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三人のヒロインとシェアハウスすることになった僕は、全員を本気で愛して呪われてしまった。 ――告白は観覧車のてっぺんで  作者: iron-bow


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【第10話-04】祝福と呪いのあいだで始まる物語-花音

夜が終われば、朝が来る。


どんなに特別な時間も、

朝日とともに“日常”へ引き戻される。


けれど――

昨夜なかったものが、確かに生まれている。


妙な連帯感。

言葉にしない理解。

そして、少しの気まずさ。


青春は、勢いだけでは終わらない。

ちゃんと「その後」がある。


朝食のテーブルから、

それぞれの現実が動き出します。


【Scene01.8:朝食】



1月4日


チェックアウトの頃には、千紗と京子の間に妙な連帯感が生まれていた。

もともとクラスメイトで仲も悪くなかったが――

ラブホテルの隣室でお互いの“あの声”を聴き合ってしまったという非日常な体験が、

どこか吹っ切れたような親しさを生んでいた。


すでにLINEでのやり取りも始まっている。


「朝ごはん、まだでしょ? 一緒にホテル出て、どこかで食べない?」

「いいね、あと30分後くらいでどう?」

「(了解のうさぎスタンプ)」


ホテルの中ではお互い静かにしていたのに、

外に出た瞬間、解放感と高揚感が弾ける。


「いえーい!」

千紗と京子がハイタッチ。

晴道と潤は、少し気恥ずかしそうにグータッチ。


四人の間に、昨晩までにはなかった空気が流れていた。

照れや気まずさを通り越して、どこか“戦友”のような妙な絆がそこにはあった。



朝マックを手にした四人は、窓際の席に向かう。

セルフで運んだトレイには、ソーセージエッグマフィン、ハッシュポテト、そして紙カップのコーヒーとオレンジジュース。


「んー、朝のポテトって、なんでこんなに美味しいんだろ〜」

千紗が満足そうに笑う。髪はざっくり結ばれ、昨夜とはまた違う無防備な可愛さがあった。


「昨日の夜ってさ、結局何時頃まで起きてたの?」

唐突に京子が切り出す。声は抑えていたが、口元はいたずらっぽく笑っていた。


「えっとねー、4時過ぎ位?」

千紗はあっけらかんと答える。

「そういう京子は?」

昨晩までの”苗字呼び”はいつの間にか“名前呼び”に変わっていた。


「私たちは3時位だけれも

あなたたち、何回やったのよ・・・」

「えっとぉ、寝る前が・・・」

「あーー、千紗は寝不足だから、帰ったら寝ような」

晴道が無理やり遮る


「頑張ったわね、お互い」

京子がしみじみと言う


”何回”なんて発言を遮れた事に安堵した晴道は潤に向き直る


「……潤、京子のこと、大切にな」

晴道がふと、真面目な声で呟く。


「もちろん。……晴道こそ、氷室もいるし、大変だな」

「……ああ、きちんとするさ」

晴道はそう言って、オレンジジュースを口に含んだ。


――だが、その“きちんと”に答えを出せる日は、まだずっと先。


晴道たちの“激動の一年”は、ようやく始まったばかりだった。



【Scene01.9:帰宅】



千紗は晴道と手をつなぎながら、マンションまで帰った。

優香の時と違い、今回は「カラオケオールの帰り」というアリバイがある。一緒に帰っても誰に咎められることはない。


階段の前で手を離し、軽く手を振って別れると、千紗は自宅のドアを開けた。


「美優お母様、ただいまー」


「おかえり。早かったのね。晴道くんと一緒なら、もっと遅くなると思っていたわ」


柔らかく微笑む母に、千紗は内心ドキリとする。何もかも、見透かされている気がした。


「カラオケオールだったから、もう眠くて……」

建前は大事だ。けれど眠いのは本当だった。

昨夜、いや今朝寝たのは4時位なのだ。


「シャワー浴びて、ちょっと寝るね」


浴室に入り、千紗はふと冷静になった。


シャワーの温度を上げ、全開にして、音で自分の声が漏れないようにしてから――。


「わああああああっ!! 私なにやってるのーーーーっ!!」


自分でも信じられない。ラブホテルでクラスメイトに鉢合わせという異常事態。

しかもその声を盗み聞きし、さらにこちらの声も聞こえているであろう事に気付いているのに声をあげて……。


「さっきはなんか変なテンションだったけど……来週、どんな顔して篠原くんと里中さんに会えばいいの?」


