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三十五 リターンマッチ

 京之介、ごくろうさん。ちょっと離れてろ。


(ういっす! サンタさん、頼んます!)


 オレは京之介の体から離れて、アホウドリに憑りつく。


 イメージするのは中心だ。

 クロスコアを通して、アホウドリの全身と繋がる。

 機械の体を、オレ自身だと捉える。


 高まる駆動音と共に、アホウドリの、オレの体が白く輝く。


 さあて、こっからが本当の勝負ってやつだ。


 光が収まるのと同時に、オレは完全に自分の物になった拳を構える。

 目の前にいる尻尾野郎に遠慮する必要はなさそうだ。


 全力で殴る、

 そう決めて手の甲のナックルガードを展開させた。


「ようやくお出ましかよ、ポンコツ。会いたかったぜえ」


 三瀬はアホウドリの姿を見て、狼狽えるどころかむしろ喜んでいるようにも見えた。

 吊り上げた口の中で、赤黒い舌をチロチロと蠢かせている。


 こいつにとってはリベンジマッチってところか。

 いいだろ、相手になってやろうじゃねえか。


「さあ、スクラップの時間だァッ!」


 前に飛び出してきた三瀬の背後から、尻尾が槍のように伸びてくる。


 速え。

 けど、今度はわざわざ避けねえぞ。


 胴体に向かって一直線に進んできたその一撃を、オレは右拳で正面から受け止めた。

 火花が散り、アホウドリのセンサーが全身を震わせる衝撃を感じ取る。


 力負けはしてねえ。ほとんど互角。


 小細工じゃなく、単純な力で勝負ができるってのはありがたいもんだ。

 オレは両脚を突っ張らせてよろけかけた体を支え、もう一度、右腕で殴り掛かった。


 しかし、その腕は三瀬の尻尾の一振りで弾かれる。


「おっせえんだよ、ボケが!」


 横薙ぎに払われた尻尾の勢いのまま、三瀬の体がその場で回転する。


 円のような軌道を描きながら尻尾が再び、こっちの胴に迫ってくる。


 一撃目よりもさらに速く、重い。


 激突の前にかろうじて腕を滑り込ませてはみたものの、勢いは殺しきれなかった。

 ガードした腕ごと、アホウドリの鉄製の体が横にもっていかれそうになりやがる。


 どうなってんだ、今の動き。

 こいつ、前に戦った時より明らかに。


 強くなってねえか?


「ハッ、いくら力が強かろうが、所詮は機械だな! 動きがどんくせえんだよ!」


 うるせえな。誰がどんくせえ幽霊だよ。


 今度はオレのほうから近づいて殴りかかってみたが、ひょいひょいと上半身を動かすだけの三瀬に躱されてしまう。


 単純にすばしっこいだけじゃねえな。

 こいつ、オレの攻撃を確実に先読みして、避けてやがる。


「お前みたいな鉄クズがよお、人間様に勝てるかってんだ!」


 振り回したオレの拳の下をくぐり抜けた三瀬は、下からすくい上げるような蹴りを放ってくる。

 生身の脚での一撃だったにも関わらず、頭を蹴り飛ばされたアホウドリの体が後ろに傾く。

 そして、オレが体勢を立て直すより先に、三瀬が胴をひねり始めているのが見えた。


 次にやってくるのは、当然尻尾。

 咄嗟に拳を突き出してみたが、今度は押し負ける。

 たたらを踏みながら後ろに下がり、どうにか転ばないようにするので精一杯だった。


 くっそ。

 三瀬本人に一発当てさえすりゃあいいってのに、その一発の当て方が思いつかねえ。

 考えなしの力技じゃ駄目。


 やべえな、こいつ。

 オレが思っていた以上に厄介な相手だったらしい。


「おいおい、こんなもんかよ。あんまし、白けさせんなや」


 拳を構えなおすオレを、三瀬はつまらなさそうに眺める。


 肩をすくめて立つその姿は隙だらけにも見えたが、オレは踏み込んでいくことができない。


 迂闊に手を出せば、倍になって返ってくる。

 そんな不安がオレの動きを縛る。


「この分なら、ここまで仕上げてくる必要はなかったかもしれねえな」


 そう言って、三瀬は体を沈み込ませた。

 そのまま両脚を肩幅より広げ、だらりと下げられた腕が地面に触れるほどに、深く、深く、構える。


 そして、三瀬の姿勢とは対照的に尻尾だけが腰元から高く高く掲げられていた。


 なんだ、今度は何をするつもりだ?


