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三人のヒロインとシェアハウスすることになった僕は、全員を本気で愛して呪われてしまった。 ――告白は観覧車のてっぺんで  作者: iron-bow


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【第10話-07】祝福と呪いのあいだで始まる物語-花音

前話では、晴道側から見た“あの日”を描きました。


けれど物語は、ひとつの視点だけでは完成しません。


同じ時間、同じ出来事。

それでも、立っている場所が違えば、

そこにある意味はまったく変わる。


由美子は、ずっと“脇役”のように見えていたかもしれません。

けれど彼女にも、積み重ねてきた時間があり、

選び続けてきた道があり、

覚悟してきた想いがあります。


誰もが、自分の物語の主人公。


今回は、その主人公の視点から――

あの日を振り返ります。


どうか、由美子の心の動きにご注目ください。


【Scene02.3:由美子】



この日の出来事を由美子視点で振り返る


里塚由美子は、小学校4年から5年に上がる春休みに、

親の仕事の都合でこの街へと引っ越してきた。


生まれ育った田舎町を離れ、幼なじみや友達とも離れ離れになる。

見知らぬ街。友達の一人もいない。


もう小学校高学年。小さな子どものように駄々をこねるわけにもいかない。

自分でなんとかするしかなかった。


けれど、その年頃は人間関係がすでに出来上がっており、

新参者が入り込むには難しいタイミングでもあった。

だからこそ、由美子の両親は心配していた。


幸いだったのは、ちょうどクラス替えの時期だったこと。

新学期は新しいクラスでの自己紹介から始まった。

そしてその場で――由美子は晴道に出会った。


人懐っこい笑顔。

誰にでも優しくできる性根。

転入生として緊張する由美子に、真っ先に声をかけてくれた。


「僕は小泉晴道。お友達になろ!」


その明るさは、小学校低学年の頃の彼を知る者からすれば想像できないほどの変化だった。

――千紗に鍛えられた結果だと知るのは、もっとずっと先のことになる。


由美子にとって幸運だったのは、5年のクラスでは

彼の幼なじみである千紗と優香が別のクラスだったこと。

だから、学校にいる間は晴道を“独占”できた。

放課後に一緒に帰り、由美子の部屋で遊ぶことも多かった。


そして、由美子は――晴道に初恋をした。


しかし、晴道には千紗と優香がいた。

明るく元気で積極的な千紗。

静かで可愛らしい優香。

しかも晴道は、どうやら優香のことが好きらしい。


それに気づいたとき、由美子は一人で泣いた。

それでも晴道、千紗、優香、武――その中に自分も混ざって遊べるだけで幸せだった。



中学に上がると、由美子は小学校のクラブ活動で出会ったバレーボールに夢中になった。

それは、可愛くなっていく千紗や、美しく成長していく優香に

敵わないと思ったゆえの“逃避”だったのかもしれない。


だが、由美子には才能があった。

努力は結果を生み、バレーボールに青春をかけるようになった。

それでも晴道たちと遊ぶことはまだ多く、

稀に二人きりで出かけることもあった。

そのたびに――胸がときめいた。


高校受験の時、由美子は悩んだ。

バレーボールの強豪校に進むか、それとも晴道たちと同じ高校に進むか。


そして――由美子は、晴道を選んだ。



高校に入ると、由美子はさらに才能を開花させた。

背も伸び、胸も育った。

それが余計だったが、締めつけるブラジャーで押さえ込んだ。


その頃、千紗はロリ巨乳に、優香はクール美人になっていく。

焦った由美子は、晴道への告白を決意する。


「せっかく晴道と同じ高校を選んだんだ。ライバルの二人に負けてばかりいられない!」


一大決心だった。

しかし結局、千紗と優香の巧みなガードに阻まれ、

告白のタイミングを失った。


そして、由美子は自分に言い聞かせた。


「私は、バレーボールに生きるの」


そうして部活に没頭し、やがてチームのキャプテンとなる。

大学からもスカウトが来て、早々に進学を決めた。

高校3年――晴道たちと会う機会はもうほとんどなかった。



