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三人のヒロインとシェアハウスすることになった僕は、全員を本気で愛して呪われてしまった。 ――告白は観覧車のてっぺんで  作者: iron-bow


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【第10話-02】祝福と呪いのあいだで始まる物語-花音

第10話、続きです。


感謝から始まる物語。


けれど――

「ありがとう」で終わらないのが、この物語。


ほんの数分。

ほんの少しの選択。


それが一年以上の“すれ違い”を生むこともある。


祝福と呪いは、いつも紙一重。


静かに、運命が動きます。


【Scene01.6:感謝】



1月3日


晴道は、緊張していた。

いや、正確には――高ぶっていた。


あのクリスマスイブの日から、どれだけ待ち遠しかったか。

千紗に告白してから、キスだけで我慢し続けた1年と2カ月。

それに比べたら、たった10日。

ほんの10日なのに、永遠にも思えた。


あの日、やっと千紗と結ばれて――。

思い出しただけで、危うく“して”しまいそうになる自分に、晴道は苦笑いした。


けれども、あのとき受け取った沢山のメッセージカードのことを思い出すと、

胸の熱がすっと静まる。


「クラスのみんなに、お礼を言わなきゃ」


あえて声に出し、自分を戒めた。


鏡の前に立つ。

母・沙織がコーディネートしてくれた服に袖を通す。


ネイビーのモックネックニット。白のインナーを少し覗かせ、黒のスリムチノ。

“ホテルにも行けるけど、ファミレスにも馴染む”――そんな絶妙なバランス。

足元はチャコールグレーのレザー調スニーカー、

肩には小さなレザーショルダー。

清潔感と少しの艶、そして――母親の意図。


(母さん、わかってるな……)


心の中でそう呟くと、自然と顔が火照った。


二人の幼なじみを迎えに行く前に、

晴道は小さく深呼吸をした。


(浮かれてばかりいられない。優香のことも、ちゃんと考えなきゃな。)


そう心に刻む。


(優香の受験が終わったら――その時は、ちゃんと答えを出そう。)


決意を胸に、家を出た。


2つ隣の氷室家へ向かう途中、

ふと目に入る阪本家の表札。


(梨子お姉ちゃん、大学から帰ってきてるかな……?)


しばらく会っていない憧れの顔が脳裏をよぎる。

あのひとなっこい笑顔。優しく叱る声。

会いたい気持ちが、不意に胸を締めつけた。


もし今晩が千紗とのお泊まりデートでなければ――

きっと、夜にでも訪ねていたかもしれない。


ほんの少しの偶然。

それが、二人の再会を一年と二カ月も先延ばしにする。


それもまた、運命。



氷室家のチャイムを鳴らす。


「はーい!」


「優香、もう行くぞ」


「えっ!? もうそんな時間? ごめん、ちょっと待ってて!」


「待たないよ。千紗と先に行ってる」


「ちょっとー! 待ってってばー!」


優香の声を背に、晴道は軽く笑って歩き出した。


もし、この時――彼が数分だけ待っていたら、

梨子と鉢合わせていたかもしれない。

けれど、晴道は“いつものことだ”と気にもしなかった。


ほんの数分の差。

それもまた、運命だった。



自宅の真下――如月家のチャイムを鳴らす。

ガチャリ、と音がして、すぐにドアが開いた。


そこに立っていたのは、千紗。


その瞬間、晴道の呼吸が止まった。


彼女は、控えめな装いの中に“期待”を忍ばせていた。

オフホワイトのリブニットに、淡いピンクのショートコート。

裾からのぞくのは、花柄刺繍のミディ丈スカート。

透け感のある黒タイツと厚底ローファーが、

彼女の小柄なシルエットを大人びさせている。


髪はゆるく巻かれ、片側だけリボンピンで留められていた。


「お待たせっ」


そう言って笑う千紗の頬は、寒さでほんのり赤い。

けれど、その瞳は――

まるで、誘うように艶やかだった。


(……俺の幼なじみが、可愛すぎる。)


