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三人のヒロインとシェアハウスすることになった僕は、全員を本気で愛して呪われてしまった。 ――告白は観覧車のてっぺんで  作者: iron-bow


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【第08話-32】それぞれの“一番”-和也・美由

クリスマスイブ、後半です。


華やかな展望台の景色の裏で、

それぞれの想いが、静かに整理されていきます。


“特別な瞬間”は、誰のものなのか。

そして、“一番”とは何を指すのか。


甘さの中に、少しだけ現実を混ぜた回です。

どうぞお楽しみください。


【Scene10.5:1年前12月】



知紗と理紗の双子と別れ、和也と美久は昼食を取ることにした。


夜は洋食のコースを予約していたため、昼はあっさりと――有名な牛タンのチェーン店を選んだ。少し行列はあったが、それもまた特別な一日に思えた。


そのとき――


「……あ、まずい」


和也がぽつりと呟いた。


美久が「どうしたの?」と目を向けると、ちょうど店の出入り口から出てくるカップルが視界に入る。


晴道と千紗だった。


「すっごく美味しかったね!」


「うん。でも……たぶん、千紗が一緒にいて、笑ってくれるから。余計に美味しく感じたんだと思う」


その言葉に、千紗はふと目を伏せ、頬を染めた。

その表情は、まさに“恋する乙女”そのものだった。

――キスしたい。

そんな心の声が、まるで吹き出しでも付いているかのように、表情から伝わってきた。


晴道はそんな彼女を見つめ、静かに微笑む。


「いいよ」


「……人の思考読むな!」


千紗はさらに顔を赤くし、むきになって言い返した。


「いや、顔に出てただけだけど」


晴道が少しだけ揶揄うように答えた、その瞬間――


「そんな口は、ふさいでやるっ!」


千紗は勢いよく背伸びして、晴道の唇を奪った。


――周囲の目なんて気にしない。まるで“世界にふたりしかいない”ような空気。


「……完全にふたりの世界だったね」


「最初から“周りの目”なんて存在してないみたいだったな」


和也と美久は視線を交わし、小さな笑みを浮かべる。そして――唇を重ねた。


その光景を、周囲の人々はどう見たか。

•片や、イケメン少年とロリ美少女の大胆なキス

•片や、頼れる男と超絶美人の静かなキス


……ため息しか出なかった。


それくらい、ふたりのカップルは輝いていた。


そして、牛タンはジューシーで、とても美味しかった。



【Scene10.6:1年前12月】



食後、和也と美久はスカイツリーの展望台へと登った。


「わぁ……!」


地上350メートルに広がる景色に、美久は素直な声をあげる。


和也は自然とカメラを構え、彼女の横顔にピントを合わせる。


シャッターが切られる。

今日という一日が、記録として、刻まれていく。


そのときだった。


「お二人でお撮りしましょうか?」


見知らぬ女性が、声をかけてきた。


和也は一瞬だけ警戒するが、女性からはまったく嫌な気配は感じられなかった。


「……よろしければ、お願いします」


お礼を言い、カメラを預ける。


撮影後、ディスプレイに映ったのは――

最高の笑顔で並ぶ、自分たちの姿


「ありがとうございます」


お礼を述べると、女性は少しだけためらいながら言った。


「……あの、もしよければ、私のカメラでもおふたりを撮ってもいいですか? すごく素敵で、記念に残したくて……。SNSには絶対載せませんので」


美久が、にこりと微笑む。


「はい。私たちでよければ、ぜひ」


和也も頷いた。



女性がスマホで撮影を終え、ふたりが離れると――


その場には、こんな会話が残された。


弘子(ヒロコ)、俺にもその写真送ってくれよ」


「いいわよ弘志(ヒロシ)。LINEで送るね」


ふたりは社内恋愛中のカップルだった。


「それにしても……綺麗な人だったな」


「ほんと、素敵だった」


その美しさは、弘志の目を奪った――が、弘子に嫉妬心は起きなかった。ただ、共に感嘆するだけだった。


「でもね、彼氏は……弘志のほうがイケメンよ」


弘子は“素敵よ”とは言わなかった。

弘志は気づいたが、それでもいいと思った。


このふたりもまた、静かに幸福に満ちていた。



その後も、何人もの人々が和也と美久に声をかけた。


「おふたりで、お撮りしましょうか?」


年齢も性別も問わなかった。

若いカップル、老夫婦、子ども連れ――誰もが、ふたりに惹きつけられていた。


“この恋人たちの思い出づくりに、自分も関わりたい”

