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三人のヒロインとシェアハウスすることになった僕は、全員を本気で愛して呪われてしまった。 ――告白は観覧車のてっぺんで  作者: iron-bow


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【第10話-13】祝福と呪いのあいだで始まる物語-花音

温泉宿の夜。


静かなはずの時間に、

それぞれの“本音”と“本気”が動き出します。


策略。

駆け引き。

そして、少しだけ過激なアプローチ。


花音は決めました。

救うために、壊す。


けれど――

揺さぶられるのは晴道だけではありません。


この夜、関係のバランスが大きく傾きます。


【Scene04.7:策略】




美由が冷えた飲み物を持って部屋へ戻ると、すぐに晴道も温泉から上がってきた。


「みなさん、飲み物をどうぞ」

「ありがとうございます」


「晴道、若女将さんとどんな話ししたの?」

千紗は気になるようだ。


その時、手早く身なりを整えたらしい花音が戻ってきた。


「皆さまお揃いでしょうか?」


「あ、花音さん、おかえりなさい」

晴道が明るい顔で出迎える。


「えっ、名前呼び?」

千紗と優香の視線が同時に冷たくなる。


「若女将さん、やっぱり若女将さんも和装用ブラって着けているんですか?」

“千紗”が切り出す。


「千紗、いきなりじゃない?」

優香がたしなめる。


美由は感心した。

(さっきと逆。キャラ付け、徹底してるんだ)


