【第17話-12】─ 番外編:芸能界編
これはある人物の些細な行動の変化により
別世界線へと移ってしまった物語です。
5月末頃に掲載されていた
【第11話】エピソード1 ― シェアハウスで始まってしまった物語 ― 千晴
から分岐します
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【Scene30:ドラマの行方】
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十月に入り、ドラマの放送が始まると、瞬く間に話題沸騰となった。
和也が主人公ではないことは、もはや誰の目にも明白だった。
視聴者の関心は自然と美月の恋の行方へと集まっていく。
――きっと彼女は振られ、失恋を通して人として成長する。
監督の初期構想を正確に言い当てる声は少なくなかった。
撮影現場は第八話へと進んでいた。
だが、ここにきて監督は、三人の恋の行方をまだ決めかねていた。
そんな折、千晴の“弱点”が次第に浮き彫りになっていく。
求められる演技は完璧にこなす。
だが、自らの意思や感情を表現するように求められると、途端演技に力を失うのである。
それは無理もない。
千晴は、物心ついた頃からずっと「求められる役割」を演じ続けてきた。
自分が何者になりたいのかを考え始めたのは、晴道と出会った――ほんの半年前に過ぎない。
監督は静かに結論を出した。
自分自身を演じられない俳優は、主演にはなれない。
こうして千晴――いや、千春は、このドラマの中で恋のレースから脱落した。
永遠の助演女優が、生まれた瞬間だった。
この後、千晴は幾度となく助演女優賞を受賞することになる。
だが、主演女優賞を手にすることは、一度もなかった。
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第五話の放送を迎えると、上嶋和也が演じる和也と、村澤美久が演じる美久の姿が映し出された。
彼女を知らなかった視聴者は、誰もが息を呑んだ。
――この美しい女優は、誰なのか。
やがて彼女が《み組》のWebページで紹介されていることが知られ、
人々はこぞってアクセスし、ダウンロード写真の売り上げは爆発的に伸びた。
さらに目ざとい視聴者は、美久と並ぶ和也が“代役”であることを見抜く。
背中だけで魅せる男前ぶりが話題となり、注目を集めた。
エンドロールに流れた文字――
「友情出演 上嶋和也」
それが正体だと推測されるが、ネット上に情報は一切ない。
こうして彼は、“謎の人物”として語られる存在となった。
しかし大学内では、噂は瞬く間に広がった。
和也の人気は不動のものとなり、
講義中、白板に向かう背中を盗撮する学生が続出する事態にまで発展した。
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その頃、主演男優が所属していた大手芸能事務所はみ組の配下になった。
急激に膨れ上がった従業員の給与を賄うため、
《み組》は一つの秘策に打って出た。
――Webグラビア写真集の販売である。
み組の公式Webページからデータをダウンロードし、
購入したセキュリティキーを使用しなければ閲覧できない方式。
コピー対策は万全だった。
発売されたのは、瑞月、千晴、千紗。
そして瑞月とともに移籍してきた、声優として活躍していた若手女優”亜紀”
彼女は十月から放送された秋アニメの主演で、ブレイクしていた。
共通タイトルは「彼女の部屋」。
女優たちが演じる“彼女”が、部屋で恋人に甘える視線を向ける写真――五十カット。
価格は強気の二千円。
だが、驚くほど売れた。
一万ダウンロード超え。
しかも合計ではなく、各女優がそれぞれ一万を超えたのだ。
さらに、大手事務所から移籍してきた人気グラビアアイドル”千秋”が
同コンセプトで写真集を発売すると、五万ダウンロードを突破。
こうして《み組》は、急増した人員を賄うだけのキャッシュを手に入れた。
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話を戻そう。
第六話。
美月は、和也と美久の幸せを願い、静かに身を引く。
自分の恋が、まだ幼かったのだと気づいた瞬間だった。
それと並行して、
千紗が演じる千花が“妹ではなく従姉妹”であることが明かされ、
同時に春樹への恋心も露わになる。
視聴者は、三人のヒロインの恋の行方に胸を震わせた。
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第七話。
千花が春樹へとアタックする姿を目の当たりにし、
美月は、自分の春樹への視線が
「親友の恋人を見るものではない」ことを、ようやく自覚する。
それに気付いた千春は美月に告げた。
――実は、春樹とは深い仲ではない。
そして、自分もまた、
美月を恋のライバルとして見ているのだと宣言する。
物語は、完全な三つ巴へと突入した。
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その頃、撮影現場は最終話の撮影に入ろうとしていた。
