【第10話-09】祝福と呪いのあいだで始まる物語-花音
昨日の選択は、ひとつの区切りでした。
けれど人生は、
ひとつの決断だけで終わるほど単純ではありません。
2月14日。
誰かにとっては甘い一日。
誰かにとっては覚悟の日。
そして晴道にとっては――
「愛されたら、愛し返す」という生き方を、
試される日になります。
“ 一緒 ”という言葉は、優しく聞こえる。
けれど、その中には責任も、嫉妬も、不安も含まれている。
三人の関係は、ここからどう変わるのか。
ご注目ください。
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【Scene03:一緒】
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2月14日
晴道は一人、自宅へ帰った。
母・沙織はまだ出社していなかった。
いつもより遅い──もしかすると、彼の帰りを待っていたのかもしれない。
自室に荷物を置き、ふと息をつく。
「……シャワー浴びておかないと」
友達とオールしてきたことになっている。
それくらいの“痕跡”は残しておかないと不自然だ。
バスルームへ向かう途中、出かけようとする沙織とすれ違った。
「あら、晴道。またお風呂?
ホテルで入ってきたんじゃないの?
誰となんて聞かないけど」
そう言い残して、沙織は出ていった。
見送った晴道は、苦笑いを浮かべる。
「全てお見通しか・・・」
ひとり、ため息まじりに呟いた。
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千紗は昼食前、氷室家を訪ねていた。
「優香、準備はいい?」
「千紗……本当にやるの?」
「あら、怖いなら私一人で行くわよ?」
「だ、だめ!! ”一緒に”行くの!」
優香の瞳には、強い決意が宿っていた。
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「ピンポーン」
モニターを覗くと、人影はない。
しかしドアノブがわずかに揺れた。
──千紗か。
両親が帰る時間ではない。
合鍵を持っているのは、千紗しかいない。
ドアを開けた晴道は、思わず息をのむ。
安っぽいアイドル風の衣装。
超ミニスカートに、へそを隠す程度の丈。
下乳が“見えそうで見えない”。
そんなギリギリの衣装を纏った、千紗と優香が立っていた。
あのコンカフェの衣装だった。
「Happy Valentine's Day!
チョコをお届けに参りました♡」
妙に流暢な発音が、練習の成果を物語っていた。
ご近所に見られたらどう思われることか。
焦った晴道は、とっさに言った。
「……あ、上がってくれるか?」
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衣装は安っぽい。
だが中身が、超美少女と高校生離れした美人。
──栄える。
落ち着かないほど、栄えてしまっていた。
「今年は、私と優香二人で作ったの」
千紗が言う。
「食べてくれる?」
優香が、大きなリボンで飾られた箱を差し出す。
「ありがとう。いただくよ」
箱の中には、オーソドックスな小粒の手作りチョコ。
「……うん、美味しい」
その言葉を聞くと、二人は顔を見合わせた。
「ちょっと待っててね」
二人は部屋を出て行き、洗面所へ向かう。
戻ってきたとき──
二人は、チョコの箱をくるんでいたのと同じリボンを身に巻いていた。
「……私たちも、食べて」
頬を真っ赤に染めながら、そう言った。
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ベッドに腰掛けた優香。
晴道は静かに言った。
「それって……そういう意味で、いいんだな?」
昨年末までの千紗なら、ここで晴道に優香を任せて部屋を出ただろう
でも、今年始めにあのラブホテルで自ら出した結論
”ふつうに一緒に晴海を愛すればいいじゃない”
だから千紗は言った
「私と優香、”一緒に”愛して」
数日前の晴道なら、ためらったかもしれない。
だが、昨日の由美子との出来事が彼を変えていた。
──「愛されたら、愛し返す」
その言葉通り、晴道は素直に二人を受け入れた。
三人の呼吸が重なり、部屋の空気が熱で歪んだ。
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「幸せだったよ」
優香が微笑む。
「二人とも、素敵だった」
晴道は答える。
だが優香は、少しだけ胸を締めつけられていた。
(一度も、“好き”って言ってもらえなかった……
千紗には言ってるのかな……?)
その思いは、これからも彼女を苦しめ続ける。
千紗は思った。
(……これは、癖になるかも)
狭いセミダブルのベッドで、三人は寄り添っていた。
「今度からは、交代にしようね」
千紗が少し笑いながら言う。
晴道は心の中でつぶやいた。
(俺の幼なじみたち、積極的すぎる……)
──けれど、それは嫌なはずがなかった。
「一緒に」。
その言葉は、甘くて、やわらかくて、
けれど想像以上に重い。
三人で選んだ形。
三人で踏み出した一歩。
けれど――
同じ場所にいても、
同じ気持ちとは限らない。
晴道は「愛されたら、愛し返す」と決めた。
千紗は「一緒に愛すればいい」と決めた。
優香は……まだ言葉にできない想いを抱えている。
祝福の連鎖は続いているように見える。
でも、その内側に小さな揺らぎが生まれ始めています。
それが未来にどう影を落とすのか。
物語は、静かに次の局面へ進みます。
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次回、
卒業旅行へ向けて、静かに動き出す三人。
コンカフェでのアルバイト。
資金の確保。
親たちの思惑。
そして、行き先は――会津若松「霞の宿」。
祝福の旅か。
それとも試練の旅か。
舞台は整い始めました。
卒業旅行編スタート。




