↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三人のヒロインとシェアハウスすることになった僕は、全員を本気で愛して呪われてしまった。 ――告白は観覧車のてっぺんで  作者: iron-bow
【第18話】─ 番外編:芸能界編二期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

197/215

【第18話-09】─ 番外編:芸能界編二期


【Scene12:助演女優】



第四話の、あの花音との涙の別れが終わり、画面が暗転してCMへと切り替わった。

その瞬間、視聴者たちはあることに気づ目を見開いた。


「まだ三十分足らずしか経ってない。まだ後半があるんだ!」

そして

「オープニングもCMも一度も挟まなかった!? もう三十分近くも経ったのか!」


と相反する事実に驚愕した。


画面に引きずり込まれるような、圧倒的な没入感。

オープニングはおろか、番組前半の提供クレジットすらもスキップして物語を一気に見せたその構成に、制作陣とテレビ局側の”この回を最高の形で届ける”という凄まじい執念が透けて見えていた。



CMが明けると、画面には失恋のどん底で打ちひしがれる晴道の姿が映し出された。

そして、その傍らにそっと寄り添っていたのは、千晴だった。

晴道は花音と共に、この四年間をこの高橋家に居候していた。

高校三年の卒業前から来ていたの事を考えれば、実に五年近くもの歳月を、花音と一緒に過ごしてきた家なのだ。

そこに、もう花音の姿はない。愛する人が消えてしまった現実に、深く傷つき、心を閉ざす晴道。

その横顔を見つめる千晴の姿に、画面の前の視聴者たちは誰もが納得していた。


『ああ、いつもの助演女優千晴が、また傷ついた主人公を優しく支えてあげるんだな』と。


しかし、その予想はすぐに裏切られることになる。

千晴は、晴道を強引に外の世界へと連れ出したのだ。

それはただの”支え”ではない。

絶望の底から力ずくで引き上げるような、強烈な意思の伴った行動だった。

そして、晴道に向ける彼女の眼差しには、深く、溢れんばかりの母性愛が宿っていた。

――私が、晴道を救ってみせる。

そんな、強固な決意と情念が画面を突き抜けて伝わってくる。

このあたりから、視聴者たちも気づき始めていた。


『……いや、違う。いつもの、主人公を支えるだけの千晴じゃないぞ』


“私は、ずっとここに居る。私が、あなたを愛している”


そんな千晴の心の叫びと魂の主張が、ひしひしと伝わってくるような名演だった。


やがて、千晴に引かれデートを進める晴道の顔に少しずつ笑顔が戻っていく。

一見すると、たった一日のデートで急速に惹かれ合っていく二人の姿。

しかし、画面を見つめる誰もが、本当の理由を察していた。

違う。二人が突然恋に落ちたのではない。

これまでの五年間、晴道の隣にいつも花音という絶対的な存在がいたからこそ、お互いに、胸の奥深くに強固なフタをしていたのだ。

その感情が、花音の退場によって一気に決壊し、溢れ出してしまったのだということに。

そして晴道の中にも、確かに千晴への特別な想いが存在していたのだということにも。

デートの終着点、二人は夜の観覧車へと乗り込んだ。

眼下に広がる、まるで宝石箱をひっくり返したような極上の夜景。

ロマンチックな光景を前に、晴道はこらえきれず、愛おしそうに千晴の肩を抱き寄せた。

二人の唇の距離が、完全にゼロになりかけた――その瞬間。


「……まだ、駄目」


千晴は、そっと晴道の胸を押し止めた。


その刹那、画面は切り替わり、観覧車を遠くから見上げる無機質な外観のカットへと引いていく。

そして、滑り込むようにエンディングが流れ出した。

完全オリジナルのラブソング。

歌うのは、千晴本人。

それは、決して許されぬ恋に身を焦がし、倫理と感情の狭間で激しく揺れ動く乙女の、切ない本音を歌い上げた曲だった。



テレビ局の編集室で、仕上がったばかりのビデオを確認していた監督とシナリオライターは、完全に言葉を失っていた。

「……おい。この後のシナリオ、一体どうすればいいんだ?」


監督の口から、呻くような声が漏れる。彼は、最終的に晴道が誰と結ばれるべきか、その結末を自分で決めることができなくなっていた。

千晴の放った熱量が、それほどまでに圧倒的だったのだ。


「それを決めるのは、監督ですよ。……あの『瑞月さん』の時のような事は起きません」


それは監督の責任を一女優に任せてしまった、僅かな後悔。


「……そうだよな。これは、私の作品だ。私が決めずに、誰が決めるというんだ!」


普段、自分のことを「俺」と呼ぶことが多い監督だった。しかしこの瞬間だけは、クリエイターとしての崇高な覚悟と強い決心を表明するために、あえて「私」という言葉を選んだ。


「そうです。監督がどんなストーリーを選択したとしても、俺が必ず、完璧なシナリオに仕上げてみせますから」


シナリオライターもまた、いつもの「〜っす」「〜っすよ」という軽薄な口調を完全に改め、プロフェッショナルとしての眼光を宿して力強く応じた。



本編のエンディングが終了すると、画面はいつもの告知インフォメーションへと切り替わった。


「私、千晴が歌うエンディング曲のCDが発売になります――」


通常のドラマであれば、ここまであからさまなメディアミックスを展開すれば、『どれだけファンから搾り取るつもりだ』という失笑や批判が噴出するところだろう。


しかし、今回に限っては、そんな冷めた意見は文字通り粉々に吹き飛んでいた。


『CDの売り上げで最終結末(ラストが変わるなら、はっきりそう言ってくれ! 頼むから金を払わせてくれ!』

『私は、こんなにも千晴を応援したいのに……!』


ネット上には、画面の中の千晴を救いたいと願う、ファンの切実で悲痛な声だけが溢れかえっていた。

そして、熱狂する視聴者たちの中で、ある残酷な事実に気づいてしまった者がいた。


『待て……千晴だけ、ウェディング写真集の発売告知がなかったぞ……?』


他のヒロイン――千紗、千秋、千鶴、そして花音にまで発売される写真集が、千晴にだけ存在しなかったのだ。


視聴者たちは、冷や水を浴びせられたような絶望と共に、再び突きつけられた現実を理解してしまった。

――どれだけ視聴者が熱狂し、どれだけ彼女が魂の名演を見せようとも。

やはり千晴は”永遠の助演女優”なのか、と。


次回予告

「本人不在の洗練された映像プロモーションが、視聴者の枯渇感を限界まで煽る!」


花音との涙の別れに日本中が泣いた、その直後のCM枠。

それはみ組が作り上げた巧みな罠だった。


「私どもは、霞の宿への特別なツアー旅行を各種取り揃えております」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。