秋も深まる頃、晴道たちの周囲が騒がしくなる。

三人の関係に“決着”がついた、別れた――そんな噂が流れた。

単に受験に集中しているだけという声もあったが、

由美子は感じていた。

晴道に、どこか“影”が落ちていることを。


そんなある日。クリスマスが近づくころ、

千紗からメッセージが届いた。


『今、すごく悩んでいる晴道に、応援メッセージをお願いしたいの』


クラス全員に頼んでいるらしい。


――やっぱり、何かあったんだ。


由美子は勇気を振り絞って、本名でメッセージカードを書いた。


『あなたと同じ高校に行きたくて、この学校を選んだんだ。

 ――里塚由美子』


私の想い、届いて。

そう願いながら。



そして年明けの食事会。

母にオールの許可を取り、心の中で願っていた。

(久しぶりに晴道とゆっくり話したい)


しかし――揃って現れた千紗と晴道。

二人の雰囲気は明らかに変わっていた。


(そうか……二人は、もう先に進んでしまったんだ)


由美子は悟った。


だから食事の席では、

「私とつきあってー!」「愛してるぅ!」

声色を変えて盛り上げ役に徹した。


……そして誤算。

カラオケ・オールで晴道と話すつもりが、

晴道と千紗が――「抜け出しやがったぁぁ!!」


篠原と中里までいなくなる。


「これから二人で……」

想像してしまい、由美子は泣きそうになった。



けれど、由美子にもチャンスが訪れる。

2月13日から14日にかけて、両親が泊まりがけで出かけることになったのだ。


(バレンタインデー当日はきっと千紗と過ごすだろう。

でも前日なら――私にだってチャンスがある!)


それから由美子は、手作りチョコの練習を始めた。

男子にチョコをあげるなんて、生まれて初めてだ。


(世の中の女の子は、みんなこんな面倒くさいことしてるの?)


初めはそう思っていたが、

だんだんと出来が良くなるにつれ、

(晴道、喜んでくれるかな?)

そう思えるようになって、楽しくなってきた。


そして、ネットで勝負下着を探した。

(これなら私だって、晴道に“女”として見てもらえるかも)

そう思うと、衝動買いしてしまった。


迎えた2月13日。


初めて勝負下着を身につけ、鏡を覗き込む。


(……私だって、なかなかやるじゃない)


精一杯可愛らしくしたワンピースに、少しだけ大胆なガーターベルト。

ネットの情報によれば、この“ギャップ”が良いらしい。


少しだけ――勇気が湧いた。


(でも、これって見てもらえなきゃ意味ないじゃない?)


そう気づいた由美子は、手作りチョコを冷蔵庫に置いた。


――晴道を連れて帰る。そう心に誓って。



待ち合わせ場所は、晴道の家から少し離れたショッピングモール。


「年始の食事会とカラオケではゆっくり話せなかったから、久々にゆっくり話したいの」


そう言って誘った。


しかし由美子は、自分が今、晴道の目を奪っていることを正確に感じ取っていた。


(勝負下着ありがとう。

嫌いだったこの胸も、晴道が気に入ってくれるなら無駄じゃなかった。)


そう思えるようになった。


だから――


「春物のお洋服、選ぶの手伝って欲しいの」


(完全にデートだ!)


由美子の胸は高鳴った。


洋服は結局買わなかったが、試着して晴道に見てもらうのが楽しかった。

晴道が「可愛いよ」「似合ってるよ」と言うたびに胸が熱くなる。

幸せな気分だった。


(……言い慣れてる。いつも千紗に言ってるんだ)

その考えは、必死に振り払った。



昼食のパスタ屋で、二人に同時にLINEが届く。

“優香が大学合格を決めた”


「優香、やったね! お祝いしてあげないと」


由美子も”おめでとう”と送ったが、

頭の中は晴道のことでいっぱいだった。


(晴道が優香にお祝いを言いに帰っちゃう……嫌だ。

今日だけは、晴道は私のもの。私の番。)


どうする?

どうすればいい?


そのとき思い出したのは――午前中の試着のとき。


(晴道が“可愛いよ”って言ってくれた)


だから、由美子は大胆な作戦に出た。


「下着を選ぶの、手伝ってほしいの」


顔が赤くなるのがわかった。

意外にも晴道はあっさりと、


「わかった。付き合うよ」


そう言ってくれた。


(大胆な下着で晴道を誘惑するんだから!)


