【第10話-03】祝福と呪いのあいだで始まる物語-花音
同じ夜。
同じ建物。
壁一枚隔てた、ふたつの部屋。
誰かを想って、誰かを抱きしめているはずなのに――
胸の奥に残っている“別の誰か”。
祝福の夜は、決して綺麗ごとだけでは終わらない。
それでも、
それぞれが“今の相手”を選んでいる。
隣室。
そこにあるのは、過去か、未練か、
それとも――現在の覚悟か。
少しだけ、痛みを伴う夜になります。
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【Scene01.7:隣室】
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カラオケを出た晴道と千紗は、人気の少ない夜道を歩いていた。
目指す先は――ラブホテル。
「……ほんとに、いいのかな。こういうとこ使って」
晴道がぽつりとつぶやく。
「私たち、18歳だよ。誰に文句言われる筋合いもないの」
千紗が応じる。
「それも、そうだね」
とはいえ、やはり周囲の目は気になる。
ロリ巨乳美少女と爽やかイケメンが並んで歩いていれば、目立たないほうが不自然だ。……まぁ、それは今は置いておこう。
「“木の葉を隠すなら森の中”って言うでしょ」
千紗がふと口にする。
「いや、それ、“木を隠すなら”じゃないの?」
すかさず晴道が返す。
「違うよ? 英語の原文、“in a forest of leaves”って言われてるんだから、“葉っぱ”が正しいの」
照れ隠しのような会話に、小さな笑いがこぼれる。
肩を並べて、ふたりは夜の街を進んでいった。
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やがて、目的のホテルへと到着した。
時刻は23時目前。ネットの情報どおりなら、宿泊切り替え前のこの時間帯から部屋が空き始めるはずだ。
――ここには「個別の待機ブース」があるらしい。
人目を避けて過ごせるなら安心だと、千紗が選んだ場所だった。
が。
実際に目にしたブースは、ただの“通路のくぼみ”だった。
しかも、丸見え。
(これ……“待機”っていうより、“晒し”じゃない……?)
受付で空室を尋ねると、指定されたのは一番奥の5番。
あと一組で満席というギリギリのタイミングだった。
ふたりがようやく腰かけられるその“くぼみ”で、千紗の観察タイムが始まった。
・驚くほど高齢のカップル
(……起つのかな?)――余計なお世話だ。
・親子ほどの年の差カップル”女性が上”
(ママ活……?)――余計なお世話だ。
・女性同士のカップル
(……するのかな? 泊まるだけ?)――余計なお世話だ。
・明らかに高校生っぽいカップル
(あれ、成人してるよね……?)――余計なお世話だ。
……いや、篠原潤と中里京子だった。
千紗と京子、視線がぶつかる。
一瞬で頬が真っ赤になり、そっと目を伏せた。
なぜか潤は立ち上がり、爽やかな笑顔で――サムズアップ。
白い歯が光る。
そしてなぜか、晴道も応じる。
サムズアップ。歯が光る。
((なにやってんのよ、もう……!))
