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1話 初めての席




思いもよらぬ形でオーナーやホスト達からの信頼を勝ち得た俺は、その後も着実に店での仕事をこなしていった。

主に雑用ではあるが、この風貌のおかげでヘルプにも引っ張りだこ。


「ソラ、ヘルプに入れるか」

「はい!」


ホストクラブではあるが、若者の流行を取り入れるため男が客として来ることもある。中にはどこぞのお偉いさんだったり。


「赤龍の国王補佐がお相手だ。失礼のないようにな」

「せ、せきりゅう」


なんだそれ、聞いたことないんだけど。


「ソラは種族には疎いか」


オーナー補佐のヒューロさんが手短に教えてくれた。

この世界にはヒト族の他にエルフ、竜種、ドワーフ、まあ色々な種族がいる。

今回のお客様である赤龍は、元を辿れば竜種ではあるがそれよりも更に神に近い存在。そして青龍、黄龍、赤龍という種族に分かれ、ぞれぞれが龍が棲まう国のミツ柱となっている。その中でも赤龍は炎を司る龍と言われ、主に軍事に携わっているのだとか。まあようは、怒らせちゃマズイ相手なのである。


「…お、俺焼かれない?」

「そこまで心狭くないさ」


とてもとても怖いです。


席に着くと、そこには真っ赤な髪の客が二人座っていた。

人型になってはいるが顔・首・手、服に龍の名残りだろう鱗がビッシリ。うお、前世の記憶があるから分かるんだけど、これが異世界ってやつか。


「新人か。こちらへ」

「し、失礼します…」


片方は男。赤に映える青と金のスーツ。

もう片方は女。青のグラデーションのドレス。

二人はつがいか何かかな。


「珍しい毛色のヒト種だ」

「先日オーナーがスラム街にて拾ってきた子供にございます」

「ほう。スラム街から」

「はい。しかし気立てもよく物覚えが良いのでオーナーのお気に入りでただいま教育中でございます」

「なるほど。名は」

「ソラ、と」

「ソラか」


おいで、と女の赤龍が俺を呼ぶ。かなりビビりながらヒューロさんに目線で指示を仰ぐと「大丈夫」と背中を押された。


「…し。失礼します」


どきどきで女性の隣に座る。あれ、「おいで」って言われたけど具体的に俺何したらいいの?ヘルプとしての仕事は分かるけど、直接の対応はまだ習ってな…


ふわ、と何かが香ってきた。

前に臭ったアレとは、また別の香りだ。

これに危険な感覚はない。


不思議に思って見上げると、赤龍の女性は俺を優しい眼差しで見つめた。にこ、と微笑んで、「何か飲み物は?」と聞いてくる。


「お酒は飲めるのかしら」

「お、俺。いや、僕?は、お酒は飲めません…」

「ああ、子供と言っていたわね。ごめんなさい。…ではミルクをいただける?私はブドウ酒を。エリクシャールも飲むでしょう?」

「そうだな、わざわざ来たのだから飲むか。リベルタを貰おう」

「かしこまりました」


ヒューロさんが席を離れる。男性はエリクシャールというのか。めちゃくちゃかっこいい名前だな。女性が友好的に話しかけてくれるので、ひとまず俺は聞かれれば答えるという対応に徹した。


「私はソルトラーレよ。ソラ、と言ったわね。歳は?」

「じゅ、12、くらい…?」

「もう少し下にも見えるけれど、きっとその幼顔のせいね。大きくなったら美男子になるわ」

「ありがとうございます…?」


わずか数秒で、ミルクと酒が到着する。

ホストクラブなんだから酒がメインだろうが、この時にふと違和感を覚えた。


酒、飲んで大丈夫なんだろうか、と。


「さあさ、乾杯しましょう」

「我らの出会いに」


二人に合わせて、俺もグラスを取り。

チン、と控えめな音が鳴る。

当たり前にそれぞれが口に含もうとしたときだ。疑惑が確信に変わった。

前世の知識がここでも共通かなんて分からないけど、俺の本能がそう動かした。


「ソルトラーレ様。お酒飲まない方がいいです」

「えっ?」

「…おい小僧。見習い風情が客から酒を奪う気か?」

「いえそうではなく…」


とっても怒っておられる(当たり前)。

それに全身の毛が逆立つほどの殺気を向けられている(当然である)。

俺に耳と尻尾があれば確実にビビってるのが分かっただろう。そして鳴き声は間違いなく「くぅぅん(泣)」だ。


「…理由を聞いてもいいかしら?」

「……」


もしかしたら、秘密にしてるのか。そう思って、女性にだけ伝えた。


「……気のせいだったらすみません。あの、赤ちゃん、いますよね」

「……え?」

「いや、その。なんていうか、母親の匂い?」

「……」

「お酒って、母体によくないって、思って…」

「………」

「あ、あの」


返事がない。いやマジで返事がない。

俺の説明が悪かった?え、ほんとにやらかした?