 ……ちょっと待て。こいつ、手足になんか着けてねえか?


 三瀬の異様な構えをじっくりと眺めて、気付いた。

 両腕と両足を、薄い装甲のようなものが覆っている。

 手の甲から肩まで、踵から腰骨まで、赤黒いライダースーツに紛れるように。その全てがちょうど尻尾の付け根の部分にまで繋がるようにして纏われていた。


 トンネルでやり合った時はあんなもん着けてなかったはずだ。


 間違いねえ。

 こないだよりあいつの動きが派手なのも、あの薄っぺらい甲羅のおかげってことか。


 つうことは、身を守る鎧というより、筋力を底上げする効果があるもんだと思っといたほうが良さそうだ。

 あの鉄の尻尾を最大限に活かすための装備。そんなところだろう。


 なんとなく、からくりは分かった。

 後は、どうやってやり返すかなんだが。


「まァ、いいや。どのみちぶっ壊すんだから派手にやったほうが気持ちいいか。感謝しろよ、ポンコツ」


 悠長に考える時間は、くれそうにねえな。


 尻尾を高く構えたまま、三瀬が体を横に揺らし始めた。

 初めは上半身だけだった揺れが段々と大きくなり、足が右へ左へとステップを踏み出す。

 力の入っていない腕が振り子のような軌道を描く。


 ぱっと見、意味の分からない動きだ。

 だが、三瀬の目を見ればそれがおふざけじゃないことがはっきりとわかる。

 毒針をかまえた蠍、そんなものが頭の中によぎるほどの眼光。


 色濃い殺意を、感じ取る。


「粗大ゴミにするまえに、面白いもん見せてやるよ!」


 叫んだ瞬間、三瀬は体を回転させ尻尾を薙ぎ払ってくる。


 高い位置から、遠心力まで加わった一撃の威力は、これまでに受けたものの中でも最大。

 受け止めようと交差させたこっちの両腕を簡単に弾き飛ばしてくる。

 一方で三瀬の動きは止まらない。

 尻尾とアホウドリの腕が激突した反動を利用して、その体が逆回転をはじめていた。

 ただ回っているんじゃない。

 下げていた両腕を地面につき、脚と腰を跳ね上げる。


「……ッシャア!」


 逆立ちの姿勢になった三瀬の蹴りが、一発、二発と連続でアホウドリの頭を捉える。

 そして、その後にやってくる尻尾が、完全に無防備になった胴体に叩き付けられた。


 轟音と同時に、アホウドリの腰が軋む。

 三瀬の長い尻尾の腹が火花をあげながら上半身を蹂躙していくのがわかった。

 限界を超えた衝撃を受けたアホウドリの金属の体が、歪んでいってしまうのを感じる。


 視界を襲ってきやがる激しいノイズ。

 こいつは痛みを感じないアホウドリなりの悲鳴みたいなもんなのかもしれない。


「どォしたァ! ちゃんと受け止めろやオラアッ!」


 三瀬の攻撃は止まらない。

 上下左右から蹴りが、尻尾が、アホウドリに向かって打ちつけられる。

 不規則で、素速い尻尾の軌道が、まるで読めねえ。


 とにかく一度動きを止めねえと話にならん。

 このままじゃ、やられちまうのも時間の問題だ。


 なんとか、尻尾だけでも受け止めろ!


「ああっ?」


 右下から振り上げられた一撃を、あえて腕で防がずに脇腹で受ける。

 そのまま小脇に抱え込むようにして、オレは尻尾を捕まえることに成功した。


 三瀬が激しく体を揺さぶって振りほどこうとしてくるが、そうはいかねえ。


「放せや! 何掴んでんだてめえ!」


 やなこった。

 ちと不格好だがこっちも考える時間が欲しい。

 しばらく抑え込ませてもらうぜ。


 落ち着け。

 このままじゃまずい。どうにもならねえのはわかってる。

 どうすりゃいい?

