【第18話-17】─ 番外編:芸能界編二期
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【Scene20:病床】
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第十話
二人が会津若松駅に到着する場面から始まった。
改札を出た二人を出迎えたのは、一人の年配の男性だった。
「庄蔵さん、貴方が自らお迎えに!」
千晴が驚きの声をあげる。画面の隅に、音もなくテロップが表示された。
『林庄蔵。花音の祖父の従兄弟。かつて霞の宿の支配人を務めていたこともある。花音のことを“姫さま”と呼び、本当の孫のように可愛がっている。御年84歳』
「庄蔵さん、もうお年なんですから、無理をなさっては駄目ですよ」
晴道がいつもの飾らない口調で声をかける。
「いえいえ、この爺や、生涯現役を貫きますぞ」
庄蔵はシワの刻まれた顔にニヤリと不敵な笑みを浮かべた。しかし、その直後、彼の表情に少し――いや、かなり深い陰りが走る。
「里に行く前に……まずは葉月様のお見舞いに行っていただきますかな。本日は、姫さまは宿を離れられぬ状況ですので」
「……分かりました」
千晴が、何かを察したように伏し目がちに答えた。
ここからは、あえて何の説明テロップも流れなかった。
劇中の説明などなくとも、葉月が花音の母親であること、彼女が病床に伏せっており容態があまり良くないこと。
そして千晴もまた、花音との深い交流を通じて何度も彼女に会っており、家族同然の付き合いをしてきたこと――そのすべてが、二人の交わす視線と佇まいだけで、視聴者へ痛いほどに伝わってきた。
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庄蔵は、駅前にある自宅の駐車場へと二人を案内しながら、静かに口を開いた。
「葉月様は、ここから車で十五分ほどの場所にある大学付属病院に入院されております」
そこで一度言葉を切り、車の手前で二人を振り返って続けた。
「……お二人は、お付き合いされていらっしゃるのですな」
「はい」
真っ直ぐに答えたのは、晴道だった。
「――では、姫さまのことは“ご友人”として、どうかよろしく頼みますじゃ」
本当は、恋人として花音を救ってほしかった。庄蔵の胸の内に渦巻くそんな無念と切なさは、誰の目にも明らかだった。
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病室のドアを開けると、ベッドに横たわる葉月の姿があった。
顔色はひどく悪く、頬はこけ、豊かな髪も荒れてしまっている。
末期癌、もう長くはない――。視聴者の誰もが、一目でそれを理解した。
「千晴さん、晴道くん、よく来てくれましたね。こんな格好でごめんなさい」
よくあるドラマのように、ここで分かりやすく咳き込んでみせるような安っぽい演出は一切ない。
しかし、ほんのわずかな目元の揺らぎ、指先の微細な硬直だけで、葉月は癌による全身の激痛と凄まじい倦怠感に耐え続けていることを表現してのけた。
晴道は、胸を締め付ける悲しみを必死に堪え、絞り出すように言葉にした。
「葉月さん……こんな時に、本当に不謹慎なんですが……伝えないといけないことがあります」
葉月は、晴道と花音の関係をよく理解していた。
五年間も付き合っていたのだ、何度も会いに来たこともある。
葉月と晴道の二人は、一切の説明ゼリフなしに、その『積み重ねてきた五年の月日』を空気感だけで完璧に表現しきっていた。
葉月の放つ迫真のオーラが、晴道の演技の限界値をさらに引き上げているのだ。
「ふふ、今の二人の顔を見たら、誰にだって分かるわよ。……何も言わなくても良いのよ?」
「いいえ、俺はちゃんと言わないといけないんです。俺は今、千晴さんとお付き合いしています。それを、花音さんへ伝えにきました」
晴道の真っ直ぐな言葉を受け、葉月はゆっくりと、窓の外に目をやった。
その視線の先、山の中腹には『霞の里』がある。
葉月が、そして娘の花音が生まれ育った地――。
やがて、そう遠くない日に葉月はそこで地に還るだろう。
そして、それはずっと遠い未来に、花音も同じ。
産まれた地、そして、決して離れられぬ地。
それこそが『霞の里』だった。
ナレーションもテロップも一切ない。葉月はその圧倒的な演技だけで、その重き宿命のすべてを視聴者に語って見せたのだ。
「花音のこと、友人として支えてあげてね。美由と由美も側にいてくれるけれど、あの子、意外と寂しがり屋だから……」
葉月は、切なく、しかしすべてを包み込むような深い母親の顔で笑った。
「花音は、私にとって双子の妹も同然の存在です。だから、例え住む世界が離れても、私は姉としてあの子を支え続けます」
ドラマ内の設定でも、千晴と花音は同じ日に生まれたことになっている。
しかし、登場人物一覧の解説を読んでいない視聴者にも、千晴のその言葉の重みは瞬時に伝わった。
短い面会を終え、二人は病室を後にした。重い沈黙を乗せた庄蔵の車は、『霞の里』へと向かって、静かに走り出すのだった。
次回予告
「末期癌の病床を演じきった『霞の宿の女将』の凄み」
制作陣の背筋を凍らせる、み組と霞の里にまつわる『本物の機密』とは――
「世の中、知らない方が幸せだってこともある、っていう話っすよ」