今晩はこの子とホテルで――。


そう考えた瞬間、晴道は頭がくらくらした。


けれど、次の瞬間。

千紗がふいに袖を引き、笑った。


「行こっ。主役が遅れたら、立つ瀬ないよ」


今日の食事会は受験を目前にした最後の息抜き

でももう一つの目的

参加メンバーはクリスマスイブのメッセージカードを書いてくれた人を優先して誘っていた。


(ああ、そうだった。皆に感謝の気持ちを伝えないと)


晴道は小さく頷き、歩き出した。

その歩みには確かな決意が込められていた。



晴道・千紗・優香の3人がファミレスに到着すると、予約していたパーティールームに案内された。

そこには、晴道へのメッセージカードを集めた際、千紗があわせて声をかけていたクラスメイトたちが集まっていた。


多少の入れ替わりはあったものの、最終的に20人ほどが集まってくれたという。

莉子・瑛美・菜摘の3人も来てくれていた。


やがて時間となり、発起人の千紗が挨拶に立つ。


「みんな、集まってくれてありがとう。


受験のみんなは最後の追い込み直前だけど、今日は嫌なこと全部忘れて、パーッといこっ!

進路や就職が決まってる人は、おめでとう。でも卒業までは気を抜かないようにね。

受験じゃない組は、二次会もあるよ!」


「おーっ!」

「やったー!」


軽く盛り上がる声に千紗は笑顔を見せる。


「それじゃ、乾杯するからドリンクの準備してね~」


この日はブッフェスタイルのレストランで、フリードリンクも付いていた。

全員がグラスを手にすると、千紗が再び声をかける。


「みんな、大丈夫そうかな?

それじゃあ――乾杯の前に、晴道がひと言挨拶したいって」



あのクリスマスイブの日。

詳しい事情も話せないまま、


『今すごく悩んでいる晴道に、応援メッセージをお願いしたい』


それだけの呼びかけに、こんなにもたくさんの手書きメッセージが集まった。

“画面越しじゃなく、手で書いた方が気持ちが伝わるでしょ”――

そんな千紗のわがままに、皆が応えてくれた。


晴道は、ひと呼吸おいて言った。


「みんな、本当にたくさんのメッセージありがとう。

あの日まで、すごく悩んでたんだけど……みんなのおかげで、吹き飛んだ。

すごく嬉しかった。ありがとう」


晴道が一言挨拶を終えると、

場のあちこちから声が飛んできた。


「水臭いな〜、あんなの大したことないって!」

「そうよ、みんな晴道のこと好きだからさ!」

「っていうか、晴道っていつも考えすぎなんだよ〜」

「そうそう、もっと気楽に行こーよ!」

「私とつきあってー!」

「愛してるぅ!」


予想外の声まで混ざって、会場には明るい笑いが広がる。


そのとき、武と優香は声を出さずに黙って見守っていた。

実はこれは、千紗が事前に二人に頼んでいたことだった。


――「クラスの自然な反応が見たいから、晴道の挨拶のときだけ、ちょっと黙っていて」


だから、今この瞬間に響いた声たちは、すべてクラスメイトたち自身の素直な感情。

彼ら彼女らの“本音”が、そのまま言葉になっていた。


それは――晴道にも、しっかりと伝わっていた。


晴道の胸には、仲間たちの思いが、ちゃんと届いていた。



「それじゃ――」


千紗が手を掲げる。


「新年のお祝いと、みんなの頑張りにエールを込めて。かんぱーい!」


「かんぱーい!」


グラスが重なり、明るい声が響き渡る。


あとは、笑って、食べて、騒いで――

そんな、にぎやかで楽しい時間が流れていった。



食事会は、笑い声と共に終わりを迎えた。

受験組の何人かは「またね!」と手を振って帰っていく。


その背中を見送りながら、誰かが冗談めかして叫んだ。


「晴道、はめ外すなよー!」


その声に、晴道は小さく苦笑する。

そして――隣を見ると、千紗が頬を染めて俯いていた。


「……あれ? 千紗、顔赤いよ? 風邪でもひいた?」


優香が心配そうにのぞき込む。

その無垢な優しさが、逆に千紗の胸を刺した。


(……ごめんね、今は少しだけ独り占めさせて。

優香が大学合格したら、そのとききっと……)


