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三人のヒロインとシェアハウスすることになった僕は、全員を本気で愛して呪われてしまった。 ――告白は観覧車のてっぺんで  作者: iron-bow


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【第08話-19】それぞれの“一番”-和也・美由

それぞれが、それぞれの「一番」を胸に抱えたまま――

夏は、まだ静かに続いている。



【Scene05.1:1年前8月】



如月千紗は、8月末の自分の誕生日までに、小泉晴道との関係に決着をつけようと考えていた。

そのため、「これで最後になるかもしれない」という覚悟で、二人きりでプールに行くことを決心する。


最初は、以前訪れた由比ヶ浜を考えた。

だが今、受験勉強に打ち込んでいる氷室優香の顔が浮かび、思い直した。


千紗たちのマンションは都内では南方の羽田空港にほど近い。そこから都心から見れば逆方向となる埼玉寄りで候補を絞った結果──

彼女が選んだのは、東武動物公園のプールだった。


ここなら、過去に誰とも行ったことがない。

気兼ねなく、新鮮な気持ちで遊べるだろうと考えたのだ。


計画は8月の第一土曜。

混雑を予測し、あらかじめプライベートスペース──ロイヤルシートを予約していた。



上嶋和也は、8月末までに新倉南との復縁にケリをつけなければと考えていた。

そうなれば、この2か月間のように美由と二人きりの時間は、もう持てなくなるかもしれない。


だからこそ、二人きりでプールに行くことを決心する。


いっそ沖縄まで行くことも考えたが、直前での予約は難しく、諦めざるを得なかった。


そして、和也が選んだのは、東武動物公園のプールだった。

4月に訪れて勝手もわかっており、距離もそう遠くない。


計画は8月の第一土曜。

混雑を予測し、プライベートスペース──ロイヤルシートを予約した。



その日、二組の男女が「ロイヤルシート」の前で鉢合わせた。

どうやら、隣り合ったボックス席を偶然予約していたらしい。


一組は、18歳くらいの若いカップル。

もう一組は、年上の社会人同士と見られるカップル。


「ごめんなさい、私たち、こっちみたいです」

少女が一瞬、隣のBOXに入りかけたのを慌てて訂正する。


「いえいえ、お気になさらず、可愛いお嬢さん」

年上の男性が、穏やかに微笑んで答えた。


──そして、彼はつい視線を奪われてしまう。


(小さな身体に、不釣り合いなボリューム感……

しかも、あのフリフリのビキニ。“見てください”って言わんばかりに揺れてる……

ロリ巨乳って言葉、この子のためにあるんじゃないか? 完全におじさんホイホイだ……)


彼は、自分がその罠にまんまと掛かっていることに気づかない。


少女はその視線に気づき、首をかしげて、にっこりと微笑んだ。


「ありがとう、かっこいいお兄さん♡」


──ズッキューンである。

見事にハートを撃ち抜かれた。

ハートを、ズッキューンである。

※大事なことなので二度言いました。


その瞬間、彼の横から無慈悲なチョップが飛んできた。


「何、見とれてるのよ」

連れの女性が軽く怒って、彼の頭を叩いたのだ。


彼はようやく現実に戻される。


──一方その女性は、若い男の子の方をじっと観察していた。


(……男の子って呼ぶのは失礼かしら。あれはイケメンね)


そしてふと気づく。

その男の子──つまり少女の彼氏が、自分の胸をちらちらと見ていることに。


(あらあら、刺激が強すぎたかしら?

連れの女の子も、たぶん私と同じくらいのカップだろうけれど──

胸そのものの大きさなら、私の勝ちね)


ミニ知識:カップサイズとは「トップバスト−アンダーサイズの差」!

同じカップならアンダーが大きいほうが、実は胸も大きいのです。

つまり、背が高く体格もある女性のバストは「実寸で」かなり大きい……!


