【第08話-16】それぞれの“一番”-和也・美由
ほとんど毎日のように入り浸る部屋。
ゲームをして、笑って、触れ合って。
変わらないはずの夏の一日です。
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【Scene04.1:1年前7月】
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如月千紗は、ほとんど毎日のように小泉晴道の家に入り浸っていた。
「えい、はっ、やっ、とうっ!」
「はい、はあ、そりゃ、はっ」
名目は、クリスマスに千紗がプレゼントした対戦ゲームでの勝負。
でも──始めて半年、さすがに飽きてきている。
【YOU WIN】
「晴道つよーい♪」
「……じゃあ、いい?」
「うん。ご褒美だよ♡」
千紗はソファに深く腰を下ろし、両手を広げた。
そのまま晴道が覆いかぶさって、激しいキスを交わす。
千紗の表情がすぐにとろける。
すっかり育った胸に伸びる晴道の手。千紗はもう、止めようとすらしなかった。
──むしろ、もっと触れて、もっと感じさせて、そう言わんばかりに胸を押しつけていく。
晴道の息が熱くなる。
(私の身体で、晴道が興奮してる……)
そう思った瞬間、千紗の身体の奥がじんわりと熱を帯びた。
服の裾から手が滑り込む。
ブラを押し上げ、柔らかな膨らみを直接なぞる指先。
敏感な突起に触れた瞬間、千紗の体がビクリと震えた。
──だが、次の瞬間。
晴道の手がピタリと止まり、そのまま抜けていった。まるで、何かに怯えたかのように。
(もっと……してほしかったのに)
心とは裏腹に、千紗は晴道の体を軽く押した。
「ここまで、だよ」
少しでも動けば、また唇が触れてしまう距離。
まだ息すら整っていない。けれど、その一言に晴道は素直に従って身を引いた。
(本当は……最後までしてほしかった)
そう思いながら、千紗は想像してしまう。
(もし晴道が、このまま手を下に伸ばしてきたら?)
(“いいよ”って言ったら……どうなってたんだろ)
「ちょっと、トイレ行ってくるね」
逃げるように立ち上がる。
──こんな状態、誰にも知られたら……恥ずかしくて死んじゃう。
トイレで慌てて自分を拭きながら、千紗はそう思った。
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この夏、二人は受験生。
推薦枠はほぼ確実で、真面目に勉強さえしていれば問題なかった。
──けれど。
同じ大学を目指す氷室優香は、模試の判定が伸び悩んでいた。
今日も塾に行っているはずだった。だから、千紗と晴道は、こうして部屋で静かに過ごしていた……つもりだった。
五月のあの日。
優香の誕生日パーティで、晴道と優香を二人きりにしようと仕掛けた作戦が失敗して以来──
晴道のスキンシップは、明らかに増えていた。
千紗も、それを受け入れていた。
けれど、晴道は決して「一線」を越えようとはしなかった。
(私は、いつでもいいのに)
下着だって、見られても大丈夫なものを選んでいた。
今日だって、勝負下着。
──危なく、着替えに帰るところだった。
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その夜。
千紗はひとり、ベッドの上でため息をつく。
「……こんな関係、いつまでも続けてたら駄目だよね」
でも──
「私の誕生日までは、私の番でいいよね……優香」
そっと呟いた声が、夜の静寂に溶けていった。
あと一歩。
その一歩を踏み出さない関係も、きっとある。
止めたのは理性か、怖さか、優しさか。
それは、まだ誰にもわからないままです。




