【第10話-10】祝福と呪いのあいだで始まる物語-花音
祝福の余韻が残るまま、
物語は次の舞台へ進みます。
卒業旅行。
響きは軽やかでも、
そこに乗っているのは、それぞれの覚悟と期待。
三人で行く旅。
「一緒に」という選択の、その延長線上。
けれど、旅は関係を加速させます。
距離を縮めることもあれば、
逆に、見ないふりをしていたものを浮かび上がらせることもある。
そして――
表の旅の裏で、静かに動き出す者たちもいる。
舞台は会津若松・霞の宿。
祝福と呪いのあいだで、
物語は新たな局面へ入ります。
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【Scene04.1:準備】
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2月15日〜
千紗と優香の二人は、コンカフェでのアルバイトを積極的にこなしていた。
進路が決まった生徒は平日でもアルバイトを認められており、
その条件のもと、バレンタインデーに衣装を貸りたのだ。
目的はただ一つ。
三人で行く卒業旅行の資金を貯めるためだ。
行き先は──会津若松。
今話題の”霞の宿”
宿泊は宿からの無料招待、剛志が宿から新別館設立成功の感謝の印として受け取った「お礼」。
新幹線代は、剛志から娘・優香へのプレゼント。
そして晴道と千紗の分は、それぞれの両親が負担した。
優香を通して、剛志に返金されたが──
沙織も美優も、「娘が女友達と行く」と思い込む剛志に何も言わなかった。
あえて、黙っていたのだ。
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【Scene04.2:旅情】
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2月23日
朝。
三人は東京駅から新幹線に乗り込んだ。
晴道、千紗、優香──
三人だけの“卒業旅行”が、静かに始まった。
郡山駅に到着したのは昼前。
昼食は、地元で人気のステーキ丼。
鉄板の上で音を立てる肉の香りが、旅の高揚をいっそう煽る。
「これ、うまいな」
晴道が思わず笑う。
「いかにもローカルフードって感じね♪」
千紗が可愛らしく微笑む
「いくらでも食べられちゃう〜!」
優香が幸せそうに声を上げた。
──さわやかイケメン、ロリ巨乳美少女、クールスレンダー美女が並んで丼をかっこむ光景は、店内でもひときわ目を引いていた。
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食後、三人はローカル線に乗り換え、会津若松へ向かう。
三人はこの旅でどんな思い出を残せるか
それを思い浮かべ、胸を高鳴らせていた。
やがて、会津若松駅に到着。
改札を抜けると──
「美由です」
「由美です」
「二人合わせて──美由由美です!」
どこのアイドルよという衣装
完璧に揃った動作。
二人は24歳になっていたが、衣装も笑顔も当時のまま。
“霞の宿のアイドル”は、健在だった。
「美由さん、由美さん……お久しぶりです!」
優香が嬉しそうに駆け寄る。
由美が微笑んだ。
「優香ちゃん。お父様からお話は聞いていたよ。
すっかり綺麗になったじゃない」
「い、いえ、そんなこと……!」
優香は頬を染めて俯いた。
一方、晴道と千紗は驚きを隠せなかった。
「えっ……え? 美由さん!?」
「昨年の夏、プールで会った……あの美由さんですよね?」
「ええ、そうよ。久しぶりね」
美由が柔らかく微笑む。
「仕事をしてるって聞いてましたけど……」
晴道が尋ねる。
「ええ、仲居の仕事よ」
美由は現在取締役で仲居としては厳密には退職しているが「知り合いだから、接客したい」周りにはそう言っての緊急登板
しかし本当の目的は別にある
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「美由さんとは、去年の夏にプールで偶然知り合ったんだ」
晴道が優香に説明する。
受験勉強で大変だった優香に内緒で千紗と二人で訪れたプールだ
晴道は少しばかり胸が痛む
「私はね、中学生のときにお父さんの仕事で霞の宿に泊まったの。
そのとき、お父さんが打ち合わせしてる間、
美由さんと由美さんが遊んでくれたの」
それは仲居の仕事としてでなく、プライベートの感覚の私服で、少し年上の友達として。
だから、優香は二人にとても懐いていた。
(あれから2年半?確かに私も、成長した
胸以外
美由さんあの歳で胸成長し過ぎじゃない?