チラ見する少年の控えめな視線。

それは、堂々とガン見する彼氏の視線よりも、妙に“くる”ものがあった。

──端的に言えば、ちょっと興奮した。


女性はその視線を楽しみながら、わざと胸を腕で寄せて強調し、

少しだけ前かがみになってみせる……。


「何やってんだよ!」

男性が、今度は彼女の頭に軽くチョップ。


「何見とれてるのよ!」

少女は、彼氏の頭をぽかぽか叩いている。


──そんな微笑ましい光景。

しかし実は、とんでもない邂逅だったことを──

この場にいた誰一人として最後まで知ることはなかった。



「何やってんだよ、美由」

和也が、美由の頭に軽くチョップを入れる。


「何見とれてるのよ、晴道っ」

千紗は、ぽかぽかと軽く晴道の頭を叩いている。


「「「「ぷっ」」」」

4人は顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。


「こんにちは、俺は上嶋和也。今年26歳、大学院に通ってる」

「初めまして、中田美由。今年24歳……仕事、してます」

美由は一瞬「仲居をしている」と言いかけたが、説明が面倒で言葉を濁した。


「見ての通り、付き合ってる」

照れもせずに言い切る和也に、美由は惚れ直し、思わずぼーっと彼の顔を見つめてしまう。


一方の千紗は、晴道の顔を覗き込んでアイコンタクト。

(お揃いのリングしてるし、夫婦かと思ったけど……付き合いたてって感じ?きっとバカップルだわ)

晴道はうなずく。言葉なんて必要ない。完全に通じ合っていた。

(ふふ……通じ合ってるのね。付き合ってるのかな?)

美由は自分たちがどう見られているかも知らず、どこか微笑ましく思っていた。


「初めまして、かずやさん、みゆさん。如月千紗と申します。今年18歳です」

その挨拶を聞いて、和也も美由もなぜか梨子の顔を思い出した。どこか雰囲気が似ていたのだ。

しかしその意味をふたりが知るのは、まだ先の話である。


「小泉晴道。同じく今年18歳。千紗とは幼なじみです」

(絶対カップルだと思ったのに……)

美由はそう感じたが、内実を知っていれば違和感などない。千紗と晴道はキスどころか、あんなところまで進んでいる。もう立派なカップルだ。


「みゆさん、実は私の母も“美優”っていうんです。『美しい』に『優しい』で」

「そうなんだ。私は『美しい』に『自由』の由よ。ちさちゃんと、はるみちくんはどう書くの?」

「千に糸へんに少ないで『千紗』です」

「おれは天気の晴れに、道路のみちで『晴道』」

「へぇ、そうなんだ」

ふたりは顔を見合わせる。

「ごめんなさい、私の知り合いに“千晴”って女性がいてね。千紗ちゃんの“千”に、晴道くんの“晴”なの」

「へぇ、偶然ですね」

千紗はにっこり微笑んだ。


「笑うとすっごい可愛い」

思った事を無意識に口に出してしまうのは、和也の悪いクセである。


──そして発動する。“恋慕特異点アフェクション・シンギュラリティ”。


気の流れに敏感な美由は、それに即座に気づいた。

(……この全自動シゴロが!)

だが、次の瞬間──美由は信じられないものを目撃する。


和也から千紗へと流れた“気”が、まるで反射するように千紗から跳ね返され、和也に戻っていったのだ。


「もう、和也さんったら!こんなに素敵な彼女さんがいるのに、こんな年下の女の子を口説くんですか?ぷんぷん♡」


結果、和也は千紗の笑顔に完全に魅了され、顔を赤く染める。


だが──気の流れを“視る”ことができる者など、美由の他にはいない。

他の誰から見ても、それはただ、和也が千紗に照れただけのように映っただろう。

美由は、それに乗ることにした。


「もう、和也ったら……。千紗ちゃんには、晴道くんみたいな素敵な彼氏がいるんだから、口説いたってムダよ?」


(あ、幼なじみだったっけ……まあ、いいか)

美由はそう思ってふと千紗と晴道を見ると、ふたりともほんのり赤くなっている。


──そして、美由の目には見えてしまった。

千紗と晴道の間に流れる“ピンク色の気”が、優しく、強く、絡まり合うように……。


(なに、このふたり……? さっきは千紗ちゃんが和也の気を跳ね返してたし……まるで、すごい“恋の気”を放ってるみたい……)