由美子は決意した。



下着売り場に入った由美子は、少しだけ恥ずかしそうに笑って言った。


「私ね、今までバレーボール一筋だったから、スポーツブラとかばかりで。

可愛いの、今つけてる1着しか持ってないの」


「そうなの? 由美子はそんなに可愛いし、胸も大きそうだから、もったいないよ」


「そんな、可愛いだなんて……嬉しい」

その小さな声は、晴道の耳には届かなかった。


「私ね、大きな胸ってバレーボールじゃ邪魔で、嫌いだったの。

でも晴道がそう言ってくれるなら、好きになれるかも」


「うん、由美子は自分にもっと自信を持つべきだよ」


(うぅううう)

由美子は心の中で悶絶する。


「じゃあ……晴道が、ブラジャー選んで!!」


晴道は顔を赤らめた。


「これ、どうかな?」


由美子がそう言いながら、次々とブラジャーを自分の胸にあてがい、感想を求めた


「その色いいね」

「ちょっと大胆すぎない?」

「その色は由美子のイメージと違うかな?」

「似合ってるよ」


由美子は、晴道が「その色いいね」「似合ってるよ」と言ってくれた二着を手に取り、店員に声をかけた。


「試着、できますか?」


その時、晴道が「外で待ってるね」と言いかけると――


「もちろんいいですよ。こちらでお願いします。彼氏さんも中にどうぞ。待機ブースがございますので」


由美子は瞬時に判断した。

このままでは晴道が『彼氏じゃないから』と言って逃げる。

――逃がさない。


「あ、彼氏じゃなくて、幼なじみなんです。……ダメですか?」


店員は笑顔を崩さず答えた。


「大丈夫ですよ。中にはちゃんともう一度仕切りがありますので、覗かない限り見られません」


こうして晴道は、辞退するタイミングを完全に失った。


――由美子は、バレーボール部のキャプテンだ。

試合の一瞬で状況を判断し、適切な指揮を取る。

大学が即スカウトに来るほどの有能なリーダー。

そんな彼女は――実は、なかなかの策士だった。


(もっとも、それはこの物語の本質ではない)



フィッティングルーム。ワンピースを脱いだ由美子。

だが、そこにあったのは、先ほどまでの冷静さではなかった。


(ここで、下着姿を見せるつもりだったけど……

無理無理無理無理!! さっきの私、何考えてたの!?

こんなの絶対ムリ! 恥ずかしくて死んじゃう!!)


震える手で、なんとか試着のブラジャーのホックを留める。

そして、カーテンの隙間からそっと顔を出して――


「晴道、さっきの店員さん呼んでくれるかな?」


「店員さん呼んでくる!」

晴道が飛び出していき

少しだけ――ほっとした。


やがて店員が戻ってきて、カーテン越しに声をかける。


「入りますので、少し失礼しますね」

(今のは晴道に?)

「ありがとうございます」


カーテンが開き、店員がすっと中に入ってくる。

ちらりと見えた晴道の背中は、きちんと外を向いていた。


(……見せるのは無理だけど、覗かれるのは別にいいのに)

由美子はちょっとだけ、残念に思った。


「どうですか、確認しますね……」


「少し小さいようですね。サイズは今つけられてたのと同じのを選ばれました?」


「あの、私、今までちゃんとサイズ測ったことなくて……。スポーツやってたので、締め付けるタイプのしか持ってなくて……」


「今つけられてたのは、どうされたんですか?」


「通販で見かけて、衝動買いしちゃって……」


「あら、“幼なじみ”さんに見せつけるためですか?」


「えっ、あの……はい」


(なっなに言わせるの!!)

由美子の心の叫びが、フィッティングルームの中に響いた(気がした)。


「じゃあ、ちゃんと測りましょうね。アンダーにトップに……ボトムもセットですからヒップも」


「はい……」


「それじゃ、サイズに合ったものを持ってきますね」


「“幼なじみ”さん、今、”彼女”はトップをつけてないですから。覗いたらダメですよ~」

店員さんは晴道に声をかけてから出て行く


(ええええーーーっ!? ちゃんとコート羽織ってますから!!)