「いいえ、私は和装用ブラでは間に合わないので……見ますか?」


花音はいきなり着物を脱ぎ出した。


「ちょっと、花音!!」

美由が止めるが、もう遅かった。


「別に下着ですらないですから」


それは見事にさらしで巻かれた上半身だった。

豊満なバストが綺麗に押さえられている。


「綺麗……」

思わず優香が声を上げた時――


「これを外すとですね……」


花音は何の躊躇もなくさらしを外し始めた。


「きゃーーーっ、見ちゃだめーーーっ!」


千紗のグーパンチが見事に晴道の顎をヒットした。

晴道が意識を失う直前、

「おっぱいオバケだ……」

という千紗のつぶやきを、確かに聞いた気がした。



晴道が意識を取り戻すと、花音、美由、千紗、優香――

全員が座って彼を見守っていた。


「えっと、俺……」

「ごめんね、私のパンチが当たっちゃって……」

千紗がしゅんとしていた。


「大体、花音が悪いんですよ!!」

美由が小言を言う。


「おっぱいくらい見られたって減るものじゃないし」

「あなた、自分の若女将って立場をちょっとは考えなさい!!」

「美由……」

「なによ」

「怒るとシワができるわよ」

「この減らず口が!!」


美由が花音のほっぺたを引っ張りながら部屋を出て行く。


「ほめんなはーい、はたねはうひち」

花音はそう言いながら引きずられていった。



「で、どういうつもり?」

美由が周囲に人のいない仲居待機部屋で花音を詰め寄る。


「あの子をね、思いっきり引っかき回してあげるの。そうすれば心の隙ができる」

花音は晴れやかな顔で言った。


「そこを起点に潜り込むのね」

美由の目つきが鋭くなる。


「押しひろげる、の方が正確かな?」


「……いいの?」


「何が?」


「花音、あなたに対する晴道くんの憧れが壊れるわよ」


「いいの。あの子を救えるなら」


「……本気なのね」

美由の目が優しくなる。


「だってクール系美人なら優香ちゃん、あざと可愛いなら千紗ちゃんがいるもの。同じことしてたら、過ごした時間分だけ二人が有利だわ」


花音は自信満々に言う。


「私、基本的に知的美人に見えるでしょ?」

「普段のあなたを知らなければね」

美由は白い目で見る。


「そこで、さっきみたいな痴女モード」

「“モード”って演技みたいに言うけど、あなたの素はあれよね」

美由のツッコミは鋭い。


「で、最後に“可憐な少女”で押すの。絶対うまくいくわ」

「千晴から聞いてるわよ。和也もそれで落としたんでしょ」

美由の目がじとりと細くなる。


「あら、嫉妬?」

花音はにやにやと笑う。


「そうかもね。でも、それが晴道くんに通じるかどうかは……」

「きっと上手くいくわ。だって晴道は和也のイケメン上位互換だもの」

「勝手に人の彼氏を下位にしないで!!」


美由は涙目だった。

――それが事実だと、どこかで思ってしまったから。


そう、和也と晴道・千紗には戸籍上の血縁はない。

だが、四世代前、高祖父にあたる一卵性双生児を通じ、確かに血の繋がりはある。


「晴道、待ってなさい。私があなたを癒してあげる」

花音の瞳が爛々と輝いた。


「……癒すというより、獲物を狙う肉食獣みたいなんだけど」

美由のツッコミは相変わらず鋭い。


「えっ? とっくに食べちゃってるけど?」

「花音、下品です」

「いや〜ん、ツッコミ入れるんじゃなくて、突っ込んで欲しいの♡」


「花音! 宿にいる間はそのネタ禁止!!」


「なんで?」

花音は心底不思議そうに首を傾げた。


「霞の宿の品位が下がります」

美由はぴしゃりと言い切った。



【Scene04.8:昔話】



晴道たちはやがて夕食に呼ばれた。

もはや、ため息しか出なかった。


(これ、外で食べたらいくらくらい取られるかな……?)

ふと、そんなことしか思い浮かばなかった。


部屋に戻ると、すでに布団が敷かれていた。

敷いたのは美由だったのか、彼女が部屋で待っていた。


「お食事はいかがでしたか?」

「すごかったです」

「夢みたいでした!」

「おなかいっぱいです!」


高校生のボキャブラリーでは、感動を表現するには足りなかった。


「それは良かったです」

美由はやさしく微笑んだ。


「お布団、これでよろしいでしょうか?」


布団は三つ、ぴったりとくっついていた。

顔を赤らめる三人。

美由はにやにや笑いを浮かべた。


その時――。


「失礼します」

扉の向こうから声がかかった。

入ってきたのは、当然のように花音だった。


「お茶をお入れしましょうか?」


「コーヒーがいいな」

千紗が答える。


「それでは、準備しますね」

席を立ったのは美由だった。


部屋の棚には全自動コーヒーメーカーが備え付けられていた。


「手で淹れてくれるのかと思っちゃった」

千紗が可愛らしく目を丸くする。

演技とわかっていても愛らしい。


「きっと宿泊客が、自分で飲みたいときに入れられるように置いてあるのね」

クールな優香がそう言う。

さっきまでの子供っぽさとどこかドジっ子な部分は、どこへ行ったのだろう。

ちなみに、食事中は完全に子供っぽさが戻っていた。


「花音さん、美由さんも一緒にいかがですか?」

晴道が声をかける。


「私たちは仕事中ですので。それに、コーヒーカップは4セットしかご用意がありませんから」

花音がやんわりと断る。


全自動で入れたはずのコーヒーは、驚くほど香り高くて美味しかった。

きっと豆が良いのだろう。


そのとき、ふと千紗が思い出したように言った。


「ねぇ、私たちが温泉に入ってる間に、若女将と何話してたの?」


「俺が高1の時に読んでた論文、覚えてるか?」


突然の話題転換に千紗は驚いたが、晴道が“適当な話”をする男でないことを知っていた。

だから真面目に答える。


「あの長ったらしい英語タイトルの論文ね。覚えてるよ。

晴道ったらゴールデンウィークに読み始めたのに、秋になってもまだ読んでた。

せっかく私がリフレッシュさせようって、黒湯温泉に連れて行ったのに……

休憩室でまでスマホ片手に論文読んでたよね」


「花音さんはね、その論文の執筆者なんだ!」


「えぇっ!?」

千紗は目を見開いた。

晴道の“憧れの研究者”。

その人と今、同じ部屋にいるなんて。


大学だって、彼女の研究に少しでも触れたくて選んだようなものだ。


(……すごいライバルじゃん。かなり年上なのが救いだけど)


千紗はそう思ったが、知らなかった。


――晴道は、お隣の憧れの“梨子お姉ちゃん”の影響で年上好みなのを。

――そして、千紗の母・美優の影響で“巨乳好き”なのを。


「ちょっと待って。あなたたち高校三年生よね? 一年の秋って、二年ちょっと前?

それに、今“黒湯温泉”って言った?」


突然、美由が割って入った。


「ええ、私たち東京の大田区に住んでいるので、近くに黒湯温泉があるんです」

千紗が説明すると、美由はさらに食いついてくる。


「温泉施設の名前は?」

「“ヌーランド”って言います。ご存知なんですか?」

「知ってるっていうか、一度だけ行ったことがあるの。……それが二年ちょっと前で」


「で?」

千紗が身を乗り出す。


「その時ね、花音の論文をスマホ片手に読んでる高校生くらいの男の子と、付き添ってる女の子を見たのよ」


「ああっ! いました、あの時!