そこに晴道の、不意打ち。


「そうですよ、和也さん。千紗よりも、美由さんの方がずっと素敵なんですから。……美由さんを、大切にしましょうよ」


──そして、誰にも聞こえないような小声で、さらなる追撃。


「おっぱいも大きいし……」


その瞬間──美由は見た気がした。

晴道から自分に向かってまっすぐ届く、真っ直ぐすぎる“気”を──


──ズッキューンである。

見事にハートを撃ち抜かれた。

ハートを、ズッキューンである。

※大事なことなので、二度言いました。


結果、美由は和也と並んで真っ赤になる。



ここで、遅ればせながら美由の水着をご紹介しよう。


黒ビキニ。

ただそれだけで、すさまじい色気が爆発する。


それは、かつて見た花音の黒ビキニ。

そして写真でしか見たことがない、千晴の黒ビキニ。

それらに“対抗”するために選んだ一品である。


花音はボリュームがありすぎて、色気よりエロさが前面に出ていた。

千晴はバランスの良さで魅了するが、どこか清楚さを残していた。

だが美由のそれは──


エロすぎず、しかし圧倒的に色っぽい。

“色気”という意味で、最も完璧なバランスだった。


それは──晴道には、刺激が強すぎた。


……話が逸れた。


(この天然シゴロが……!)

たった一人、冷静さを取り戻した千紗は、こっそりと和也のお尻をつねった。


だが、分厚い水着越しでは、あまり効果がなかった。



こうして、年の差を超えた4人はすっかり打ち解けて、

この日一日──ずっと一緒に遊ぶことになる。


お互いの“本当の関係”を知らぬままに──。



二組のカップルはロイヤルシートに入り、和気あいあいと盛り上がっていた。


やがて美由がサマーベッドに横たわる。


「和也、日焼け止め塗って」


「はいよー」


和也は慣れた手つきでトップの紐を外し、美由の背中を露わにする。

豊かなバストがベッドに押しつけられ、脇から覗くラインが自然と視線を引き寄せる。


……晴道は、そこから目を離せなくなっていた。


「……」


(ぶぅ。)


千紗は頬をふくらませて唇をとがらせる。


「ねえ、晴道、私にも塗って?」


真似をするようにベッドに横たわり、振り返る千紗。

その顔には、拗ねたような、ちょっとだけ甘えたような――そんな表情が浮かんでいた。


晴道はハッと我に返る。


「わかったよ……」


小さく笑って、日焼け止めを手に取る。

千紗の背中にそっと指を滑らせながら、ぽつりと呟いた。


「千紗も、やきもち焼くんだな。……可愛いよ」


──「好きだな」

そう続けるはずだった言葉は、喉の奥で詰まり、声にはならなかった。


その様子を横目で見ていた美由は、ふと目を細める。


一瞬、晴道の体から濁った“気”が滲み出たのが見えた。


(……これは)


この二ヶ月、美由は「気」を見る力を意識して磨いていた。

体調が悪い人、感情が乱れている人、不安を抱える人……その“気”は、色で表れる。


いま晴道から感じたそれは──

かつて矯正前の和也が放っていた、あの「歪んだ気」とよく似ていた。


一方、千紗は晴道の言葉が途中で止まったことに気づき、首をかしげた。

反射的に、体を起こしかける。


「千紗っ! ダメ、今起きたら──!」


晴道の制止は間に合わなかった。


彼は、和也の真似をしていた。

背中に日焼け止めを塗るために、千紗のトップの紐を外していたのだ。


そんな状態で身体を起こせば──


「きゃあっ!」


千紗は慌ててうつ伏せに戻り、身体の下に敷いていたタオルで胸元を隠す。

ほんの一瞬だけ、豊かなバストが晴道の視界をかすめた。


まるで時間が止まったような感覚。

何度も触れてきたはずなのに──

直接目にしたのはこれが初めてだった。


その小さな先端までも、はっきりと。


彼の中で、何かが確かに弾けた。


幸い、他の誰にも見られてはいなかった。


(……ぜったい、責任取らせるんだから)