羞恥心ゲージが振り切れた。


ちなみに今の由美子――

ブラジャーひとつ着けていない裸の上半身に、

お洒落な薄手のコート一枚。

裸よりよっぽどエロい。


だが、晴道がその姿を目にすることは――なかった。



やがて店員が、新しい下着を持って戻ってくる。


「これ、つけてみてください。トップをつけるときは、こうやって上半身を前に倒して……

反対側の手でバストを寄せて、カップの中に入れます」


「こうですか?」


「はい、いいですね」


「どうでしょう?」


「ほら、今つけてたのよりも、ずっと大きく見えますよ。胸の谷間もバッチリです。

これなら“幼なじみ”さんもメロメロですよっ!」


「わたし、これ買います!!」


――即決だった。


もう一着も試着して、由美子は言った。


「この2着買います。パンティ2つセットなんですよね?」


「はい、トップ1つにボトム2つがセットのお値段になっております。

今週は“バレンタインデーセール”で、とってもお買い得ですよ!」


「あの、こっち着て帰ってもいいですか?」


由美子は思った。

――やっぱり、晴道に見てもらいたい。


「もちろんです。タグをお取りしますね。今つけられてた下着はこちらに……。簡単な梱包をして、もう一組と合わせてお入れしておきます」


「“幼なじみ”さんへの効果、すぐに確認できますね♪」


店員はカーテンの外へ出て行き


「楽しみにしていてくださいね」


そう晴道にも言い残して店員さんはブースを出て行った


(なななな何言ってるのーーーーっ!!)


由美子は、

――さっき自分で“見せるために”着て帰る事を選んだくせに、

思いっきり真っ赤になって、心の中で叫んだ。



「さあ、そろそろ帰ろか」


由美子が会計を済ませると、晴道が穏やかに声をかけた。

「帰って、優香に大学合格のお祝いも言ってあげないと」


「優香、晴道と“一緒”の大学に合格したんですよね」


由美子も優香の受験状況を知っていた。

晴道と“一緒”にいたいがために、

自分の学力からすれば少し背伸びをして受けたことも。


(スポーツ推薦で安易に大学を決めた私とは違う。

私は晴道と“一緒”にはいられない。――でも、今日だけは。)


そう心に決めて、帰路についた。



晴道はちゃんと、由美子を家まで送ってくれた。

昔から、そういうところは変わらない。

優しい男の子だ。


「晴道、渡したいものがあるんです。部屋まで来てくれませんか?」


晴道は少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。

別れがたく感じてくれているのかもしれない――

そう思うと、胸が熱くなった。



部屋に入ると、そこはバレーボール一色だった。

有名選手のサイン入りポスター、試合のメダル、トロフィー。

(男の子を迎える部屋じゃない……)

由美子は少しだけ頬を染めたが、もう止まれなかった。


晴道をリビングに待たせ、冷蔵庫からチョコを取り出す。


「これ、もらってくれる? 食べてほしいの」


両手で差し出したチョコは、頑張って作ったもの。

ラッピングのリボンが小さく震えた。


「ありがとう。いただくよ」


その声は、驚くほど優しかった。


「ありがとう」

ようやく、少しだけ緊張がほぐれた。



「すっごく美味しかったよ」


晴道はあっという間に食べ終え、笑顔でそう言ってくれた。


「良かった……手作りチョコなんて初めてだったから」


晴道がチョコを食べ終わってしまったから

引き止める理由がなくなった

でも、心のどこかで分かっていた。

ここで止まったら、何も変わらない。


(ここは――攻めるタイミング)


「晴道に見てほしいの」


「何をだい?」


「今日、晴道が選んでくれた下着」


「いや、選んだ時に見ちゃってるから」


「違うの。その下着を着けている“私”を見てほしいの。

晴道が“可愛い”って言ってくれたから、自信を持てたの。

“似合っているよ”って言ってくれた。

この下着を着けた私を、見てほしいの。……駄目かな?」


「いや、そういうわけには……」


「私のこと、嫌い?」

少しだけ、ずるい言葉だった。


「そんなことあるわけないじゃないか!」


「嬉しい。だったら、お願い。見て」


その瞬間、由美子は晴道の胸に飛び込んでいた。

それは作戦でも計算でもなく、

ただ――抑えきれなかった衝動。


「わかったよ。見せて、由美子のきれいな体を」


その言葉に、心が震えた。


「ご両親は?」


「今日は二人とも帰らないの」


一瞬の沈黙が流れた。


由美子は背中に手を伸ばし、

ワンピースのファスナーを下ろそうとした。

すると、晴道の手がその上に触れ――

静かに、最後まで下ろしてくれた。


「ありがとう」


(晴道に脱がされた……)

