【第18話-10】─ 番外編:芸能界編二期
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【Scene13:閑話(CM)】
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それは、花音との涙の別れのシーンが終わり、画面が暗転した直後のCM枠での出来事だった。
いつも流れるはずの、あの有名オーディオメーカーのCMは流れなかった。
画面に映し出されたのは、どこか長閑で、しかし厳かな空気を纏った田舎の風景。
古く、格式と威厳さえ感じさせる日本家屋の佇まい。
湯煙を上げる、趣の異なる幾種もの温泉。
そして、静謐な空気の中で凛と佇む、和服姿の仲居たち――。
画面に映るその場所こそが、”霞の宿”であった。
やがて、画面に見目麗しい二人の美女が登場し、落ち着いたトーンで説明を始めた。
「私どもは、霞の宿への特別なツアー旅行を各種取り揃えております」
「新館、別館、新別館、そして本館。お客様のニーズに合わせた様々なグレードをご準備いたしました。
各地の主要都市からの交通費と宿泊費をすべて含んだ、特別なプランをご提案させていただきます」
その洗練されたプロモーション映像の中には、”一ノ瀬花音”という名前はおろか”女将”や”若女将”という直截的な表現すら一度も出てこなかった。
しかし、ドラマの悲恋によって情緒を激しく揺さぶられていた視聴者たちは、画面に向かって痛烈に、それこそ狂おしいほどの飢餓感を抱いて渇望した。
『花音さんに逢いたい』と。
あえて本人を出さずに、視聴者の枯渇感を限界まで煽る引き算のマーケティング。
その目論見は見事なまでに的中し、ツアー申し込みサイトへのアクセスは膨大な数になった。
画面の案内人を務めた二人の美女――中田美由と村澤美久。
当然ながら、このツアーを企画・運営している旅行会社は「み組」が新しく立ち上げた企業であった。
新別館が稼働を始めてから、五年。
旧別館が全面リニューアルされてから、三年。
そしてかつての新規顧客の入り口だった新館は、さすがに経年による古びが見え始め集客力を失い。
一時期の爆発的な『霞の宿ブーム』の熱狂も、時代の移り変わりと共に薄れつつあった。
全体の稼働率が少しずつ落ち込んできているという、シビアな経営上の現実。
――そこへ投入されたのが、今回の花音のドラマ出演という名の「最大のテコ入れ」であった。
さらに、これまでは宿は”お客とは直接やりとりをしたい”と手をつけていなかった”ツアー会社からの予約受付”という新たな集客ルートの開拓。
もっともツアー会社を経由させようが直接予約させようが、今や霞の宿の予約システムはすべて「み組」が一元管理して牛耳っているのだから、彼らにとっては財布のポケットが変わるだけの話であり、何も変わることはないのだが。
ドラマの興奮をそのまま経済活動へと直結させるこの施策は、見事なまでに牙城を穿った。
かつての熱狂を完全に呼び覚まされた『霞の宿』の稼働率は、この瞬間を境に、一気にとんでもない垂直立ち上げを見せたのである。
次回予告
「剥き出しの情熱が虚構を凌駕する!」
『絶対に晴道に選ばれたい』――結末を知らぬ少女たちの120%のアタックに、千晴の不敵な視線が突き刺さる――
「私の“番”は、まだ……」