“責任”とはどういう意味なのか、自分でもよく分からないまま。

千紗はただ、強く、心の中で誓っていた。


晴道はというと、目の奥に焼きついた光景を振り払おうと、無心で機械的に手を動かしていた。



和也はそんな空気に気付くこともなく、のんきに口を開いた。

「やっぱり、梨子も連れて来た方が良かったかな?」


「なにそれ。愛しい彼女との二人っきりより、可愛い従姉妹と遊ぶ方がいいの?」

美由の声色は揶揄ではなく、むしろ軽いからかいだった。

すでに彼女の心も、二人きりの世界から、この可愛い子たちと一緒に遊ぶ時間へと傾いていたのだ。

だからこそ――梨子がいたら、もっと楽しいだろうとつい考えてしまう。


けれど、もし本当に梨子がここに来ていたなら……楽しいどころか騒ぎになっていたことを、この二人は知らない。


晴道はふと、和也の口にした「りこ」という名前から、マンション隣に住んでいた憧れのお姉さんを思い出した。


(そういえば、俺が初めておっぱいを見たのって、小学校低学年の頃だ)

幼い頃のお医者さんごっこ。

初めてのキス。

初めて触れた柔らかさ。


(俺が年上好きなのって、あれが原体験なんだろうな)


千紗も優香も知らない、晴道だけの秘密。

彼の好みの根っこにある記憶だった。


(お姉ちゃん、大学に行ってからほとんど会ってないけど……今、どうしてるんだろ)