そんな思いが、自然と口を開かせていた。


「私のカメラでも、撮らせてもらっていいですか?」


誰かに語りたかったのかもしれない。


「今日、すごく素敵なふたりを見かけたんだ」


「幸せそうでさ……少しだけ、その空気に触れさせてもらったの」


そういう気持ちだったのだろう。



やがて夕暮れ時が近づく。


和也と美久は、展望台の「SKYTREE CAFE 340」へと向かう。



【Scene10.7:1年前12月】




和也と美久がカフェに着くと、あまり待たされることもなく席へと案内された。しかも、窓際の特等席だった。


それは“幸運”に思えたが、実のところ、店員たちのさりげない連携による“演出”だった。

「素敵なカップル、窓際で夕日に照らされたらきっと映える」

そんな思惑が、どのテーブルを先に片付けるかという微妙な判断に影響していたことを、当のふたりは知る由もなかった。


やがて、オーダーしたドリンクが運ばれ、乾杯を終える頃には、

日が傾き始め、窓の外の街は少しずつ夕焼け色に染まり始めていた。


店内は徐々に賑わいを増していたが――

ふたりはすでに“自分たちの世界”に入っていて、周囲の気配など気にならなかった。


和也は、今日のために用意していた“2つ”のプレゼントを取り出す。


その時、不意に声をかけられた。


「……あの、おふたりのこと、また撮らせてもらってもいいですか?」


最初に展望台で声をかけてきた女性――弘子だった。

隣には、彼女の恋人である弘志がいた。


「スマホでも動画、撮りませんか?」


プライベートなプレゼント交換の瞬間を、まったくの他人に記録してもらうなど、普通ならためらうところだ。

けれど今日、十数人に写真を撮られ、心が少し麻痺していたふたりは、思わず頷いてしまっていた。


「それじゃあ、お願いします」


夕陽が、斜めから美久をオレンジ色に照らす。


その美しさに、弘子は夢中でシャッターを切り、弘志はスマホを固定して動画を撮る。


そんななか、和也が静かに切り出した。


「約束通り……今日、受け取ってくれるかい?」


そう言って差し出したのは、小さな箱。


開くと、中には――一組の指輪。

プラチナの地金に、小さなダイヤが添えられている。

それは、美由とお揃いで誂えたもの。今日は和也自身も身に着けず、箱に揃えて収めていた。


美久の脳裏を、かつての考えがよぎる。


「南と美由の後から出会った自分が、どうすれば勝てるのか?」

「何をしても二番煎じになる」

「だったら、いっそ同じ土俵で、上書きしてしまえばいい」


美由が誕生日に花束と一緒に指輪をもらったのなら、私は――

クリスマスイブの夕暮れ時、東京スカイツリーの絶景を前に、ロマンティックに、より印象的に――


そう思っていたのに。


いま、この圧倒的な空間と瞬間のなかでは、もう勝ち負けの意識なんて、どこかに飛んでいた。


「着けてもいいかい?」


和也の問いかけに、美久はうなずくしかなかった。


和也が美久の左手をそっと取り、その薬指に指輪をはめる。

そして自分の手を見せながら、自身の薬指にも指輪をはめた。


周囲は息を呑み、沈黙に包まれた。

涙ぐむ女性の姿もあった。


「もうひとつ、あるんだ」


そう言って、和也はもう一つの箱を差し出す。


「開けても、いいかな?」


「……うん」


箱を開けると、そこには――


プラチナのチェーンに、ラウンドブリリアントカットの0.17カラットのダイヤモンドが揺れるペンダント。

ティファニーだった。


「こんな高価なもの……」


美久は言葉を失う。


「美久に釣り合うものを、って考えたら、これくらいはしなきゃって思って」


和也はあっさりと、けれど真剣に微笑んでいた。


「着けてくれるかな?」


「うん」


美久は髪をかき上げ、首元を差し出す。


今日の美久は、すでにプラチナのチョーカーを身に着けていた。

その上に、ティファニーのペンダントが加わる――

違和感はなく、まるで最初からその組み合わせで着けられる運命だったかのように、自然に馴染んだ。


「……似合ってるかな?」


顔を真っ赤に染めながら、美久がたずねる。


「うん。すごく、似合ってる」


和也の言葉に、美久は恥ずかしそうに目を伏せた。


和也は、そっとネックレスのチェーンに指をかけ、軽く引いた。


顔を上げる美久に――キスをする。


その一瞬、ふたりは夕陽に照らされながら、まるで何かの祝福の儀式のようだった。


弘志の撮影するスマホが、ぶれることなく二人の表情を捉え続け、

