【第18話-18】─ 番外編:芸能界編二期
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【Scene21:閑話(母)】
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第十話の序盤、病室での葉月のシーンを編集室で監督がチェックしている時のことだった。
「おい、あの母親役の人、一体何者だ? とても素人の演技じゃないぞ……」
監督は、画面から放たれる圧倒的な凄みに驚愕を隠せない様子で声を上げた。
「もの凄かったですね……」
隣で一緒に画面を見つめていたカメラマンも、感嘆したように深く頷きながら呟く。
「えっ、監督知らないっすか? ――霞の宿の女将ですよ」
そこに、後ろからシナリオライターがひょっこりと口を挟んできた。
「あれだけメディアに露出してんだ、知らないわけないだろ!
そういう次元のことを言ってるんじゃない。
なんだよあの演技力は。
撮影開始前に素顔の本人に会っていなきゃ、俺は本物の末期癌患者を連れてきたのかと思ったぞ。
……それに、あの庄蔵とかいう爺さんもだ」
「すまんっす、冗談っす。
――前も言ったっすけれども、俺、基本的には役者の個性を活かす“当て書き”が好きなんすよ。
だから霞の宿のことも、裏まで徹底的に調べたんっす」
「そこまでやるのか。……それで、何が分かったんだ?」
監督とカメラマンは、ライターが掴んだというそのリサーチ結果に純粋な興味を惹かれた。
しかし、ライターはどこか遠い目をして、揶揄うような苦笑いを浮かべた。
「『み組』……その名前くらいは、当然わかるっすよね」
「ああ、この業界にいるんだ、知らないわけがないだろう。
下手に触っちゃいけないアンタチャブルな存在だな」
「霞の宿――いや、あの『霞の里』はその上位組織です。
……っあ、これから話す事は、本当に他言無用でお願いしますね」
いつの間にか、彼の特徴だった「〜っす」という軽い口調は完全に消え去っていた。室内の空気が、一瞬でしんと冷たく張り詰める。
「み組にまつわる、色々な噂は知ってますよね」
「ああ……確か、徳川家康が創設したお庭番の系譜に連なるとかって話だろ?」
「あれ、事実だそうです。――徳川家康が創設した、って部分以外は」
監督は思わず、ゴクリと息を呑んでつばを呼び込んだ。
「だから……草。つまり本物の忍者ですね。
彼女らはその末裔で、今も人を欺き欺す技を受け継いでいるそうです」
「マジな話なのか、それ……」
監督が完全に呑まれてそう呟いた、その瞬間だった。
「――信じるか信じないかは、あなた次第です」
シナリオライターは、不敵にニヤリと笑ってあの決め台詞を呟いた。
「……って、おい! そのネタかよ! 俺だってその都市伝説YouTubeチャンネルくらいは知ってるぞ!」
監督が緊張から解放されて笑った瞬間、シナリオライターは真顔に戻って言葉を続けた。
「中田勝行って男、知ってますか?」
「ああ……社会派の切れ物ルポライターだな」
「俺の従兄弟なんです」
「ほう。それで、その人物がどうした?」
「監督が今、口に出したその都市伝説チャンネルの配信者――正体が、彼です」
「なっ……」
「そして彼は、『み組』のお抱えライター」
「つまり……どういうことだ?」
「世の中、知らない方が幸せだってこともある、っていう話っすよ」
シナリオライターはそう言って、再びいつもの軽い調子に戻って話を締め括った。
監督はふと考えた。このシナリオライターは、その従兄弟から一体どれほどの”本物の真実”を聞かされているのだろうか、と。
だが、すぐに頭を振った。
「あぁ……そんな裏の事情なんて、あの画面に映った演技が素晴らしかったという事実には、何の関係も無いよな」
知らない方が良いこともある。
監督はそう自分を納得させ、再び目の前の素晴らしいフィルムのチェックへと戻るのだった。
次回予告
「晴道が千晴を呼び捨てした時、花音が明かす、五年間秘め続けた本音とは」
風にかき消された晴道と千晴の決意の先に、若女将が見せた最後の笑顔の意味
「今も羨ましい。――晴道の隣にいられる、千晴姉さんが羨ましくて、仕方ない」




