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三人のヒロインとシェアハウスすることになった僕は、全員を本気で愛して呪われてしまった。 ――告白は観覧車のてっぺんで  作者: iron-bow


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【第09話-09】エピソード0 ― 始まりの物語-千紗

第9話、ラストです。


シェアハウスの始まり。

再会。

伏線回収。

そして、強すぎる新キャラの登場。


エピソード0として走ってきたこの章も、いよいよ締め。


千紗は“勝ちヒロイン”なのか。

それとも――。


最後まで、見届けてください。


【Scene22:それ、ラノベなら私が負けヒロインなんですけど!?】



千晴さん、そのスペックで

さらに晴道憧れの教授の娘って

千紗ちゃん、ピーンチ!


ってこれ、ラノベだったら幼なじみポジションの私って「負けヒロイン」じゃん!?

目の前で“メインヒロイン”がドーンと登場してきて、こっちは小学生時代からの積み重ねで勝負してるのに、たった数秒の涙で戦局ひっくり返されてる感じ。


いやいやいや、ちょっと待ってよ!


……でもね。

ねえ、知ってる? 現実世界ではね──

**「結婚相手は、半径500メートル以内に住んでいる(正確には生活圏が有る)確率が一番高い」**って、どこかの統計で出てるの。


あれよ、“恋の相手はすぐそばにいる”っていう、アレ。

つまり「物理的な距離」が「心理的な距離」になるっていう、超リアル理論。


ラノベじゃなくて、こっちは人生なんだから。


だから私は、勝ちヒロイン──なの!!


……のはずだった。


「私、まだ実家暮らしなんだけど……あのシェアハウスの目と鼻の先なの」


……えっ!?

まさかの千晴さん、生活圏かぶってる!?

え、半径500メートル以内、すでにクリアされてる!?


「えっ、千晴さんそれなのに2カ月も帰れなかったって?」


「工事終わると、どうしても会社に戻らなくちゃいけなくてね。そこからは進捗報告やまとめ作業が続いて……。

仮眠室に着替えも化粧道具も置いてあるし、もう自分の部屋みたいになっちゃってて」


……あー、それ、わかる。

笑えないやつ。


千晴さん、あのときの苦労がフラッシュバックしたのか、ふっと目を伏せて──

うっすらと涙を浮かべた。


その涙は、あの優香の純粋な涙と同じくらい綺麗で、儚げで、むしろ神秘的で──


……でも、千紗ちゃんにはわかる。


千晴さんは計算でやってる。

だけどそれは、ズルいとか、打算とかじゃない。


好きな人に、綺麗に見られたい。

そのために、自分の印象をコントロールしてるだけ。


好きな人の前に出るとき、可愛く着飾る──

それと何も変わらない、真っ直ぐで、純粋な乙女心。


だからこそ、その「計算」は──

全然いやらしくない。むしろ眩しいくらい。


「大変だったんですね」


晴道が、優しい声で言った。


……はい、出ました。

計算に気づけるはずもない天然ジゴロのこの一言。


同情心アップと同時に、好感度が爆上がり!


うわぁ、これは効く……

本当に、千晴さんすごい。


感情転移と代理恋愛を、完全に使いこなしてる。


恋愛経験が少ないって、誰が信じるのこの完成度。


強い、強すぎる。

圧倒的強者。バランスブレイカー。


ちょっと、この作者何考えてこんな強キャラ出してきたの!?

しかもこのタイミングで!?


いや、でも逆に言えば──

圧倒的強者は、最後に逆転されるポジションって、相場は決まってるじゃん!


だとしたら私、ボロボロになっても最後まで立ち続けなきゃいけないタイプのキャラじゃん!


……って思った瞬間、


「……千晴さん、大丈夫?」


晴道がそっと、千晴さんの肩に手を添えて──

涙をハンカチで拭ってあげた。


その距離、10センチ未満。

顔、近っ!


……ちーん

千紗ちゃん、昇天です。



【Scene23:宣戦布告と、覚悟の一言】



「社長、坂本戻りました」


外から声が掛かったのは、ちょうどそんなタイミングだった。


「うむ、できたのか?」

「はい、特上じゅ……9人前、確かに」


……社員の方かな?

一瞬「10人前」って言いかけたけど、ここにいるのは9人。

ってことは、奥様の分?


そんな私の疑問を、千晴さんは見事に見抜いた。


「奥様は出掛けられたわ。坂本君は私の同期。裏方を手伝う代わりに、滅多に食べられない高級寿司を御相伴にあやかれるって、浮かれてるの。

社長お気に入りの特上寿司、本当に絶品よ」


なるほど……そういうカラクリ。


「坂本くん、ダイニングルームに用意してくれ。奥が5、手前が4だ」


武がすかさず手を挙げた。


「あ、俺、手伝います」


そして当然のように理紗ちゃんもくっついていく。

知紗ちゃんも一瞬立ちかけたけど──行かなかった。


4人じゃ多すぎるし、何よりゲストを放置する形になる。

計算したんだろうな。ほんと、賢い。


しばらくして武が戻ってきた。


「準備できました」


蘭さんが立ち上がる。


「さ、移ろうか。和室も考えたんだけど、正座は疲れるだろ。今日はテーブルにしたよ」



廊下に出て、“しばし”歩く。

……いや、ほんとに“しばし”。


普通の家なら三歩で着く距離を、何歩も歩いてたどり着いた先。

私の目の前に現れたのは──


これ、ダイニングって言うの……?