弘子のシャッター音だけが、空間に静かに響く。


キスが終わり、ふたりが唇を離すと――


あたりの席から、静かに息が漏れた。

それまで身を乗り出していた観客たちは、ふっと腰を落とす。

まるで映画のエンディングを見届けたあとのように。


歓声も拍手もなかった。

ただ、深く澄んだ感動が、空間を包んでいた。



ようやく我に返った和也と美久は、顔を見合わせて小さく笑った。


弘子と弘志からスマホとカメラを受け取り、静かに礼を述べる。


その瞬間だった。


「キャーッ!」「成功してる!」「プロポーズじゃん!」


突然、別の場所から歓声が上がった。


「……え?」


自分たちのことではなさそうだと察したふたりが視線を向けると――

少し離れた席に、若いカップルがいた。


晴道と千紗だった。


その傍らでは、知紗がカメラを理紗がスマホを構え、ふたりを撮影していた。



『ドラマの撮影?』『でもカメラ見えない?』

『あれよあれ、最近のはスマホや一眼カメラでも撮るらしいよ』

『おめでとう!』『末永くお幸せに!』

『えっ、リアルだったの!?』『まるでドラマじゃん!』


店内はちょっとした騒ぎになっていた。


やがて、店内の状況を把握した千紗が、知紗と理紗を捕まえて説教を始める。

その様子を見た美久は、思わず吹き出してしまった。

和也もつられて笑ってしまう。


「ふふふっ」「はははっ」


「……あっちも、うまくいったんだね」

弘子がぽつりとつぶやく。


「ご存じなんですか?」

和也が尋ねると、弘子はうなずいて答えた。


「ここに入る前に、少しだけお話したの。すごく素敵な彼氏さんでね。上手くいくといいなって……プロポーズだったみたいね。

高校生かなと思ったけど、もう少し上だったのかな?」



その言葉を聞いて、美久はふと思う。


(高校3年生って聞いてるし……プロポーズっていうのは、たぶん周りの勘違い)

でも、――私たちだって、たぶん同じように勘違いされてる。


きっと今日、私たちを見た人たちは、プロポーズだと思ってくれてる。

それくらい、ドラマチックだったのだから。


ほんのさっきまで、美久は確かに感じていた。


――今この瞬間、世界は自分たちのためにある。

――この時間だけは、私たちが主人公なんだって。


でも、同じカフェの中で、同じ時間に、

もうひと組のカップルが同じように「主役の瞬間」を迎えていた。


美久は気づく。


この世界は、誰もが主人公なんだ。

みんなそれぞれにドラマがある。

誰もが、この瞬間を特別なものとして生きている。


そして、思う。


”美由を超える””美由の時間を上書きする”――

そんな考え方は、傲慢だったのかもしれない。


(美由も私も、それぞれに和也に愛されている)

美由には美由のドラマがあって、私には私のドラマがある。

それで、いいじゃないか。


ふと、南のことを思い出す。


彼女は、こう言っていた。

「私は和也の一番にしてもらえれば、それで他には何もいらない」


南にとっての“一番”は、妻という立場であり、和也の子どもだった。

それさえ手に入れば、美由や美久の存在も、和也が望むなら受け入れた。

ふたりのことも、人として認めていた。


「……南は、最初からこの考えに辿り着いていたんだ」

美久は静かに呟く。


「――勝てるわけ、ないよね」


そして、ようやく受け入れられた。


南は“妻”として一番に大切にされる。

美由は“彼女”として一番愛される。

私は“恋人”として一番恋される。


それで、いい。

そう思えた。


そして、美久と和也は――

晴道と千紗、知紗と理紗に声をかけることもなく、

静かにスカイツリータウンを後にした。


スカイツリーの一日、いかがでしたか。


華やかな景色の中で、

ふたりは確かに“特別な瞬間”を迎えました。


けれど同じ場所で、同じ時間に、

別のカップルもまた主役だった。


美久はそこで気づきます。


「勝つ」とか「上書き」とか、

そんな発想そのものが、もう必要ないのだと。


“自分の一番”を受け入れた夜の入口まで――

それがep84でした。



次回、

場所は移り、夜へ。


指輪の意味。

バニーの意味。

そして“み組”という新しい現実。


甘さだけでは終わらない、

それぞれの覚悟が形になります。


第8話最終話。

4人の関係は、次の段階へ。

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