 このまま振り回して投げ飛ばすか?


 駄目だ。この三瀬とかいう野郎の頑丈さはまともじゃねえ。

 飛んでいって地面に落ちても、またすぐに立ち上がって向かってくるだけだ。

 そうなりゃさっきの二の舞。

 尻尾を掴むのも、もう警戒されて難しいだろ。


 勝ち筋はとにかく一発殴ること。

 けど両手が塞がった今の状態じゃ無理だ。

 こっちが動ける状態で、三瀬が避けられないような状況を作り出す必要がある。


 だが、どうやって?

 どうする、どうするどうする?

 どうにもならねえ? それでも考えろ!


 何か使えるものはないか。


 ただの偶然、苦し紛れに周りの様子をうかがったオレの目、アホウドリのセンサーがある物を捉えた。


 ……なにやってんだ、あいつ!


「大丈夫ですか! こっちに!」


 三瀬の襲撃で滅茶苦茶にされた喫茶店の中で、昴がよく通る声を張り上げていた。


 飛び散ったガラスの破片で怪我をして逃げ遅れていた客に手を伸ばし、肩を貸して歩き出す。

 客の額から流れ出る血で自分の服が汚れようと、小柄な体に寄りかかる重さでよろけかけようと、怯まず、諦めず、足を進める。


 馬鹿だな、と、そう思った。


 普通はさっさと逃げるんだよ。

 仕方がないと自分に言い聞かせて、見て見ぬふりするんだよ。


 偉すぎるっつーの。本当にすげえ女だよ。

 お前さんのそんな姿、見せられちまったらな。


 オレが気合入れねえわけには、いかねえだろが!


 三瀬の尻尾が腕の中でギリギリと音をたて、暴れまわっている。

 もう何秒も抑えてられねえ。


 このままじゃどうにもならねえよな。

 どうにもならねえが、どうにかしないといけねえ。


 何かあんだろ。ひねり出せよ。


「サンタさん! 負けないでください!」


 この声は、京之介か?

 喫茶店の中にはまだ逃げていない馬鹿がもう一人居た。

 頼りない面構えの大男が、不安そうな顔でこっちを見てやがる。


 いや、なんでだよ。離れてろっつっただろうが!


 せめて昴の手助けくらいしろよ!

 肝心なところで役に立たねえ奴だな、おい!


 ……いや、ちょっと待て。

 本当に役に立たねえか? あいつは。


 そうだ。

 あるぞ、思いついた。

 たった一つだけ、この状況を何とかする方法がある。


 そのためには京之介の手助けが、必要だ。


「いつまで掴んでんだボケが!」


 怒声と同時に三瀬が一際強く尻尾を振った。

 耐え切れなくなったアホウドリの手がそれだけであっさりと振りほどかれてしまう。


 そのまま返す刀のように三瀬が放った尻尾の一撃でアホウドリは完全にバランスを崩し、無残に地面を転がった。


 派手な音をたててひっくり返って倒れこんだその巨体は、もう起き上がることができない。


 そりゃそうだ。

 今はオレが憑いてないわけだからな。


 オレは本来の幽霊としての姿で京之介の元へ向かい、その頭の中に飛び込むようにして話しかける。


(おい、京之介、ちょっと聞け)


「うええっ! ちょ、サンタさん、何やってんすか! アホウドリから離れちゃまずいでしょ!」


(わかってるよ。ただな、オレ一人じゃ正直どうにもならねえんだ)

「そんな……じゃあ、あの三瀬とかいう奴にアホウドリが黙って壊されるの見てるんすか!」

(んなわけねえだろ! いいか、時間がねえ。一回しか言わねえからよく聞けよ)


 オレは念を押すように、京之介に語り掛ける。


(オレと、お前の二人で、何とかする。手を貸してくれ)


「いや、俺なんかじゃ何の役にも……」

(うるせえ! やるしかねえんだよ! 腹括れよ男だろうが!)

