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清算

「こら、裏クロス。何勝手に突っ走ってんのよ」


 進軍途中、上空からの羽音と共にキッカの声が響いてくる。


「何だよ裏クロスって?」


「通常の落ち着きがある様子とは正反対の気性が荒く好戦的だから裏クロス」


「はっ、そりゃあおもしれえな」


 キッカが的確に表現したので俺としては苦笑するしかねえな。


「……女泣かせ」


 キッカと相乗りしているユキがそう非難してくるが、何が女泣かせなのか言葉が少なくて全然理解できねえぞ?


「説明すると、レオナ副将軍が心の中で泣いていたのさ」


「ああ、そういうことか」


 ミアの通訳に納得する俺。


 確かに俺の取った行動というのは一軍を預かる将としては致命的だな。


 例え勝ったとしても命令違反による処罰が待っているし、負けたらどうなるのかなんて想像もしたくねえ。


 俺がどんなに最善を尽くそうとも良い結果が待っていないという事実にレオナは苦しいんだよな。


「見送りに来たのか? じゃあレオナにこう伝えてくれ。『俺に万が一のことがあればユウキに頼れ』と」


 ユウキは人の恋人を寝取る最悪な奴だが、一度自分と関係を持った人間は決して見捨てない美点もある。


 ユウキなら俺が死んで金獅子騎士団が壊滅し、決戦に負けるようなことがあってもあらゆる非難からレオナを守ってくれると信じられるからな。


 まあ、そんなユウキだからこそ俺は切り捨てる一歩手前で踏み止まれたし。


「それとここにいないアイラにも『悪い』と伝えてくれるとありが――」


「何馬鹿なことを言ってんの?」


 俺の口上を遮ってキッカが呆れ声を出す。


「……私達も戦う」


「おいおい、命令違反は俺だけで十分だ。だからお前らは持ち場へ戻れ」


 俺だけならともかく、キッカやユキまでも抜けると例え戦で勝とうが国が危うくなる。


 この戦いに臨むのは俺そして金獅子騎士団の矜持からきているので、他の者を巻き込みたくはねえんだよなあ。


「ああ、命令違反云々の件については大丈夫よ」


 キッカがアッサリと言い切る。


「私達が戦っても問題ないし、クロスも同じよ」


「おい、どういうことだ?」


 何故金獅子騎士団の行動が命令違反に問われないのか俺には分からない。


 ユウキが命令したのかもしれないが、生憎とユウキは身の安全のために戦場を離脱させたのでこの事態を知らないはずだ。


「……これ」


 ユキがスッと封筒を手渡す。


 ジグサリアス王国の刻印である金鎚の印が押された封筒を捲って中身を取り出すと。


「ふ……ハーーっハッハッハッハッハ」


 書かれた内容を見た俺は思わず腹を抱えて笑っちまったぜ。


 “借りは返したわよ by ベアトリクス”


「そゆこと。だから私達がサポートするのはユウキからの勅命ね」


 キッカはそう言った後抱えていた槍を肩に担ぐ。


「赤飛竜騎士団の役目は指揮官を麻痺させること」


「それは――」


 キッカの携えている槍を見た俺は顔を顰める。


「そう、これはあの滅びの槍よ。けど、私達に配備されている槍はチタンという合金で作られているそうだから通常より細く長いのよ」


 そしてキッカはニッと笑って。


「まあ、弓矢版もあるけどそれはククルスに持たせてあるわ。それで私達は上空から援護するから」


 キッカよ、頼むからその槍を回転させるのは止めてくれ。


 もし何かの手違いでギールやユキにでも当たれば大変なことになるぞ。


「……私」


 キッカの前に座っていたユキが口を開く。


「……戦闘不能」


「つまり倒れた敵を動けないよう戦闘不能にするという意味だね」


 ユキは懐から魔法銃を取り出す。


「……凝縮」


「魔法銃を使えば魔法を拡散せずに発動できるから、敵味方が入り乱れる乱戦時でも使用できるんだよ」


「なるほどな」


 俺は2人がどういった援護をするのか大体掴めた。


 キッカ率いる赤飛竜騎士団が敵の指揮官クラスを狙い撃ちにして指揮系統を乱し、ユキ率いる青朱雀騎士団がダメージを受けている敵を攻撃するんだな。


 様々な毒をぬり込んだ滅びの槍が効果があるのは実証済みだし、他にも全身を氷漬けや炭化させると全回復は起きねえ。


 その意味からだと十分どころではない大きな援軍に思えるが。


「しかしなあ……」


 俺としては金獅子騎士団のみで戦いたいんだが。


「何言ってるのよ、これぐらい使わなければユウキの存在並の反則スキルを持っている神聖騎士団を相手になんかできないわ」


 キッカが呆れ気味にそう反対するが、どうしても金獅子騎士団と神聖騎士団のさしで決着を付けたい。


「その通りかもしれねえが、勝てる可能性だってあるだろ?」


 なので俺は食い下がってみるが。


「……無理」


 ユキが一言で却下する。


「いや、だから――」


「「諦めろ」」


「……はい」


 キッカとユキのはもりに俺は思わず答えてしまったが、気分は大分楽になる。


 俺は幸せ者だな。


 本当にお前らと出会えて良かったぜ。


「ん? 何か言った?」


 勘の鋭いキッカが俺の瞳を覗き込んでくるが、俺は「何でもねえ」とうっとおしげに払い除けたので、それ以上追及されずに済んだ。




「ところでこの勅命ってレオナ達は知っているのか?」


 ふと疑問に思ったことを尋ねてみる。


 するとキッカは首を振りながら。


「いや、私やククルスとユキ、そしてミア以外知らないわよ」


 後ろを確認するとヴィヴィアンを始めとしてシクラリスやレオナが何事か喚いている。


 そりゃあ向こうからすればキッカとユキが独断で動いているように見えるから仕方ねえだろうな。


「早くそれを見せた方が良いんじゃねえのか?」


 俺の辟易気味な言葉に対してユキは一言。


「……早い」


「ベアトリクス様がこの勅命をヴィヴィアン様達に知らせるのはもっと後にするよう頼まれたんだよ」


「……(コクリ)」


「ベアトリクス……」


 俺は天を仰ぐ。


 おそらく奴は今頃南方でこの勅命を見たヴィヴィアンやシクラリスを想像してほくそ笑んでいるだろう。


「お前、こんなんだから性格が悪いと忌み嫌われるんだよ」


 悪魔じみた洞察力と人心操作術を持っているにも拘らず、あいつはそれを変な方向に発揮して人生を損している気がする。


 気のせいかもしれないが、ここにいないはずのベアトリクスが「望む所よ」と胸を張った気がした。

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