キッチンから完全に隔離されてて、まるで高級レストランの個室みたい。


さっきの広い応接間があって、さらにこの人数で会食できる和室まであるって……

どれだけ広いの、この家……。


蘭さんが美優お母様をエスコートしながら言った。


「晴道君と武も奥……」


……まただ。理紗ちゃんの視線、炸裂(今日何度目?)。


「あっ、俺、坂本さんの手伝いもするんで、入り口側で」


と武が言ったので、


「あっ、じゃあ私が奥に行きますね」


千紗ちゃん、即応。

蘭さんと美優お母様が並べば、千晴さんと晴道が二人になる……それを避けようとしたんだけれども


私が千晴さんの前の席に座ろうとした──その瞬間だった。


「本日はお招きいただきありがとうございます。──千紗ちゃんは美優様のお隣、いかが?」


……完璧なタイミングだった。

私は自然と、美優お母様の隣に座る流れになり、

結果、千晴さんが晴道の正面をスムーズに確保する。


スムーズに千晴さんが晴道の前になるように誘導された。

……これだから出来る女は怖い。


入口側のテーブルでは、武が入り口すぐの位置に。

その隣が理紗ちゃん、そして正面に優香。

……自然すぎる布陣。


優香と武って、4人で出かけた時もペアになりがちなんだよね。

優香はいい加減、素直に武の事を好きって認めたらいいのに……。


今も何か、二人の空間って感じが漂ってる。

で、理紗ちゃんの視線がもう怖い。


優香の隣に座るしかなかった知紗ちゃんが、「助けて」の目線を送ってくるけど──

ごめん、それは蘭さんに言って。

今回はあなた貧乏くじ引いてるの。


……引っ越し終わったら、お詫びにランチでも誘おうかな。



千晴さんが湯飲みをそっと持ち上げ、にこやかに場を見渡す。


「ご縁に恵まれて、今日こうして皆さまとご一緒できたこと、本当に嬉しく思っています。……それでは、いただきましょうか」


その言葉を合図に、寿司桶の蓋を開く。


艶やかな赤身、大とろ、雲丹、いくら……

宝石箱……。


特上寿司は、なんか、凄かった。

舌の上でとろけるたびに、さっきの椅子取り合戦がどうでもよくなるくらい、衝撃だった。

坂本さんが浮かれてた理由、今ならよくわかる。


千晴さんとの会話も弾んだ。

大学のこと、近所のスーパーのこと、仕事のこと……

それから──晴道と千晴さんが二人きりになりそうな話題、例えば高橋教授の事とかは、明らかに意図的に避けていた。


負けてる。女としてだけじゃなく、人としても。

二人の空間を阻止って割り込んだ自分が、恥ずかしいって思えるくらいに。


晴道がトイレに立った瞬間、千晴さんがすっと声を潜めてきた。


「晴道君とは、幼馴染みなだけ?」


……この人、見てる。ちゃんと、見てる。


蘭さんは美優お母様と会話に夢中だけど、

美優お母様はきっと、聞こえてる。


ここで引いたら、完全に負け。


でも──不思議と、こう思ってた。

千晴さんになら、晴道を任せてもいいかもしれない……って。


だからこそ。


「晴道から、昨年末のクリスマスイブに『ずっと、一緒にいてくれるかい?』って言ってもらえたから──

私が、晴道を支えていくって、誓いました」


“晴道から”と“私が”を明確に。

“クリスマスイブ”で特別感を。

“支えていく”で覚悟を。

“あえて美優お母様に聞こえる声量”で、親公認を。


少しずるい。けど、それくらいしないと勝てない相手。


千晴さんは、柔らかく笑った。


「そっか。私、出遅れてるものね。でも……負けないわよ」


静かで強い、宣戦布告だった。




会食も終わり、坂本さんの運転で駅まで送ってもらうことに。

さっきより大きめの車で、千晴さんも一緒だった。


「申し訳ありませんが、高橋の家が駅までの通り道なんで、先に降ろしますね。ご了承ください」


「いえいえ、構いません」

美優お母様が、にこやかに応じる。


車内は静かだった。


シェアハウスの近くで、助手席の千晴さんが降りる。


「坂本君、ご家族のこと、よろしくね」


「それでは皆様、本日は本当にありがとうございました。またご縁がありましたら、よろしくお願い致します」


坂本さんが車を出すと、ふと語りかけてきた。


「俺……いや、私から言うのは変かもしれませんが、

ご近所ですし──高橋と、仲良くしてやってください。

あいつは本当に、いいやつなんです。

頑張り屋で、気遣い屋で、優しくて……でも、繊細で……」


「……あら、坂本さんは千晴さんのこと?」


美優お母様が、少しだけ意地悪そうに笑う。

そう、そうじゃないって分かってて、あえて聞くやつ。


「いや、同僚としてです。俺、彼女いるんで」


坂本さんは、照れもせずさらっと返す。

……ああ、やっぱり。千晴さんって、会社でも好かれてるんだ。


素敵な人だった。たとえ、恋敵だったとしても。

また会いたいな。




駅に到着し、私たちは車を降りた。

マンションへの帰り道、ちょっとだけため息をつく。


長くて、密度の濃い一日だった。

でも──これで、新生活が始まる。


私たちのシェアハウスでの青春が。



第9話、終わりました。


シェアハウス誕生の裏側。

母たちの因縁。

幼なじみ四人の再集結。

そして、千晴という強すぎる存在の登場。


“始まりの物語”は、これで一区切りです。


でも――

本当の意味で物語が動き出すのは、ここから。


次回、

また時は遡り、

登場キャラ全員の物語が動き始めます。


点だった出来事が線になり、

線が交差し、

やがて避けられない選択へ。


第10話、開幕です。

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