「…………わ、わかりました。聞かせてください」


 ごくりと喉を鳴らして黙る京之介。

 どうやらオレの言葉に意識を集中させてるみたいだな。


 びびっちゃいるが、やる気にはなった。

 そんな心の内が伝わってくる。


(いいか、オレが今からあの尻尾野郎の動きを止める。あいつの様子がおかしくなったら、それが合図だ)

「合図って、オレは何するんすか」

(動けなくなったあいつを殴れ。出来る限り殴り続けて動きを止めろ。それが作戦だ)

「さ、サンタさん、それは作戦って言わないんじゃ……」

(他に方法がねえんだよ! オレの声はお前にしか届かねえ。お前以外にできる奴なんざいねえんだ。大丈夫だ。必ず上手くいく。オレが保証してやるよ)


 オレの言葉に京之介はどこか諦めたような顔で目を閉じて、


「し、信じてますからね。なんとかしてくれるって」


 ぱしいん、と両手で自分の頬を張った。


(ああ、任せとけ。お前は腰入れて、力一杯かましてやりゃあいいからな!)

「……はいっ」


 上等だ。

 少しは締まった顔になったじゃねえか。


 オレはすぐさま京之介の体から抜け出して、倒れているアホウドリの元へ飛んでいく。


 京之介にはああ言ったが、オレだって腑抜けたことはできねえ。


 大切なのは、自分の体だと思うこと。

 動かせると確信すること。


 短い時間で機械に憑りつく感覚を何度も何度も思い返す。


 チャンスは一回だ。気張れよ、オレ。


「あーあー、もう壊れちまったかあ。んじゃまあ、後は適当にバラしてやるだけだけだわな」


 三瀬はニヤニヤと笑いながら、アホウドリを見下ろしていた。

 金属の尻尾の先端が、舌なめずりでもするかのように開閉を繰り返している。


 自分の勝ちを確信した下衆の顔ほど、見ていて胸糞悪くなるもんもないな。


「やっぱさあ……最初は頭だよなァ!」


 鋭い叫び声と同時に、アホウドリの頭めがけて尻尾が振り下ろされる。


 そう、ここだ!


 オレは全ての意識を集中させ、取り憑く。


「……あん?」


 オレの狙いはアホウドリじゃなく、三瀬の尻尾。


 細く、長く、それでいて強く、三瀬の背面から伸びている金属の尾に意識を巡らせる。


 今だけはこれがオレの体だ。

 動かしているのは自分だと、言い聞かせて押さえつける。


「おい、どうしたよ? 動けっての」


 結果は、成功。

 突然動きを止めた尻尾を、三瀬が怪訝そうな顔で見つめる。


 土壇場の一発勝負、練習もなし。

 イチかバチかの賭けだった。


 オレが憑けるのは京之介みたいに霊感みてえなもんがある奴と、機械だ。

 そんで三瀬の背中から伸びてる尻尾もその仲間。

 上手くいけば動きを止められるだろう。


 上手くいくと信じてやるしかなかった、とも言える。


「ざけんな! また故障か⁉ あのチビババアいい加減な仕事しやがって!」


 尻尾を動かそうと躍起になっているのだろう。

 尻尾の根元から三瀬からの命令みたいなもんがガンガン走ってくるのを感じる。


 気を抜けば持っていかれる。

 動きを止めているのでオレの意識は手一杯だ。


 けど、これでいい。

 オレにできるのはここまでだ。


 だから。


 頼むぞ、京之介!