顔が一気に熱くなる。

由美子の頬が真っ赤に染まった。


下着姿が、あらわになる。

先ほど晴道が「似合ってるよ」と言ってくれたブラジャー。

寄せて上げられたバストがたわわに盛り上がり、

深い谷間が影を落としている。

いつもの由美子からは到底想像できない姿。


そして、それにお揃いのパンティ。

さらに太ももには――ガーターベルト。

勇気を振り絞って着けたそれは、

まさしく「正しく機能した」。


“ゴクリ”とツバを飲み込む音が聞こえた。

晴道の視線が、由美子を捉えて離さない。


(晴道が……私を“女”として見てくれている――)


胸の奥が熱くなり、体の芯まで痺れる。


「どうかな……?」


「とっても綺麗だ。可愛い」


その声に、由美子の体はさらに熱を帯びた。


「好きだな……」


(――晴道が、“好き”って言ってくれた)


その“好き”が、幼なじみとしての想いであることは分かっていた。

異性への好意ではなく、感謝や信頼の延長線にある“好き”だということも。

それでも、涙が溢れて止まらなかった。


「どうして泣くの?」


「だって、幸せだから」


晴道は由美子の体を強く抱きしめた。


「なぁ、俺の話、聞いてくれるかな?」


由美子は頷き、静かに耳を傾けた。

晴道の言葉を――そのすべてを。


千紗と優香との出会いから、繰り返した過ち。

そしていつしか「自分なんかが人を好きになってはいけない」と思い込むようになってしまったこと。


好意を伝える言葉を、口にできなくなっていること。


「でも……クリスマスイブの夜、みんなのメッセージカードを見て……少し軽くなったんだ」


由美子の胸が締めつけられた。

(晴道、そんなに苦しかったんだ……)


そして聞いてしまう。

優香との夜のことも――すべて。


確かに、ショックだった。

でも、そんなのはどうでもよかった。

(晴道がかわいそう……)

そう思うと、涙が止まらなかった。


「なぜ由美子が泣くの?」


晴道が体を離し、覗き込む。


「だって、そんなの……晴道は悪くない。

千紗も、優香も、誰も悪くない」


その言葉は、由美子の心から溢れ出たものだった。


「ありがとう。好きだよ、由美子」


「今、“好き”って言えた」


その瞬間、晴道が苦悶の表情を浮かべる。


「晴道、大丈夫? ごめんね、私のせいだ」


由美子は反射的に――晴道にキスをした。

それが、彼女のファーストキス。


少しでも、晴道の心を救いたかった。

その想いが、唇に乗った。


やがて晴道の表情から、苦しみが消えていく。


「由美子……ありがとう」


「良かった……」

涙がまたこぼれた。


――そのとき、由美子は気づいた。

晴道の物が、下から押し当てられていることに。


「……いいよ」


「えっ?」


「ごめんなさい。ずるい言い方だった。

私のファーストキスと一緒に――“私の初めて”をもらってほしいの」


(駄目。晴道に決めさせるんじゃなくて――私の意思で進めるんだ。)


由美子は静かに息を吸った。

その瞳は、もう迷っていなかった。


晴道は――拒まなかった。


同じ一日でも、

誰の視点で見るかで、物語の色はまったく変わります。


由美子は“奪った”のではなく、

“選んだ”。


幼い初恋から始まり、

諦めと劣等感を抱えながらも、

最後は自分の足で一歩を踏み出した。


あの日の出来事は、

一夜の感情では終わりません。



次回、

晴道は決断を迫られる。


由美子の願いを受け入れるのか。

それとも――止めるのか。


“俺なんかが”という言葉を捨てると決めたあの夜。

男として、ひとりの人間として、

彼は選ぶ。


そしてその選択は、

後の人生に大きな影響を与えることになる。


由美子は晴道に“あるもの”を植えつけます。

それはなにか。


優しさか。

責任か。

それとも、生き方そのものか。

確認ください。

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