――選択の時は、もうすぐそこまで来ていた。
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【Scene31:ドラマの結末】
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ドラマの第八話、第九話、そして第十話は、
それぞれ――千春、千花、美月を主役とする回となった。
第八話は、千春の物語であると同時に、
撮影現場において、千晴の俳優としての“弱点”が露わになった回でもあった。
それは、脚本上で明示されていたわけではない。
だが、視聴者は敏感にそれを感じ取ってしまった。
求められる演技は完璧にこなす。
だが、自らを表現することができない。
そのわずかな違和感は、
千春が恋のレースから脱落する未来を、
誰の言葉よりも雄弁に予感させていた。
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第九話は、千花――いや、千紗の魅力が爆発した回となった。
画面に映るたび、視線を奪う存在感。
千花という役を超え、千紗自身の人気が急上昇していく。
この頃、グラビア写真集のダウンロード数は
瑞月、千晴を抜き、堂々の一位となっていた。
理屈ではない。
ただ、目を離せない。
視聴者がそう感じたことこそが、
彼女の“答え”だった。
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第十話。
美月は、恋とは何なのかを、初めて真正面から考える。
そして街中で、
愛し合う和也と美久の姿を目にする。
その光景を見て、
美月はひとつの結論に辿り着いた。
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物語は、最終話を迎える。
最終話で、春樹は美月を選ぶ。
だが、美月は――春樹と結ばれたその後、静かに告げる。
「私を選んでくれて、ありがとう」
そして続けて、こう言った。
「でもね、私は……
愛は、選んだり、選ばれたりするものじゃないと思うの」
それは、俳優・瑞月が演じる美月の言葉ではなかった。
水澤美月自身が、人生の中で辿り着いた結論だった。
「愛は、与え合うものだと思うの」
そう言って、美月は微笑む。
「だから――
これからも、私たち三人の愛を、受け止めてほしい」
ハーレムエンド。
ご都合主義。
結論の先送り。
次回作を作りたいだけだ。
そんな非難の声も、確かに存在した。
それでも――
美月が出した答えは、多くの視聴者の胸を強く打った。
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その結末は、
監督が導き出したものではない。
ラストに悩む監督の前で、
瑞月――いや、水澤美月自身が提案し、
採用された台詞だった。
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俳優・瑞月は、
ドラマアカデミー賞・主演女優賞を受賞する。
それは、
“恋に勝った主役を演じた”結果ではない。
“演技の中で、自らの答えを差し出した”
その一点による評価だった。
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【Scene32:リアルの結末】
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私、小泉香織は――
瑞月たちが出演したドラマの放送がすべて終わったあと、
不思議なほど深い満足感に包まれていた。
大手芸能事務所から多くのタレントとマネージャーが移籍してきたことで、
私はようやく、雑多な業務から解放されたのだ。
千紗ちゃんは、移籍してきた人気グラビアアイドル千秋に気に入られ、
同じマネージャーが担当することになった。
千晴ちゃんは、まだ不動産会社の仕事を続けるかどうか悩んでいるようだったけれど、
大物女優に見初められ、やはり同じマネージャーが付くことになった。
きっと近いうちに、芸能活動に専念するようになるだろう。
だから――
私は今、念願だった晴道の専属マネージャーになった。
ずっと昔からの夢だった。
個人で続けてきたサロンも、今も変わらず営業している。
けれど昔からの馴染みのお客様を除けば、
すっかり芸能事務所「香織」所属タレント専用のようになってしまった。
それでも、いい。
私は、サロンを経営することそのものが目的だったわけじゃない。
自分の人生を、自分で選ぶための場所が欲しかっただけなのだから。
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そして――
プライベートでも、晴道と過ごす時間がある。
”今週”は私の番
そう決まっている。
シェアハウスの大部屋で目を覚ますと、
隣には、肌もあらわな晴道が眠っていた。
私もまた、下着ひとつ身につけていない。