すごい美人の四人組! しかもそのうちの一人が、すっごい“おっぱいオバケ”だった!!」


千紗が勢いよく叫ぶ。


「……私たちのことね」

花音が答える。


「えぇーーーっ、そうなんですか!? 声かけてくれても良かったのに!」


晴道が反応したが、

あの日、彼は論文に夢中で、周りをまったく見ていなかった。


そして花音もまた思った。


(あの時、声をかけていたら──何か、運命が変わっていたのかもしれない)


でも、あの日。

美由に「話しかけてみたら?」と促されながら、

「……やめておくわ。目立ちたくないもの」

と答えたのも、他ならぬ彼女自身だった。


結局、こうして今“自らを呪った”晴道に出会うことが、彼女の運命だった。

まだ純粋で、呪いを知らなかった彼には──出会えなかったのだ。


優香は少し拗ねていた。

(さっきの夏のプールの話といい、今の温泉の話といい……私だけ除け者よ)


美由もまた思う。


(去年のプールで出会った時は思い出さなかったけど……

あの時、黒湯温泉で見かけたイケメンと美少女。

間違いなく、晴道くんと千紗ちゃんだった。

二年前の温泉は、花音と私。

去年のプールは、和也と私。

……血の縁、なのかしらね)


この出会いは──一ノ瀬一族の力なのか、それとも運命の導きなのか。


その結果がどう出るのかは、まだ誰にもわからなかった。



【Scene04.9:写真】



「それでは、私たちはそろそろ上がらせていただきますね」

美由が穏やかに言った。


「先ほど千紗ちゃんと優香ちゃんが入られた隣室の外湯は霞の湯です。

晴道が入られたこちらの内湯は銀の湯、そして外湯は金の湯です。

泉質がすべて異なりますので、ぜひ入り比べてみてくださいね」

花音が微笑みながら説明を添える。


「隣の温泉、シュワシュワしてたよ」

千紗が口を挟むと、花音が補足する。


「霞の湯は炭酸水素泉です。

銀の湯はラドン泉。

そして金の湯は塩化物鉄泉──これは国内でも数カ所しかない珍しい泉質ですので、ぜひご堪能ください」


「こちら、隣室の鍵になります」

美由が千紗にそっと渡すと、二人は部屋をあとにした。


(よし、これで混浴もOK♪)