「うあああああああああああっ!」


 三瀬が尻尾に気を取られている隙に、その背後からうわずった声を上げて突っ込んでくる大男。


 オレの指示に従って死角に回り込んでいた京之介は、走ってきた勢いのまま三瀬の顔面を殴りつけた。


「うああっ! 倒れろ! 倒れろ倒れろ倒れろ倒れてくれっす!」


 型も狙いもあったもんじゃねえ。

 駄々をこねるガキのようにがむしゃらなパンチが三瀬の体のあちこちを叩く。

 情けないにも程がある姿だが、京之介の体重と筋力だ。

 普通のチンピラならこれで決着ってところ。


「……やってくれんじゃねえか、兄ちゃん」


 だが、三瀬は気を失うどころか揺るぎもしない。

 京之介のパンチを片手で受け止め、低い声で唸る。


 まあ、こうなるよな。


「こんなもんで俺をどうにかできるとでも思ったのか、ああん?」

「うわあああ! 駄目でしたごめんなさいサンタさん助けて!」


 拳を振り上げた三瀬に襟首を掴まれ、京之介が泣きそうな声で喚き散らす。


 ほんっとに、仕方ねえな。


 けど、よくやった。

 ナイスガッツだ、京之介。


 足りなかった分は、オレが請け負ったぜ。


 京之介が一発目を入れた瞬間に、オレは三瀬の尻尾から飛び出し、アホウドリへと憑きなおしていた。


 目も眩むような閃光と同時に、一際高い駆動音を上げてオレは立ち上がる。


「まだ動きやがんのか! このポンコ、ツ?」


 オレが動き出したのを見て、三瀬が即座に反応した。


 しかし、その体は動かない。


 自分の武器であったはずの尻尾が足に絡みつき、先端が地面に深々と突き刺さっている。その事実を目の当たりにした三瀬の目が、驚きで激しく揺れ動いているのが見えた。


 今更気づいたって、遅いんだよ!


 オレがやったことは単純だ。


 京之介に殴られて、三瀬の意識がそっちに向かったタイミングで尻尾の主導権を奪い取り、次の攻撃を躱されないよう体を縛り付ける。


 三瀬が京之介を冷静に処理して、尻尾に意識をやり続けていたら成功しなかっただろう。

 でも、大丈夫だ。

 オレには確信があった。


 こいつは、短絡的な暴力バカだからな。


 やられたら、やり返すことを何よりも優先すると思ってた。


 アホウドリのナックルガードを解除し、広げた手のひらを振りかざす。

 遠慮も、容赦も、油断もしねえ。

 オレは三瀬の頭を掴み、逃げられないように締め上げて。


 力一杯、地面に叩きつけた。


「うぼっガアアアアアアア! ぶっつぶ……」


 アスファルトにひびが入るような一撃だったにもかかわらず、三瀬は驚異的な頑丈さで意識を留めていた。

 頭と鼻から血を噴出させてなお、獣のように暴れ、吠え続ける。


 化け物じみたタフさだな、こいつ。

 だからこそ殴り飛ばさずに、掴んで押し倒したわけだが。


 殴って倒せない。

 なら、倒せるまで殴り続ける。

 簡単な理屈だ。


 オレの攻撃的な意識に反応して、三瀬の頭を掴む右腕の肘から熱を持った空気が吐き出される。

 最初に戦った時と同じ、トドメの一撃。


 ただし、今度はちょっとばかしエグいからな。


 くらえや! アホウドリ必殺の!


 飛ばないロケットパンチ連打だ!


「あ、ぼっ! うびゃあああああああああ!」


 凄まじい勢いで打ち出された右腕が、即座に地面に激突して戻ってくる。


 アホウドリの脳天まで突き抜けてくる衝撃を無視して、もう一度発射。

 激突、発射、激突、発射激突発射激突発射。

 一撃ごとにアスファルトの亀裂が大きく広がっていく。


 アホウドリの右腕を中心に、蜘蛛の巣状に、地面が砕けていく。


「…………ぁ……がぅ」


 三瀬が白目をむき、動かなくなるまでに七往復かかった。


 そりゃ、京之介の体で殴ったくらいじゃビクともしねえわけだ。


 オレは最後の最後まで目をぎらつかせて暴れていた三瀬の頑丈さと、執念深さに、腹の底が冷えるような得体の知れなさを感じていた。


 鉄の尻尾や、手足の装甲なんか、おまけみたいなもんじゃねえか。


 こいつは、とんでもねえ相手だった。


「さ……サンタさん、その人、生きてます?」


 一部始終を傍で見ていた京之介が、不安げな表情で三瀬の顔を覗き込む。


(生きてるんだよ、これが。信じられねえことにな)