晴道は和也の言った従姉妹の”りこ”と、自分が憧れた”りこ”お姉ちゃんを結びつけて考えることはなかった。

なにしろ今、目の前には――千紗の母と同じ名前を持つ、”みゆ”がいるのだから。


同じ名前の人は多くいる。

そう思い、同一人物の可能性など少しも考えなかった。



それからの一日、四人は遊び倒した。

大きなゴムボートで流れるプールに身を任せ、ウォータースライダーを何度も何度も繰り返した。

笑って、はしゃいで――夏を全力で楽しんだ。


だがその間も、晴道の視線は何度も美由の胸に引き寄せられていた。



二人と別れた千紗は、心に一つの決意を固める。

(今月末の誕生日までに、必ず決着をつける)そう決めた。



二人と別れた和也と美由は、心に一つの決意を固める。

『それを実行するのは、来週末』そう決めた。



【Scene05.2:1年前8月】



和也と美由は、その日そのまま帰らず、ラブホテルに泊まった。


二人は――“見事にハートを撃ち抜かれた”ままだった。

だからこそ、その熱を冷まそうとした。


ロリ巨乳への火を消すため。

正統派イケメンへの火を消すため。

揺れるフリルのビキニの幻を消すため。

突き刺さる視線の記憶を忘れるため。


勢いある火を消すには、それ以上の爆発をぶつけるのが一番だ。


だから二人は、ラブホテルで爆発した。

声が隣に届かぬよう場所を選び、互いの熱をぶつけ合った。

和也は六月以来、久々に野獣となり、美由もまた激しかった。


やがて二人は大満足し――すべてを忘れた。いや、大事な事を忘れていた。



翌日、昼過ぎ。朝からもう一度頑張ったあと、二人が和也の部屋へ戻ると――。


玄関先に梨子が座り込んでいた。


「和也お兄ちゃん、美由お姉ちゃん……昨日も今日も、どこ行ってたの……?」

泣き出しそうな顔でこちらを見上げる。そういえば、梨子が付いて行きたがるのを恐れて、予定を一切知らせていなかった。


和也は冷静にたしなめる。

「だから前から言ってるだろ。家に来るときは、ちゃんと連絡しろって」

実際、この二日間、梨子からの連絡は一度もなかった。


「ふぇーーん! おにいちゃんが、りこをいじめるーー!」


出た、彼女の“自分を梨子呼び”モード。

こうなった梨子は無敵だ。誰にも止められない。


「わ、わかった! お兄ちゃんが悪かったから! な、部屋に入ろ」


「可愛がって」


「えっ……」

それがどういう意味か、和也には一瞬で分かる。


「でないと、ここで大声で泣いちゃうもん!」

周囲の視線が集まる。さすがにそれは困る。


「……わかった、わかったから! たっぷり可愛がってあげる!」



その日の梨子は激しかった。

置いていかれた寂しさ。

二日間、玄関で待ち続けた鬱憤。

それらすべてをぶつけるように。


昨夜、和也と美由がわざわざ場所を選んだ意味など、真っ昼間の騒ぎで一瞬にして吹き飛んだ。

しかもその矛先は美由にまで及び、霞の里へ帰るぎりぎりの時間まで続いたのだった。


ようやく梨子を満足させ、見送ったあと。

和也は一人、天井を見上げる。


「……こんなの、続いたら俺、引っ越さなきゃならないな」


そして静かに決意を固めた。

「それも――来週末、南との決着をつけてからだ



【Scene05.3:1年前8月】



里に戻った美由は、疲れを押して花音を呼び出していた。

新幹線の定期代を援助してもらう代わりに、和也の様子を報告する義務を負っていたからだ。

普段は建前に過ぎない報告だが、今日は本当に伝えるべきことがあった。


「どうしたの、美由?」

「花音、昨日、とんでもない子に会ったの」

「とんでもない?」


美由は、そこで起きたことを詳しく語った。


──無意識に“気”を操っているらしいこと。

──和也の“恋慕特異点アフェクション・シンギュラリティ”を跳ね返したとしか思えない少女がいたこと。

──さらに、その“恋慕特異点”と同等の力を自分に放ってきた少年がいたこと。

──そして、自分までもそれに当てられてしまったこと。


解除のためには、和也と二人で本気の房中術を行使するしかなかったこと。


「そんな……気の天才たるあなたが……。確かに、とんでもない子たちね」

「いや、天才だなんて……」

「何を言っているの。里一番の気の達人・葉月を超えて“気”を視ることができて、房中術の一子相伝である私を超えて使いこなす、あなたでしょう?」


花音の声は、いつしか畏怖を帯びていた。

「それに――超人のような和也を圧倒する子までいるなんて」


そして、遅ればせながら気付く。

「……って、子供なの!?」


「え、ええ。高校三年生。晴道君と千紗ちゃん」


その名を聞いた瞬間、花音は激しく動揺した。

「もう一度」

「だ、だから……晴道君と千紗ちゃん」

「漢字は? 苗字は?」

「小泉……千晴の“晴”に道路の“道”で、晴道。

如月……千晴の“千”に糸へんに“少”で、千紗。

そうそう、母親が私と同じ“みゆ”。『美しく優しい』と書くらしいわ」


「……そんな、そんなことが」


「花音、一体どうしたの?」

「そうね。あなたも知っておくべきだわ。これから話すことは他言無用よ。和也にも」

「わかったわ」


美由は、ただ事ではないと理解した。


「和也が一ノ瀬家に連なることは話したわね」

「ええ」

「そのご先祖は双子の兄妹だった。そして、房中術を使えたがゆえに追放されたと記録にある」


花音は遠い目をした。

「ここからは私の推測だけれど……その兄妹は共に房中術を使え、やがて暴走の末に交わったの。そして再び双子を宿した。

その双子のうち、ひとりが上嶋の家系となり和也へ、もうひとりが雨宮の家系となり、晴道と千紗へと繋がった」


「でも、苗字が違う……」

「千紗の母・美優の旧姓は雨宮。そして、晴道の母の旧姓も雨宮。二人は“はとこ”にあたるのよ」


「じゃあ……あの二人は、私たちや和也の遠い親類?」

「ええ。和也に、より近いわね」


美由は息を呑んだ。


「……あ。私、晴道君から、かつての和也と同じ“歪んだ気”を感じたの」


花音は静かに頷いた。双子が産んだ双子――狂気の血筋の末裔。


(注意する必要があるわね)