ズルい)
優香は一人詮無いことを考えていた
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「それじゃあ、宿までご案内しますね」
由美が微笑みながら言った。
三人は彼女が運転する車に乗り込み、
静かに山あいの道を走り出した。
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【Scene04.3:訓練】
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2月14日
時は少し遡る。
一ノ瀬花音は、株式会社霞の宿・東京支店──兼・株式会社み組の事務所を訪れていた。
その場には、和也と美由が呼び出されていた。
「和也、これどうぞ」
差し出されたのは、超がつくほど高級なチョコレート。
「……これが目的じゃないよな?」
和也が花音の目を見据える
「まあ、そうね」
花音は小さく笑った。かつての未練や曖昧さは、そこにはもうなかった。
“草の首”としての顔が、その場にあった。
「和也と美由にお願いがあるの」
「それは──株式会社霞の宿の役員としての仕事?」
美由が確認する。
「美由には、そうね。和也には“友人”としてのお願いよ」
「……そう言われたら、チョコの分くらいは手伝うよ」
和也は軽口で返す。
「小泉晴道君と如月千紗ちゃん、覚えているかしら?」
「……まだ半年前だよ。あんなロリ巨乳美少女、忘れるわけが──ゲホッ」
脇腹に美由の肘鉄がめり込む。
「その二人、もうすぐ霞の宿に行くんでしょ?」
美由が訊ねた。
「正確には、氷室の娘さんを含めて三人でね」
「……で、その三人を“監視してほしい”ってことだろ」
和也は見透かしたように言う。
「わかってるなら話は早いわ。──頼まれるかしら?」
「……だが、断る!」
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重たい沈黙が落ちた。
「ごめん……一度言ってみたかっただけなんだ」
和也は赤面し、俯いた。
某有名漫画の名台詞。ネットでは定番のネタだが、実際に使える場面など滅多にない。
中二病的なセリフが好きな和也にとって、それは長年の夢だったのだ。
「でもな、断るのは本当だ」
視線を上げ、真面目な顔に戻る。
「子どもを監視するようなマネはしたくない。それに来期から准教授になる準備で、俺も忙しいんだよ
──それに、あの二人には顔も名前も知られてるし、“大学生だ”って名乗っちまった。霞の宿で会ったら不自然だろ?」
「……そう。わかったわ。仕方ないわね。
──美由は、お願いできるかしら?」
「ちょっと待て。監視は断ったが、手伝わないとは言ってない」
和也が続ける。
「美由に、俺の“技”を伝授するよ」
「……へぇ?」
美由が変な声を漏らした。
「美由は、俺なんかより遥かに気を正確に見る素質がある。
ちょっとコツを掴めば──直接目視しなくても、壁越しくらいなら“気”を感じ取れるはずだ」
さらりと、とんでもないことを口にする。
「言っただろ? チョコの分くらいは手伝うって」
「……そうね、それならできるかも」
軽く言ってのけるあたり、やはりこの二人は人外カップルである。
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美由は──たった一週間でその技を完全に身につけた。
いや、和也を独占したかったからこそ、一週間もかけたのかもしれない。
訓練を通して、美由は一つの結論に至る。
(私は──正確には“気を見ている”わけではない。
感じ取った気を、脳が“視覚情報として再構成”してるだけ)
これは、気の達人・冬美の言葉──
「気が見えるわけがない」という見解にも合致していた。
美由は考える。
(和也も冬美さんも、壁越しくらいなら気を感じられる。
それを“映像”として処理できるようになれば……)
──イメージができれば、技は完成する。
今回も、例外ではなかった。
彼女は壁越しに気を捉え、それを“視覚”として脳内で処理できるようになった。
ただ──和也の気は強すぎて、練習には不向きだった。
そのため、美久が“練習台”として隣室に待機することになった。
最初は、ぼんやりと人型がわかる程度。
だがコツを掴むと、解像度は劇的に向上する。
最終的に──
「グー」
「チョキ」
「パー」
壁の向こうで出されるジャンケンの手の形を、美由は正確に“視認”してしまった。
恐怖に震える美久は、念仏のように唱えた。
「私は一般枠……私は一般枠……私は……」
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こうして美由は、和也の“そう遠くない親類”と言える晴道と千紗の監視役として、
“短期限定の仲居”として霞の宿に復帰することとなったのだった──。
霞の宿編、いよいよ本格始動です。
まずは一言。
「……だが、断る!」
――言ってみたいですよね。
人生で一度は、あのテンションで言ってみたい台詞です。
そして美由のチート能力。
壁越しに“視る”。
気を読み、再構成する。
ラノベの醍醐味でしょうか。
けれどこれはご都合主義ではなく、積み上げてきた血筋と修練の延長線上にあります。
祝福と呪い。
愛と監視。
表の旅と、裏の思惑。
霞の宿は、ただの温泉宿ではありません。
ここから物語は一段、深みに入ります。
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次回、
ついに霞の宿へ到着。
女将・葉月。
若女将・花音。
そして、静かに動く“監視”。
用意された部屋。
分けられた露天風呂。
偶然を装った再会。
そして――
晴道の“憧れ”が、現実と交差する。
祝福か。
呪いか。
物語は、大きく動きます。




