獅子奮迅の活躍
「トール! 全体の状況はどうなっている!」
大音量で戦況の行方を尋ねるとトールは肩で息をしながら。
「はっ! 一進一退の五分五分の状況です! 正直自分達が勝っているのか負けているのかも分かりません!」
右翼が押され気味なら左翼が押し、逆に左翼が押され始めると右翼が盛り返し始めるという危うい均衡状態。
「将軍! 青朱雀騎士団のミア副団長から魔導師の魔力が危ういという報告が上がっております!」
「具体的には?」
「今のペースですと1時間後には魔力が尽きる魔導師が出始めるそうです!」
「報告御苦労!」
俺の一声にトールは敬礼を返して戦場へと戻っていく。
そうか。
つまり後1時間で決着を付けなければこちらは負けるというわけか。
もちろん赤飛竜騎士団や青朱雀騎士団の活躍によって神聖騎士団の数は減っているものの、数万単位の数の前では焼け石に水程度。
しかし、それでもこちらが一時戦闘不能とした敵に止めを刺すのは竜騎士あるいは魔導師がいなければ不可能なことから全くの無駄じゃねえんだよな。
「仕方ねえ、俺が出るか」
ガチャリと重い鎧を軋ませながら俺は足を踏み出す。
これはユウキとサラが精魂込めて作り上げた逸品で、大抵の攻撃は魔法も含めて効かねえ。
以前は真っ赤だったが、騎士団の名称を金獅子に変えた時に色を金へと変更した。
表のクロスは嫌がっていたが、俺はこれが良いものだと考えている。
将軍は目立ってなんぼだろ。
自分には常に上が付いていると信じられるから兵士は戦うことが出来るんだ。
「しょ、将軍自らが出るのは聊か早過ぎるかと」
「どういう意味だ、ユーズ」
「はっ、今ここで将軍が前線に出ますと敵は間違いなく狙ってきます。濁流とも言える敵の猛攻に将軍は耐え切れるでしょうか?」
神経質なユーズらしい言葉だな。
常に最悪を意識して行動するユーズは金獅子騎士団では貴重な存在だ。
しかし、俺はユーズの提案を却下する。
「ユーズ、お前の意見も最もだが、ここで待っていてもじり貧だ。だからここは勝負に出るしかねえ……ザルド! 俺と共にこい!」
「御意」
ザルドは寡黙な奴だが個人的武力は4人の中で随一だ。だから俺はよく護衛としてザルドを連れて行く場面が多い。
「ユーズ、トールを呼び戻して彼を臨時の指揮官に据えろ」
「はい、分かりました」
こうなった俺を止める術がないことはユーズ自身最も理解しているのだろう。
ユーズはこれ以上何も云わず、ただ一礼してトールを呼びに行った。
「ケビン! まだ生きているか?」
「おお、大将ですかい!」
ザルドを引き連れて前線に向かった俺は、最前線で部隊を指揮しているケビンに声を掛ける。
「今から俺も戦うことにする。だから周りの兵を俺に集めてくれ」
俺が前線に赴いたことはこの派手な鎧から向こうにも伝わっているだろう。
そろそろ敵の攻撃が激しくなるだろうから、それに備えてこちらも兵を集中させておく必要があった。
「しかし、大将自ら戦場に出て大丈夫なんですかい?」
普段から豪快なケビンらしくない言葉を吐く。
「神聖騎士団の連中はいくら攻撃しても全然効かねえ、今は赤飛竜騎士団や青朱雀騎士団のおかげで士気は保っていやすが、正直徒労感をかくせやせん」
なるほどな。
前線で戦っているケビンからすると倒しても倒しても立ち塞がってくる兵士を相手にするのはきついものらしい。
「なあに、安心しろ」
俺はそのケビンに笑いかける。
「全て俺が叩き斬ってやる!」
そして俺は手近にいた兵士を一刀のもとで断ち切った。
さすがの全回復も一撃必殺の前では無力なもの。
その兵士は物も言わずに昇天した。
「大将……さすがですぜ」
俺が次々に神聖騎士団の団員を屠っている後ろからケビンの呆然とした呟きが耳に入ったな。
「おお! 彼奴は凄いな!」
わし――ベルフェルドはクロスとかいう将軍の活躍を見てそう評する。
「我ら神聖騎士団と正面から戦うことといい、将軍自ら戦って味方を鼓舞する姿勢といいまさしく奴は騎士じゃ!」
例え数十の敵に囲まれようとも決して驚かず、その豪快な一振りでなぎ倒す様はあっぱれの一言じゃ。
「武人である将軍からすれば強敵に出会うのは嬉しいでしょうが、私からすれば悪夢ですよ。我らの神聖騎士団が次々と屠られていくのを見るのは気分の良いものじゃありません」
何故バーツはため息を吐くのか。
お主は奴を見て心躍らんのか。
あの暴風の如き光景を見るとわしは忘れかけていたあの頃を思い出して仕方ない。
「よし、決めた! わしはあのクロスとかいう敵将と一騎討ちを申し込んでくるぞ」
こういうのを血湧き肉躍ると言うべきか。
熱い血潮が全身に流れ、活力が漲って来るのを感じるのじゃ。
「お、お待ち下さいベルフェルド様」
「何故止めるのじゃ?」
せっかく気分が乗ってきたのにバーツの言葉で水を差されてしまい、不快な気分になる。
「向こうは将軍が出てきた。これに応えなければ武人として名が廃るじゃろう」
奴があんなに派手に暴れ回っておるのはわしを挑発するためじゃ。
戦えと。
どちらが強いのかハッキリさせろという念がヒシヒシと伝わってきよる。
が、バーツから出た言葉はそれを否定させる言葉じゃ。
「今出て行かなくともよろしいでしょう。もう少し時を待って相手が疲れてから挑むのが正しいかと思います」
「何を言っとるか!」
ゆえにわしはバーツの提案に一喝を与える。
「お主はそれでも騎士か? 最強であるラブレサック教国がそんな戦法を用いて良いと思っておるのか!」
「しかし、万が一負けるようなことがあれば――」
「負けはせん! わしには主が付いておる!」
そんな負けた時のことなど考えているから負けるのじゃ。
勝利しかありえんと心に決めたものだけ主は微笑んでくれよる。
いくら信心深くとも、臆病者に主が味方をするなどありえんのじゃ。
「出撃じゃ! 銅鑼を鳴らせ! わし自らがあ奴の首を取る!」