そう心の中で“ガッツポーズ”を取った千紗と優香。


……その瞬間、振り返った花音が静かに口を開いた。

「申し訳ございません、一つご説明を忘れておりました」

「金の湯にタオルを入れますと色が付着し、落ちません。

“混浴”をされるにしても、湯の中にタオルをつけないようご注意くださいね」


ガッツポーズが見透かされたとばかりに、赤面する千紗と優香。

──いや、実際、花音は的確に見透かした上で、からかっていたのだった。



二人が去った後、晴道はスマホで初めて霞の宿の情報を検索した。

これまで“新鮮な気持ちで訪れたい”と、あえて調べずにいたのだ。


そして、表示されたページを二人に見せる。


【金の間】《2室》

外湯(露天風呂):金の湯

内湯(室内風呂):銀の湯


【銀の間】《4室》

外湯(露天風呂):銀の湯

内湯(室内風呂):霞の湯


【霞の間】《4室》

外湯(半露天/屋根付き):銀の湯


【霧の間】《2室》

外湯(半露天/屋根付き):霞の湯


「この部屋が金の間で、隣が霧の間だね」


「すごい部屋なの?」

千紗が問いかける。


「うん、一番高いグレードの部屋で……」

「……で?」

「うわ、一泊20万円する。あっ、いや、サービス料と消費税含めたら……25万近いね」


「それを無料でって……優香のお父様すごいのね」

「うん。さっき話した、中学生の時に泊まった部屋は“本館”の特別室だったって」


優香がなぜか得意げに胸を張る。


「もうWebページにも価格出てないや……検索したら、30万超えって書いてある!?」


晴道が驚くと、優香が続けた。


「泊まった時、お母さんが言ってたわ。

『湯呑みが国宝級、掛け軸が重要文化財級だから気をつけて』って」


「部屋に来たときに出された湯呑み、やたらと古そうで趣があったよね」

「もしかすると、そうなのかもね」

千紗が静かに答える。


──“国宝級”なんて言葉にすると、本当にそうなりそうで、あえて口には出さなかった。


ちなみに、晴道が恐れていたその湯呑みは「高校生が宿泊する」という配慮で差し替えられており、確かに高級ではあるが国宝級ではなかった。

ただし、壁にかかっていた掛け軸だけはそのままで──重要文化財級。

知らぬが仏、とはこのことである。



「……あれ? 美由さんと由美さんのWebページがあるみたい」

スマホ検索をしていた晴道が、画面を覗き込みながら言った。

「グッズが売られてる……? 写真もあるよ」


「へぇ、そうなんだ。URL送って」

千紗と優香もスマホでページを開く。


「コスプレ写真って、ポイントの特典なの?」

優香は少し困ったように尋ねる。


「うん、グッズとか写真を買うと、購入額に応じてポイントが貯まって、そのポイントで限定写真がもらえるみたい」


「仲居姿とか私服の写真は、直接購入できるんだね……」

優香は、美由の年代別私服姿を見比べ始めた。

というか、こっそり購入していた。


(えっと、一番古いのが4年前……やっぱり、胸が大きくなってる!

美由さん、今24歳のはず……私にもまだチャンスある!)

──そこまで気にすることだろうか。


優香が真剣に“成長検証”している間に、晴道はリンクのあった別のページへ。


「あれ、このサイト、霞の宿の公式からリンクされてないな……

って思ったら、運営が別会社だ。《株式会社み組》……えっ!?」


「どうしたの?」

千紗が顔を覗き込む。


「美由さん……この会社の代表取締役社長だって!」

「……え、本当に!?」


千紗も「株式会社み組」のWebサイトにアクセスする。

表示されたのは、美由の代表取締役としての挨拶メッセージ

写真販売もされていた。


(美由さん……素敵……)

千紗は、サンプル画像に見惚れてしまった。


そして別の女性の画像に目を奪われる。

(この“美久”って人……すっごい美人で巨乳。花音さんよりは少し小さいけど、長身でバランスが良い……

洋服の上からでも、素晴らしいバストラインがはっきりわかる……)


千紗はぽつりと呟く。


「絶対に……晴道の好み」


ふと視線を横にやると、晴道がビクッとしていた。


「晴道?」

「ちっ、千紗、なにかな?」


「……スマホ見せて」

「なんでかな?」

「この美久って人の写真、買ったでしょ!!」

「なっ、なんでわかるの~~~っ!?」


そのとき、晴道のスマホにLINEの通知が入る。


「あれ? 花音さん……?」

「いつID交換したのよ」

千紗の視線が鋭くなる。


通知には短いメッセージ。


『美由や美久の写真だけじゃなく、私の写真も見てね』


──続いて届いたのは、花音の自撮り写真。

美由や美久の販売写真を意識した構図だった。


「なっ、なんでわかるの~~~っ!?」


晴道が二度目の叫びを上げた時、さらなる写真が届く。


──下着姿の、艶やかな花音の自撮り。


深い谷間に、晴道の視線が釘付けになる。


その隙に、千紗がスマホの画面を覗き込む。


「晴道……いったいどうしたら、若女将がこんな写真を送ってくるようになるのよ!!」


そこから始まる晴道の弁明は、当然ながら苦しいものとなった──


ちなみにこの花音の写真、実は”美由&美久に対抗心を燃やした花音”が、美由美久WEBに投稿しようとして撮ったもの。

だが、


「若女将の立場でそういうことをするのは、宿の品位を損ねます」


──という理由で、宿側に却下されていた。


そして、下着姿の自撮りだけは……ついさきほど、さらしから素早く着替えて、その場で撮ったものだった。


策略、いかがでしたか。


知的美人。

痴女モード。

可憐な少女。


三段構えの花音。


でも本質はそこではありません。


彼女は本気です。

救うためなら、憧れを壊してもいい。

自分の評価が落ちてもいい。


それは強さなのか、危うさなのか。


そして気づけば——

千紗も、優香も、花音も。


全員、アクセル全開です。


この物語、ヒロインが強すぎます。



次回、

ついに、金の湯。


赤茶色の湯。

見えそうで見えない距離。

そして、ラブコメ的事故。


さらに夜は続きます。


三人で迎える、二度目の夜。

今度は逃げ場なし。


祝福か。

それとも、さらなる呪いの引き金か。


霞の宿の夜、加速します。

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