだが、お前の場合特殊だからな。どうする?断っても構わない」


視界の端では本来の担当ホストが俺を睨み付けていた。そりゃそうだろう、ギュレイさん不在の間は彼も売上を伸ばしていた。俺が来てから伸び悩んでいたのに、追い打ちをかけるみたいに指名を変えられちゃ…。


「……指名してくれたお客さんとお話出来ます?」

「交渉してみるか?」

「はい」


ヒューロさんに連れられ常連客のもとへ。その女性は妖精族らしく、美しい羽を持っていた。


「貴方が新人のソラさん?」

「あ、はい。ソラです」


悪い人ではなさそう。出禁にしたエルフとは違いその眼差しはとても柔らかなものだった。


「指名は通ったのかしら」

「あの。そのことなんですけど…。俺、まだホストになったばかりで学びたいことが山ほどあるんです。指名くださったのはとても嬉しいんですけど、今日は、レジィさんのヘルプとして、席に着くんじゃだめですか?」


レジィというのが、彼女の本来の担当ホストである。

俺の提案に彼女は「ふふ」と微笑んだ。


「とても弁えた良い子なのね。分かったわ。いつも通り、担当はレジィで。ヘルプに彼を指名します。それなら問題ないわね?」

「はい、ご配慮感謝いたします」


俺の代わりにヒューロさんが受け答え、席へ案内する。

すぐにレジィさんが来たが、少しだけ居心地の悪そうな顔をしていた。


「…てっきり、担当をおろされるかと」

「不安にさせてごめんなさい。ここの常連客はみな噂好きなの。私もそう。でも、彼も良い子ね。貴方の立場を尊重し、私の機嫌も損ねず妥協案を提示できる」

「損得なしに動けるのは我々としては少しやりづらいです」

「ホストとしてはそうよね。けれど、それが彼の持ち味だとしたら、伸ばしてあげるのが貴方達先輩ホストだわ」

「はい」

「さあさ、そんな顔をしてないで、いつも通り私を楽しませてちょうだいな」

「かしこまりました」


そこからは、レジィさんもいつも通りの接客に戻り、彼女も満足してくれたようで安心した。


見送ったあと、レジィさんにボソッと話しかけられる。


「……そのまま指名を奪われるかと思った」

「そんなことしませんよ…」

「…そうだよな。お前はそういう奴だ」


すると何かを悟ったように、頭を撫でられた。


「何か困ったことがあったらいつでも言えよ」

「…ありがとうございます」






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