その情報は翌日、里の幹部たちにも共有された。

もしも接触があれば――最重要監視対象とする。

里は静かに、そう決断したのだった。



【Scene05.4:1年前8月】



あのプールの日から数日後。

如月千紗は、決心したことを実行しようとしていた。

可愛らしいブラウスにミニスカート。

小さな勇気を身にまとって、晴道の家を訪ねた。


その日、ふたりはソファで寄り添いながら映画を観ていた。

画面に映るのは王道のラブロマンス。――だが、むしろ有名なのは、濃厚すぎる濡れ場だった。


「これって……R18じゃないの?」

「……うん、R15みたいだよ」


互いに言葉少なに、ただ画面を見つめる。

やがてラブシーンは本番に差し掛かり、主人公の男がヒロインの胸元に吸いついていった。


晴道の腕には、千紗の柔らかな膨らみが押し当てられていた。


(千紗は、本気なんだ。)


晴道は正しく理解していた。

だからリモコンを取り、映画を一時停止する。

止まった画面には、男がヒロインの胸を愛撫する姿が大写しになっていた。


晴道は静かに、千紗の顎に手を添え、優しく上を向かせる。

そして、唇を重ねた。


熱のこもったキスに、千紗もすぐに応えた。


晴道の手が千紗の胸に伸びかけたとき――。

「待って……」

千紗は自らブラウスのボタンを外しはじめる。

やがて露わになる、可愛らしいブラジャー。


「いいよ……」

小さな声。視線を逸らした顔は真っ赤で、目を閉じていた。


晴道の頭には、もはや優香の姿は浮かんでいなかった。


そっと胸に触れる。

「やわらかい……」


今まで何度も触れてきたはずなのに、直接目にして触れるのはまるで違った。

やがてブラジャーに手をかけたとき――。


「待って」

晴道の手が止まる。

「もう一度……キスして」


その願いに応えると、千紗は器用に背中へ手を回し、ホックを外した。

ふわりと緩むブラジャー。

晴道がそっとめくり上げると――あのプールで一瞬だけ目にしたものが、いま白日の下にさらされた。


「ごめんね……美由さんほど大きくはないけど……。私のなら、見るだけじゃなくて、自由にしていいんだよ」


晴道の頭が沸騰した。

思わず、その先端に吸いつく。


「あっ……」

千紗が声を上げる。

晴道は夢中になり、さらに深く吸い立てた。


「あぁ……」

やがて千紗の体が小さく震え、達した。


晴道は込み上げる愛しさを伝えたかった。

――千紗、好きだよ。

そう言いたかった。


だが、その言葉は喉に張り付いたまま、一向に外へ出てこない。

まるで呪いのように。


晴道の顔は苦しげに歪む。

しかし、生まれて初めての快楽に心を奪われていた千紗は、その異変に気付くことができなかった。



翌日、千紗はラフにTシャツを着ていた。

晴道は、それをめくり上げた。


そうして、それは毎日の日課のようになっていった。

晴道の苦しげな表情は、やがて無表情へと変わっていく。


けれど千紗は、その関係に夢中になるあまり気付かないまま。

そして――千紗の誕生日が迫ってきた。


晴道は、それ以上の行為へと進むことはなかった。


「偶然」なんて言葉で片づけてしまえば、それまでです。


同じ日、同じ場所、同じロイヤルシート。

年の差も、立場も、背負っているものも違う二組が、何も知らずに笑い合う。


でも読者だけは知っている。


あの邂逅が、

ただの夏の思い出では終わらないことを。


和也と美由。

千紗と晴道。


それぞれが「自分にとっての一番」を選ぼうとしている。

けれど――“一番”は、必ずしも両想いとは限らない。


次回、

約束。

誠実。

そして、それぞれの“覚悟”。


南の前で示された和也の決断は、

三人の関係を、静かに――だが確実に変えていく。


一方、夏の終わり。

千紗が選んだ「身を引く」という答えは、

優香と晴道の心に、思いもよらぬ波紋を広げ始めていた。


それぞれが信じた“一番”。

だがその選択は、本当に誰かを幸せにするのか――。


運命はさらに静かに軋み始める。

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