「……晴道ったら、激しいんだから」
そう小さく呟きながら、
私はそっと下腹部に手を当てる。
――私と晴道は、結婚できない。
でも、こうして抱いてもらえる。
晴道のものが、私の中にある。
それで、いい。
来週にはクリスマスがある。
その夜は、全員一緒に愛してもらう約束になっている。
晴道は、まだ知らないけれど。
私と、千晴ちゃんと、千紗ちゃんと、美月ちゃん。
みんな一緒。
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あのドラマのラストシーンは、
ご都合主義だとか、ハーレムエンドだとか、
いろいろ言われていた。
けれど――
実際に、こういう形は存在する。
それなら、仕方がないじゃない。
これからも私たちは、晴道に愛を捧げて、
晴道からの愛を、受け取る。
そこに順番なんて、必要ない。
競い合う理由も、選び合う必要もない。
ただ、そこに愛があるだけ。
ずっと――
永遠に。
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三年三か月後。
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晴道は大学を卒業し、大学院へと進学していた。
そして香織と二人三脚で、芸能活動も変わらず続けている。
美月は、あのドラマで日本テレビドラマアカデミー賞・主演女優賞を受賞。
映画、連続ドラマと主演作が続き、
“次代を担うトップ女優”と呼ばれる存在になりつつあった。
千晴は主演こそ務めないものの、
「日本のドラマに欠かせない助演女優」と評されるまでになる。
主人公の背後に立ち、物語を静かに支える――
そこに自分の立ち位置を見出したのだった。
千紗は俳優の道へは進まず、モデルとして活動を続けている。
人気グラビアアイドル・千秋と共に仕事をする機会も多く、
いつの間にか二つ年下の彼女から「お姉様」と慕われる存在になっていた。
どこかで見覚えのある関係だが――
それは、かつてのオーディオメーカー社長の孫娘・千鶴との関係にも似ている。
実は千鶴は高校卒業と同時に、芸能事務所香織の門を叩いていた。
今では千秋・千紗・千鶴の三人は
「グラビア・ミレニアムトリオ」と呼ばれ、確かな人気を得ている。
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一方、すっかり名前を聞かなくなっていた優香は、
武と恋人同士のまま大学を卒業し、二人揃って地元へ戻った。
武はフィットネスジムでインストラクターとして働きながら、
将来はスポーツ選手のコーチを目指している。
優香は幼稚園教諭となり、
近いうちに同棲を始める予定だという。
それは、ごく普通で、穏やかな幸せだった。
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四年定期借家だったシェアハウスは、契約満了後もみ組が引き続き借り上げることになった。
リフォームは不要。
家賃は相場相当に引き上げる――その条件での再契約だった。
ちなみに高村不動産は、同じ設計のシェアハウスを他にも三棟所有しており、
晴道たちが住んでいる棟の隣に並んで建っている。
もともと学生専用だったそれらの棟は、
《み組》の説得により、空室が出次第すべて借り上げられた。
学生が全員退去するたびにフルリフォームを行い、
現在は借り上げ社宅として使用されている。
ただし、そのうち一棟は、ドラマのロケ専用棟となった。
晴道たちが出演した作品の直接的な続編は作られなかったが、
シェアハウスを舞台に、登場人物や設定を変えたシリーズが生まれたのだ。
千晴は全シリーズに出演。
毎回異なる役柄、異なる立場、異なる性格を完璧に演じ分け、
助演女優賞を幾度も受賞する。
そのシリーズは、
「シェアハウス劇場」
あるいは
「千晴劇場」
と呼ばれるようになった。
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話を戻そう。
契約満了を機に、千紗と優香は元の棟を退去した。
優香は地元へ。
千紗は隣の棟へと住み替えた。
三階には千紗・千秋・千鶴。
二階には、千秋をトップグラビアアイドルへ育て上げた
ベテラン女性マネージャー。
一階はミーティングルームとして使われている。
晴道は変わらず、元の棟の二階に住み続けた。
三階には香織、そして美月と千晴。
週替わりの約束も、変わらず続いている。
ただし四週目だけは、隣の棟から三人がやってくる。
――千紗、千秋、千鶴。
相手は晴道だ。
仕方がない、と皆が思っている。
ベテラン女性マネージャーも、
「それで三人の結束が強まり、精神的に安定するなら」と黙認している。
日替わりで来ることもあれば、
三人同時に訪れる夜もある。
そんな三人にある出来事が起こる。
これからそれを語ることにしよう。
番外編:芸能界編二期始まります
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