そして極めつけは――朝マック。

大きな声で、”何時まで”とか、”何回”とか、”頑張った”とか……言ってた。


「絶対……絶対周りの人に聞かれてたあああっ!!」


千紗は崩れ落ちるように絶望した。


「あのマック……もう行けない~~~~~っ!!」


美優お母様は脱衣所の向こうで、聞こえていたのか、すべてを見抜いているのか――「あらあら」と小さく笑うだけだった。



その頃、晴道は帰宅し、母・沙織の出迎えを受けていた。


「おかえりなさい。どうだった?」


その“どう”が、“何”を指すのか、晴道には痛いほど分かる。

――これは、絶対に食事会やカラオケの話じゃない。


「母さん……あれ、助かったよ」


「まあ、それはよかったわ。何個使ったの?」


「ちょっ、母さん!? 直球すぎるってば!!」


「いいじゃない。私が準備してあげたんだから」


「……それは、そうだけど……3個」


「……あら? ラブホテルじゃなかったの?」


「そ、そっちはそっちで備え付けがあって、2個……」


「じゃあ、朝方までね。疲れたでしょう?」


沙織は、ニヤニヤ笑っている。

晴道はもう限界だった。しゃがみ込み、頭を抱える。


「……そういえば、父さんは?」


「洋介さん? 晴道に合わせる顔がないって言って、朝から出かけちゃったわよ」


「えっ、なんで……?」


その瞬間、嫌な予感が背筋を走る。


「昨日はふたりきりだったでしょ? でもコンドーム、箱ごと晴道に渡しちゃったから……」


晴道は唾を飲む。


「仕方ないから、そのまま“した”ら……洋介さん張り切っちゃって♡」


固まる晴道。


「ねえ晴道、弟と妹、どっちがいい?」


「うわああああああああっ!!」


叫び声を上げながら、自室のベッドへダイブする。



年が明けて、まだ4日。

なのに既にこの騒がしさ。


だが、これすらも――

これから始まる激動の一年の、ほんの“序章”に過ぎなかった。



【Scene01.10:始動】



1月4日


高村不動産


年明けの空気もまだ冷たさを残すなか、高村不動産では新年の仕事始めが粛々と進められていた。


朝礼が終わると、千晴は社長室に呼び出された。


「社長、お呼びでしょうか?」


「うむ。千晴くんに、ひとつ任せたい案件があってな」


蘭はデスク越しに手元のファイルをトン、と軽く叩く。


「昨年、お前が“フルリノベが必要”と報告してきた物件があっただろう。あのシェアハウスだ」


――梨子の住む、あの物件。


昨年のバレンタイン。千晴がチョコ作りのために何度か出入りしたあの古びた建物。

キッチンの油まみれの換気扇、ひび割れた洗面台、古すぎる冷蔵庫……見かねて蘭に報告したのだった。


「はい、覚えております」


「そのリノベーション計画、まるごとお前に任せようと思ってな。予算もつける。規模の範囲内で、好きにやってみろ」


「……本当に、私に全て?」


「全てだ。ゼロから計画してみろ。お前ならできる」


千晴は深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


これまで多くの改修プロジェクトに携わってきたが、企画から、業者選定まで全てを一任されたのはこれが初めてだった。


デスクに戻りながら、千晴は心を引き締める。


「……よし。この案件に、全てを懸けよう」


春からは経理・経営部門への異動が決まっている。

今しかない、このタイミングで自分の実力を証明しなければ――


千晴は静かに拳を握った。


だが。


この仕事が、彼女自身の“運命”を大きく動かすことになるとは――

その時の千晴には、まだ知る由もなかった。


夜が終わって、朝。


あの高揚感も、あの気まずさも、

太陽の光の下では少しだけ現実味を帯びます。


でも、なかったことにはならない。


隣室という偶然。

戦友のような妙な連帯感。

親とのやり取り。


笑っているけれど、それぞれがちゃんと何かを抱えている。


青春は勢いだけじゃ続かない。

ちゃんと“翌朝”まで含めて青春です。


そして――

次は、もっと大きな瞬間が待っています。


次回、

リビングに流れる静かな緊張。

マウスを握る手。

止まる呼吸。


クリックひとつで、未来が動く。


その瞬間、

誰の運命が、どちらへ傾くのか。

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