【第18話-06】─ 番外編:芸能界編二期
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【Scene09:閑話(都市伝説)】
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週刊誌やパパラッチの暴挙を完全に封じ込めた「み組」であったが、それでも人の噂に完全な蓋をすることなど不可能だった。
ふとした拍子に、決して外部に漏れてはならない話がネットの海に流れることがある。
それらは、千晴の姉である美晴の恋人・亮太が組み上げた『AI巡回プログラム』によって早期に発見され、迅速に対処されていた。
しかし、例の大手週刊誌のサーバーのように、目立つ噂を片っ端からいきなりダウンさせるわけにもいかない。
ある程度の噂が市井に流れてしまうこと自体は、避けようのない事実だった。
だが――いつしか、ネット上でも現実でも、「み組」に関する不穏な噂をまともに相手にする者は誰もいなくなっていた。
一体なぜ、そのような不自然な情報統制が可能なのか。その鮮やかなからくりを語ることにしよう。
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YouTubeに、怪しいオカルトや都市伝説を専門に取り扱うチャンネルが存在する。
主催者は、素顔を隠した仮面のYouTuber。
いかにも嘘くさく、しかしエンタメとして妙にそそるオカルトネタを不定期に投稿する、根強い人気を誇るチャンネルだった。動画はいつも、お決まりの定番台詞で締めくくられる。
「――信じるか信じないかは、あなた次第です」
そしてこのチャンネルは、なぜか「み組」に関するネタを好んで動画に用いていた。
曰く――。
『み組は、霞の里から分岐した組織であり、その源流は徳川家康が設立したお庭番の忍者にまで行き着く』
曰く――。
『み組は現在も裏社会で暗躍しており、政府からの秘密裏の依頼を受けて、国に楯突く凶悪なヤクザの組をいくつも壊滅させている』
曰く――。
『み組の構成員は全員が特殊な能力を保持しており、人の心を自在に操ったり、気功のような力で人を一瞬で気絶させたりできる』
曰く――。
『大ヒットドラマ「シェアハウス」シリーズの登場人物は全員がみ組の所属であり、作中だけでなく現実でも超能力を使える』
視聴者たちはこぞって動画を面白がり、コメント欄で盛り上がったが、それを真に受ける者は誰一人としていなかった。
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詐欺師の鉄則に、このような格言がある。
「嘘八割の中に二割の真実を混ぜると、人間はすべてを信じてしまう」
そしてそれは、全く逆の形でも成立する。
「八割の真実の中に二割のド派手な嘘を混ぜると、人間はすべてを信じなくなる」
この都市伝説チャンネルが仕掛けた罠こそ、まさにそれだった。
『み組は霞の里から分岐した組織であり、その源流は徳川家康が設立したお庭番の忍者にまで行き着く』
――徳川家康が設立したという部分だけが嘘で、あとは全て真実だ。
『み組は現在も裏社会で暗躍しており、政府からの秘密裏の依頼を受けて、国に楯突く凶悪なヤクザの組をいくつも壊滅させている』
――政府の依頼という部分だけが嘘で、ヤクザを壊滅させたのは真実だ。
『み組の構成員は全員が特殊な能力を保持しており、人の心を自在に操ったり、気功のような力で人を一瞬で気絶させたりできる』
――構成員の「全員が」という部分だけが嘘で、そんな化け物じみた能力者が実在するのは真実だ。
『大ヒットドラマ「シェアハウス」シリーズの登場人物は全員がみ組の所属であり、作中だけでなく現実でも超能力を使える』
――これも「全員が」という部分だけが嘘。
和也も晴道も、そして千紗さえも、常人から見れば超能力としか思えない異能を持っているのは紛れもない真実だった。
そう、このチャンネルが定期的に突飛な動画を流してくれるおかげで、「み組」に関する話題は、どんなにリアルでスキャンダラスな情報であろうとも、一般層にはすべて低俗なオカルト話にしか聞こえなくなっていた。
仮に本物の情報が流出したとしても、ネット民は鼻で笑ってこう吐き捨てるだけだ。
「どうせまた、あの仮面チャンネルのパクリ動画だろ? もうそのネタ聞き飽きたよ」
たとえそれが真実であり、件のチャンネルで一度も扱われたことがない初出の情報であったとしても、大衆は自動的にそう脳内変換してしまうのだった。
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この仮面のYouTuberの正体は、中田勝行。
かつてパパラッチとして泥水をすすり、現在は「み組」に所属している社会派のルポライターであった。
彼は「どんな噂なら人間が信じ、どんな形に歪めれば人間が信じなくなるか」を誰よりも熟知する、情報のプロフェッショナルだ。
このチャンネルは、中田がみ組に引き抜かれる前から個人的に趣味を兼ねて運営していたものだった。
中田の持つ意外な発信力が、結果として「み組」の存在を暗所から静かに守る強力な盾となっていたのだ。
ちなみに、新倉南が中田勝行を組織に迎え入れた理由は、かつて南自身が彼に告げた通り。
”名前が気に入ったから”という、ただの気まぐれと偶然に過ぎない。
しかし、その偶然のスカウトが、めぐりめぐってみ組の危機を救う強力な手札となった。
それはあるいは、かつて和也が名付けた千晴のあの異能――。
『運命改竄の魔女』の力が、無意識のうちに手繰り寄せた奇跡だったのかもしれなかった。
次回予告
「クランクイン初日の最高到達点!
世界を泣かせる巨乳の才媛が遺した宿命のバトンと、どん底の少年に迫るヒロインたちの熱量――」
第四話の幕が上がる――。待ち受けていたのは、晴道と花音のあまりにも切なすぎるビターな別れだった。
圧倒的な没入感に、視聴者のみならず監督やスタッフ一同も本能的な大号泣。
「俺、絶対に花音さんの研究結果を、もっと世界に認めさせます」