ソルトラーレ様は何か込み上げてきたようで、俺をガン見しながらゆっくりと手でご自身の顔を覆った。……へ!?


「ソルトラーレ、どうした」


心配そうに声をかけるエリクシャール様に、ソルトラーレ様が涙ながらに口を開く。


「お、お腹に」

「うん」

「赤ん坊が、いると」

「うん…………えっ」


ガタ、と隣の席から物音。同じような風貌からしておそらくこの二人の付き人か何か。その人が、驚愕の表情で立ち上がっていた。

そしておもむろに俺に訊ねる。


「しょ、少年。それは誠か」

「えっえっ」

「ソルトラーレ様が、身籠もっておられると。確かなのか」

「ぇあっ、ほ、本当、ですっ」


こうなったら本能を信じて断言するしかない。今更「気のせいでした」なんてそれこそガチで人生が終わる。


するとエリクシャール様がソルトラーレ様をぐっと抱き締めていた。感極まった顔で。


「…このときをどれだけ待ち侘びたか」

「……ごめんなさい、危うく子を流してしまうところでした…」

「いや、いい。そんなことはもうどうだっていいんだ」


多分、俺だけが事情を知らないままで固まっていた。


「ソラ。ありがとう。貴方が気付いてくれた、命の恩人よ。…私は生涯、このご恩を忘れません」








後からヒューロさんに聞いた話、エリクシャール様とソルトラーレ様はやはり番だった。国王補佐であるエリクシャール様は次期国王陛下。正式に王位継承するには番であるソルトラーレ様のご懐妊が必須だったらしい。

普通は国王になってから、なのだが元々竜種は長命ゆえに子が出来ずらい。その上希少種ほど更に確率が低く次の世代が産まれるのに数千年かかることもあるらしい。

お二人は番になって数百年。つまり、数百年子が出来なかった。


しかもこれが一番厄介なのが、竜種は成獣になるまでは酒に弱く、特に胎児の状態で摂取してしまうと流れてしまう危険性がある。

あのまま俺が気付かず、酒を飲んでしまっていたら………


そんな感じだったので、後日赤龍ご夫妻から感謝の品物が滅茶苦茶届いた。俺が拾われ子ということで衣類とアクセサリーの諸々。

店には竜種の国で有名どころの酒の数々。と、謝礼金。


「凄い相手と人脈が出来たな」

「この服なんか俺達の給料でも買えないやつだぞ…」

「この指輪とか腕輪とかどうする。金銀財宝と同じくらいの価値はあるって」


ホストの皆さんが、プレゼントを片っ端から値踏みしていく。まあ俺が値打ちが分からないものだから教育という意味で教えてくれるんだけど。


「お前、間違ってもスラム街で着けるんじゃないぞ。数秒でスられて数分で見ぐるみ剥がされる」

「外でなんて着けませんよ…。着けるとしてもこの店の中でだけです」

「店でもギュレイさんの前では着けないようにな?」


ギュレイとは、このホストクラブにおいてNo.1の人気ホストだ。

毎月人気ランキング上位に必ず食い込み、売り上げをボロ稼ぎしているプライドの高いエルフ。


ちなみに、この店にもヒト以外の種族は在籍している。大多数はヒト種だが、ランキングの上位を占めているのは大体エルフ。そして獣人。

簡単に言えば、各種族の顔面偏差値の高い者である。


「今がたまたまギュレイさんの出張期間で良かった。いたら間違いなく目の敵にされてるよ」

「こんな新人を目の敵になんてしますか」

「お前、あの人の嫉妬深さ舐めるなよ。元々エルフはプライドも高い。そんでお前は見た目もそこそこ良い上に今回でぶっとい人脈パイプが出来た。加えてこの贈答品の山」


机の上に並べられた豪華なアクセサリーを見て周りのホストがうんうんと頷く。


「俺達はまだ下っ端だから大丈夫だけどよ。こんなの見られた日にはお前、フルボッコにされるぞ」

「お、おーなーが黙ってない…」

「ああいう奴ほど外ヅラは良いんだよ」

「…ふぐぅぅ…」


とにかく、滅多なことでは着けまいとかたく心に誓う。俺はまだ死にたくない。


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― 新着の感想 ―
てか異世界だったんだ。1話は異世界って感じしなかったしね
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