ふたりの女子の心の声が見事にハモった。
潤と晴道は一拍置いて、ようやく我に返る。
しずしずと、それぞれの“くぼみ”に戻っていった。
京子と千紗は、ただただ真っ赤になってうつむくだけだった。
ちなみに――京子は千紗ほどではないが、晴道好みの巨乳だった。……とかなんとか、余計な補足もつけておこう。
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ほどなくして、潤と京子が呼び出され、受付へ。
次に呼ばれたのは――晴道と千紗。
言葉は交わさずとも、手をつなぐそのぬくもりが、すべてを語っていた。
胸の奥が、静かに、でも確かに高鳴っていく。
ふたりはゆっくりと立ち上がり、受付へと向かった。
キーを貰い、エレベーターホールへ・・・
潤と京子が未だエレベーターを待っていた
無言のまま、同じエレベーターに乗る事になる
地獄のような気まずさだった。
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晴道と千紗は、そっと部屋へと足を踏み入れた。
「……来ちゃったね」
千紗が小さく微笑んでつぶやく。
ちょっとしたハプニングはあったものの、ここまでは計画どおり。
あとは――朝まで、二人だけの時間だ。
「晴道、コート脱いで」
千紗がハンガーを取りながら言った
「ありがとう」
晴道は素直にコートを脱ぎ、千紗に預けた。
「……あれ? ポケットに何か入ってるよ?」
千紗が探るように手を差し入れると――取り出されたのは、未開封のゴム。
「はっ、晴道!? どれだけやる気なの!!」
真っ赤になって叫ぶ千紗。
「ち、違うんだ、それ今朝……母さんがコーディネートしてくれた服に袖を通したら、最初からポケットに入ってて……」
「さ、沙織お母様……!!」
――『“はめ”すぎないようにね』
あの一言は冗談なんかじゃなかったのか、と改めて思い知る千紗だった。
「……もう、なんか、負けた気する」
ぽつりと呟いてから、千紗は小さく笑った。
「シャワー、浴びちゃおうっか。……先にお願い」
「うん、わかった」
晴道は軽く頷いて、バスルームへ向かった。
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シャワーを終え、ホテル備えつけのナイトガウンでベッドに腰かける晴道。
バスルームから聞こえる水音に、どこか落ち着かない気持ちになる。
「クリスマスイブは千紗、自分の家に帰ってから来たから……
この“待つ時間”って、初めてなんだよな」
ぽつりとつぶやいて、ふと思い出す。
――優香のときは、どうだったっけ。
よく覚えていない。いや、きっと、ちゃんと向き合えていなかったのだ。
(優香には悪いことした。……もし、またチャンスがあるなら、今度は絶対に優しくする)
そんなふうに心の中で誓いを立てる。
でも、今は――目の前の千紗に、心を向けると決めていた。
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やがて、バスルームの扉が開き、千紗が現れた。
白いナイトガウンに包まれたその姿は、どこか大人びて見える。
ふたり、ベッドに並んで腰かける。
「今日は……ありがとう」
晴道がぽつりと口にした。
「食事会のこと。あんなにたくさん集まってくれて、嬉しかった」
「あれは晴道の人望だよ」
「そうなのかな、俺すげー感謝してる。
クラスメイトってだけなのに、みんなすごく暖かかった。メッセージカードとか、忘れられないよ」
「中里も言ってたでしょ?『そうよ、みんな晴道のこと好きだからさ!』って」
千紗の脳裏に、“ずっとずっと好きでした(匿名希望/千紗怖い)”のメッセージがよぎる。
――あれ、絶対中里さんだ。
あの美少女っぷり、あの巨乳っぷり、正直、ライバルじゃなくて本当に良かった。
こっそりと、そう思ってしまう自分がいる。
「篠原にも感謝だよな。
あんなに盛り上げてくれて……」
「それを言うなら、里塚もでしょ」
「そうだね。由美子は『つきあってー!』『愛してるぅ!』って、声変えてまで盛り上げてくれたし」
「……今、由美子って呼び捨てにした?」
「え? だって、幼馴染みだし、普通じゃない?」
「それ、里塚本人に言ったことあるの?」
「うーん……普通に一緒に遊んでるし、別にわざわざ言ってないけど……」
(この、天然ジゴロが……!)