心の中でそっと呟きながら、千紗は笑顔を作る。


「なんでもないよ。皆の熱気に当てられただけ」


「そっか。無理しないで、早めに帰るんだよ?」


優香はそう言い残して、武と一緒に店を後にした。

それを見送ったあと、ふたりの肩から同時に小さなため息がこぼれる。


(ふぅ……)


そのとき、近くに残っていた莉子が声をかけてきた。


「……なんかさ、雰囲気変わった?」


「え?」


「いや、いい意味でね。」


「莉子、優香と帰るんじゃなかったの?」


莉子は優香の親友だ。


「なんかね、最近あの二人、マジでいい感じなのよ。

塾でもずっと並んで座っててさ。なんか一緒に帰ったら空気読めてないかなーって」


「そんなに?」


「うん……ちょっと、もう見てるこっちが照れるくらい」


莉子は少しうんざりしたように言ったが、すぐに表情を和らげた。


「まぁ、あなたたち“あの夜どうしたの?”なんて野暮なことは聞かないけどさ」


その目はどこかあたたかく、そしてまっすぐだった。


「優香にも、チャンスあげてね」


「うん。それはもちろん」


「ありがと。じゃ、またね」


莉子はそう言って帰っていった。



その後、残っていたのは10名。

ちょうど半分ほどだ。


「じゃあ、カラオケ行こうかー!」


そう叫んだのは、篠原潤。

クラスの盛り上げ役


『晴道のモノマネで文化祭乗り切った思い出、今でも感謝してる(笑)

— 篠原潤』


彼の書いたメッセージカードが、ふと脳裏に浮かぶ。


「約束通り、保護者の承認取るよー!」


しっかり者の中里京子が、皆のスマホをチェックする。

彼女もさっき、篠原に続いて声を上げてくれた。


『そうよ、みんな晴道のこと好きだからさ!』


千紗は内心思っている――

(あの“ずっとずっと好きでした(匿名希望/千紗怖い)”って、絶対中里さんでしょ)


しかし実は、クリスマスの直後から「京子と潤が付き合い始めたらしい」という噂もあった。



一行はカラオケに向かう道すがら、

「2時間で帰る組」と「オール組」に自然と分かれていく。


晴道と千紗は、予定通り2時間で帰る予定だ。

意外だったのは、篠原と中里も帰る組だったこと。


さらに、最初はオール希望だった女子・里塚由美子が、

晴道が帰ると知って、そっと帰る組に加わってきた。


彼女のメッセージカードはこうだった。


『あなたと同じ高校に行きたくて、この学校を選んだんだ

— 里塚由美子』


さっきの食事会では――


『私とつきあってー!』

『愛してるぅ!』


声色を変えてあったが

どちらも彼女だったと千紗は確信してる。


由美子は、小学校5年のときに転校してきた。

中学・高校も一緒で、もしあと数年早く会っていれば、

きっと彼女も「幼なじみ」のひとりだっただろう。


千紗はそんな彼女のことが、実は結構好きだった。


本名でカードを書ける鉄のハート。

そして、あの自分の“好き”をネタにして、場を盛り上げてくれる優しさ。


もっとも――


高校1年のとき、由美子が晴道に告白しそうな雰囲気を察知して、

千紗と優香ががっちりと防いだことがあったのだが。



カラオケは、賑やかで騒がしくて、笑いが絶えなかった。

時間はあっという間に過ぎていった。


第10話は「花音編」と銘打っていますが、ここで描きたかったのは“祝福”そのものより、祝福が誰かにとっては呪いにもなりうる――その境目でした。

「ありがとう」って言えた瞬間に救われる人もいれば、逆に“言ってしまったから”逃げられなくなる人もいる。


そしてもうひとつ。

運命って、大げさな事件じゃなくて、数分待つか待たないかみたいな小さな差で、簡単に形を変える。


次は、その差が“夜”の方にも出ます。



次回、

隣の部屋。

そこにいるのは、たまたま居合わせた“他人”のはずなのに――

声ひとつ、空気ひとつで、感情は簡単に揺れる。


祝福の夜は、誰かの呪いを連れてくる。


「こんな場所で、こんな顔を見たくなかった」──でも、目を逸らせない。

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