 手を放して、地面で伸びている三瀬の姿を見ても、ちっとも勝った気がしねえ。


 こんなイカれた野郎と喧嘩するのは、もう二度とごめんだわな。


「なんとかなったってことで、いいんですよね?」

(たりめーだろ、オレ様が本気だしゃ楽勝だよ楽勝。でも、まあ)

「……?」


 オレはアホウドリの右手を拳の形にし、京之介の前にかざす。

 きょとんとすんな、バカ。


(半分は、お前のおかげだ)

「痛ってえ!」


 ゴスン、とアホウドリに胸元をどつかれて京之介がよろける。 


 妙なところに当たったのか、京之介はしばらくむせこんでいたが、やがて顔を上げて、


「あざっす!」


 満面の笑みを向けてきた。


 やれやれだ。

 気が抜けるったらありゃしねえよ。


 まだ全部終わったわけじゃねえ。

 三瀬が起きてまた暴れだしたら目も当てられねえからな。


 こういう時は、警察呼べばいいのか?


 しかし、この尻尾やら何やらは外しといた方がいいだろうし。


 どうしたもんかとオレが考えを巡らせている時だった。


「サンタ! 京之介! 大丈夫なのっ⁉」


 アホウドリのセンサーがタタタっと駆け寄ってくる足音を拾った。

 この声は、真白か。


「あーあーあーもう! アホウドリボロボロじゃん! 見ててハラハラしたんだからね!」


 見てたんだったら幽霊なのに死ぬほど頑張ったオレに対する労いとかねえのかよ、この駄乳女は。


 やってくるなりキャンキャン喚きながらアホウドリの周りを歩き回る真白。

 確かに相当なダメージをもらっちまったのは認めるが、どうせ直すんだしそこは後回しでいいだろうがよ。


「京之介も! あんた、あんな無茶して怪我とかしてないでしょうね?」

「はは、なんとか……大丈夫」


 アホウドリの次に心配された京之介は、なんとも微妙な笑顔で応える。


 もうちょっと感謝してやれよ?

 そいつがいなきゃアホウドリは今頃お陀仏だったんだから。


 サンタボールに憑りついて、真白に文句の一つも言ってやろう。


 そこまで考えたところで、オレの意識の中にあることがよぎった。


 ちょっと、待てよ。

 何か、おかしくねえか?


 浮かんできた疑問の形はまだ、はっきりしねえ。

 けど何だ? 何がこんなに引っかかる?


 今の状況、襲ってきた敵をやっつけて良かったね。

 それだけじゃすまねえ気がするのは、どうしてだ。


 戦いの中でボロボロになったアホウドリ。

 倒れこんでいる三瀬。

 その背中から伸びている鉄製の尻尾と、両手両足の装甲。


 オレは勝った。

 本当にギリギリじゃあったが、それは間違いない。

 京之介の力を借りたにせよ、勝ちは勝ちだ。

 そこはいい。


 ……いいのか? ほんとに。


 そもそもオレは何で三瀬と戦うことになったんだったか。

 なぜ三瀬はこんな街中で襲い掛かってきたのか。

 言葉は違うが三瀬は何度も何度も、同じことを言っていた。


 アホウドリを壊す、と。

 奪うのではなく、躊躇なく壊すと言い放っていた。


 つまり、三瀬の、いや、三瀬の後ろにいる連中の目的は、アホウドリじゃねえってことにならねえか?


 アホウドリは確かにすげえロボットだ。

 だが、三瀬の尻尾や装甲の技術と比べたらどうだ? 


 実際に戦ったオレにはよくわかる。


 アホウドリは、三瀬に使われている技術に劣っている。


 もしそうだとして、アホウドリではなく、敵に別の狙いがあるのだとしたら、それは何か。


 オレの中で電気の痺れにも似た不安が、繋がっていく。


(……おい、京之介)

「はい? サンタさん、どしたんすか」

(黒実と連絡取れるか?)


 今すぐに、確かめなきゃならねえことができた。

 三瀬がやってる動きは、カポエイラの真似事です。

 二本足と一本の尻尾でやったら強いんじゃなかろうか、と思って採用しました。


 参考に動画とかを見ましたが、実践だとすごい動きなんですね。

 カポエイラ。

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