千紗は内心で思い切り突っ込む。
そして、ふと考える。
――彼女は、どう思ってるんだろう。
幼馴染みとして一緒にいられることが嬉しいのか。
それとも、幼馴染みとしてしか見られないことが、辛いのか。
――2年前、由美子の告白をガードしたのは、果たして正しかったのか。
そんなことをぼんやりと考えていた、そのとき――
静かな室内に、何かの「音」が聞こえてきた。
それは明らかに秘め事の声
「えっと、こっちの壁って・・・」
(潤と京子が入った部屋)
二人とも、それは口にできなかった
ごまかすように千紗が呟く
「今日の中里さん、ちょっと胸元強調してたよね」
話題を間違えた
思わず、晴道が答えそうになる
「うん、中里さん、おっぱい、おっき……」
千紗がぴしっと晴道の頬をつまみ上げた。
「この口か? こんなタイミングで他の女の子の胸の話をしようとしたのは、この口か!?」
「ほ、ほめんにゃさいっ……」
「そんな口は、ふさいでやるっ!」
千紗は一気に距離を詰め、
そのまま――キスをした。
あのクリスマスイブの再現だった。
でも違う。あのときよりずっと、
深く、強く、
まるで何かを確かめ合うかのような――激しさを孕んだキス。
やがて、ふたりは自然にベッドへと倒れ込む。
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潤が京子へと愛を届け
肩をそっと抱き寄せ、ふたりで静かに呼吸を整えていたそのとき――
壁の向こうから、かすかな声が聞こえてきた。
「あっ……あっ……あぁ……」
潤と京子は、同時に顔を見合わせる。
「……聞こえるね」
「……壁、薄いんだね」
「こっちの壁って・・・」
「千紗と晴道が・・・」
⸻
京子の心に、ざわりと波紋のような感情が広がっていく。
潤のことは、ちゃんと好きだ。
だからこそ、クリスマスイブの夜、自分の“初めて”を預けた。
そして今日、ふたりは改めて深く結ばれた――そのつもりだった。
けれど。
(隣の部屋で……晴道と、千紗が……)
その現実が、どうしようもなく心を揺さぶる。
気づけば、京子はゆっくりと、壁に耳を寄せていた。
隣では、潤も無言でその声を聴いている。
潤と京子の視線がふと重なった。
⸻
潤は――千紗のことが好きだった。
“晴道のことが大好きな千紗”を、ずっと見つめていた。
まっすぐで、ひたむきで、誰よりも素直なあの子を。
だから、自分から踏み出そうとは思わなかった。
彼女の視線の先に、自分がいる未来を、望んではいなかった。
それでも、忘れられなかった。
ずっと胸のどこかで、千紗の声と、笑顔と、あの視線が生きていた。
京子が晴道を想っていることには、早くから気づいていた。
だけど、あるときはっきりとわかった。
――彼女も、“千紗を想う晴道”に恋をしているんだ、と。
あの、千紗を見つめるときの、どこまでも優しい眼差しに。
潤は、その気持ちが痛いほどよくわかった。
だからこそ、京子に惹かれていった。
似ていると思った。
誰かを諦めきれずに、黙ってその背中を見守っているところが――
そして、京子も潤の千紗への想いに気づいていた。
だからこそ、ふたりは似た傷を抱えながら、重なり合えた。
言葉にするまでもなく、共鳴し合って、恋に落ちた。
告白して、結ばれて、それが潤の“現在の幸せ”だった。
けれど今。
京子は――晴道と千紗の声に、心も身体も、反応している。
興奮している。
潤は――千紗と晴道の声に、心も身体も、反応している。
興奮している。
「京子……」
「潤……」
言葉よりも先に、感情が溢れ出した。
ふたりは、まるで同じ感情に突き動かされるように抱き合う。
それは、かつての想いを焼き尽くすような、
いま目の前にあるものを確かめ合うような、
少しだけ痛みを伴った、愛しさだった。
⸻
晴道が千紗へと愛を届け
肩をそっと抱き寄せ、ふたりで静かに呼吸を整えていたそのとき――
壁の向こうから、かすかな声が聞こえてきた。
「あっ……あっ……あぁ……」
晴道と千紗は、同時に顔を見合わせる。
「……また聞こえたね」
「うん……潤、元気だな」
千紗と晴道は顔を見合わせて、ふっと笑った。
千紗は考える
今日は特別な夜だって思ったけれども、
こうやって、”京子”と”潤”も同じ時に愛し合ってる
今という時間もみんなが共有しているんだ
今、この時も誰かが誰かを愛している。
待合所で見かけたカップルたちを思い出す。
愛する事って素晴らしい事だけれも、特別な事じゃない
晴道を好きだったはずの京子だって今、潤と愛し合ってる。
誰が誰を愛したって自由じゃない。
そしてふと思った
さっき私は”ごめんね、今は少しだけ独り占めさせて。優香が大学合格したら、その時きっと”なんて考えていたけれども
”きっと””なに”だったんだろう?
その時きっと晴道が抱いてくれるから?
その時きっと晴道を一緒に愛しましょう?
なんて上から目線でおこがましかったのだろう
だから、私は優香の誕生日だって”間違えたんだ”
ふつうに一緒に晴道を愛すればいいじゃない。
ふと気持ちが楽になった。
すると、逆に京子と潤の声が生々しく聞こえてしまい
高ぶってしまった。
それは晴道も一緒だったようで
また二人の時間も始まってしまった。
⸻
翌朝
晴道は、下半身にくすぐったいような、妙な感覚を覚えて目を覚ました。
「……うぅん……」
朦朧とする意識の中で、昨夜の出来事が脳裏をよぎる。
(……千紗は?)
起き上がろうとしたその時、目に飛び込んできたのは――
ベッドの足元に正座し、じっと何かを見つめる千紗の姿だった。
「……お、おはよう?」
「晴道、すごいよ……まだ元気なの。昨日あんなにしたのに!」
千紗はまるで珍しい実験動物でも観察するかのような眼差しで、彼の“それ”を見つめていた。
確かに、晴道のものは朝立ちによって、立派にその存在を主張していた。
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千紗と晴道、幼稚園からの幼なじみだ。
けれど――
「晴道、起きなさーーい!」
ばさっ、と勢いよく布団をめくる。
「きゃーーっ! な、なにその状態っ! エッチ! へんたいっ!」
「し、仕方ないだろっ、朝なんだから!」
――みたいな展開は、一度もなかった。
あれはフィクションだからこそ成立する。
現実は、そんなにテンプレ通りにはいかない。
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「し、仕方ないだろ、朝なんだから!」
必死に言い訳するも、千紗の瞳は好奇心に輝いていた。
「ねえ、晴道。ネットで調べたんだけど――
朝立ちは“男性機能の定期点検”みたいなものなんだって。
寝てる間にちゃんと機能してるか、自動で確認するんだって」
「くっ、くわしいな……」
「予習してきたもん、ちゃんと」
さらっと言う千紗の語調が誇らしげで、思わず言葉に詰まる晴道。
だが、続いた一言に、彼の顔は引きつった。
「だからさ――“エロい夢でも見てたんじゃない?”なんて疑わないよ。
京子が出てきた夢とかだったら、ちょっとムカつくけどね?」
――図星だった。
千紗と京子と、なぜか三人で”して”いる夢だった。
やましさを悟られまいと、晴道は必死に言い訳を探した。
「そっ、それより……触るのやめてくれないかな……」
だが千紗はお構いなしに、その手で晴道をそっとしごきはじめる。
「……もっと元気になってきた。……もう一回ね?」
「えっ!?ちょ、ちょっとま――」
言い終えるより先に、千紗は晴道に覆いかぶさる。
そのまま、ふたりは再び身体を重ねた。
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終えて、汗ばむ額を寄せ合いながら、千紗がにこやかに囁く。
「……沙織さんに言われてたけど、“はめ”すぎちゃったね♪」
「…………」
晴道、撃沈。
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一方その頃、隣室では
千紗の声がまたも壁越しに届き、潤と京子は目を覚ました。
「千紗、朝から元気ね……」
京子はちらりと潤の股間を見て付け足す
「あなたもね」
「これは……朝立ちだからな!千紗の声は関係ないからな!」
なぜか言い訳がましい潤の様子に、京子はくすりと笑う。
「……お湯、溜めてくるね。一緒に入ろ?」
狭い湯船。裸で密着すれば、自然と熱も上がるというもの。
そのまま、こちらも“二人の朝の時間”が始まった――。
隣室。
壁一枚隔てただけなのに、
心の距離はこんなにも揺れる。
“今の相手”を選んでいるはずなのに、
かつて想っていた誰かの声に、身体が反応してしまう。
それは裏切りなのか。
未練なのか。
それとも――ただの人間らしさなのか。
潤と京子、
そして千紗と晴道。
それぞれがそれぞれの「現在」を抱きしめ直した夜でした。
祝福のはずの時間が、
誰かにとっては痛みを伴う。
でも、その痛みごと前に進むからこそ、
物語は動きます。
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次回、
一夜明けて、現実。
昨夜の高揚感は、朝の光の下でどう変わるのか。
戦友のような四人。
それぞれの帰宅。
そして――親。
笑い話で済むことと、
そうで済まないこと。
青春は、甘いだけでは終わらない。
新年4日目。
物語は、さらに動き出します。




