邪魔者扱い
「予想通り進んで何よりだな」
陣の至る所で繰り広げられる阿鼻叫喚の地獄絵図を睥睨しながらそんな感想を漏らす。
「自惚れっぽいがさすが青朱雀騎士団。その破壊力は他に類を見ないな」
所々に上がる火柱や吹雪などは全て青朱雀騎士団に所属する魔導師によるもの。
あれが1つ上がるたびに何十何百という命が消えていっている。
「さすがレオナ、見事な指揮だ」
青朱雀騎士団の活躍に隠れてしまうものの、今回の策における最大の功労者は間違いなくレオナだろう。
彼女はこの日のために昼夜問わずに練習を行い、完璧なものへと仕上げた。
この組織だった守りは傭兵団だと決してできないだろうな。
軍隊が手足の如く動いてくれるのは、彼らを恒常的に雇っているからこそ。
軍隊は何も生み出さない金食い虫だがそれに見合う価値を持っているのも事実。
だから俺はあえて軍を常備する道を選んだ。
「その選択が間違っていなくてホッとする」
この賭けは成功した。
その事実に俺は安堵す――。
『っ!』
「おわあ!」
イズルガルドが息を呑む音が聞こえると同時に勢いよく旋回するのだが、何の心の準備が無かった俺は間抜けな声を出してしまった。
『危なかったな』
イズルガルドの視線の先にあるのは弓を構えている竜騎士。
竜騎士のしまったという顔と先程の行動から、俺は狙われていたことに気付く。
「すまない、助かった」
その竜騎士以外にも10騎以上が俺の方向へ向かって来ている。
どうやら下の傭兵団の惨状を見て血相を変えた向こうが手っ取り早く俺を討ち取ろうとしているんだな。
「まあ、これだけ引きつけられたら上等だな」
俺がそう呟くと同時に俺の後方から一本の矢が一体の竜騎士の頭を射抜く。
「ユウキ王! ご無事ですか!?」
「ああ、ククルスか。大丈夫だ、大事ない」
そして切羽詰まった声音に俺は1つ頷いて問題無いことを示す。
赤飛竜騎士団副団長ククルス=トパーズイエロー=フォンテジー。
栗色の髪の毛と大きな瞳を持つ彼女は小動物の印象を持つ彼女が迫力のある竜に跨っているのはある種のギャップをこちらに与える。
しかし、見た目に反してククルスは人を動かす能力に長けており、それを如何なく発揮して心酔しているキッカが最大限の力を発揮できるようサポートしている。
「向こうも本腰を入れて動き始めました! 王がこれ以上戦場にいると危険ですのでお下がり下さい!」
その切羽詰まった様子からククルスに余裕が無いことが分かる。
まあ、ククルスからすれば俺という弱点を抱えたままだと存分に采配を振るえないことを懸念しているんだな。
「なあ、ククルス。俺を囮として使えないか?」
このまま戦線から引き下がるのは癪に障ったので俺はそう提案する。
向こうからすれば格好の的が出ているのだから、相手の行動を制限できると踏んだのだが。
「ユウキ、あんたが討ち取られた時点で私達の負けなのよ」
途中から会話に加わったキッカが反対する。
「あれ? キッカなら例え100騎いようとも守りきれるのではないかな?」
昔キッカが言ったセリフを冗談めかして繰り返すと、キッカは呆れ顔をしながら。
「……ユウキ、酒の席の戯言を真に受けないで頂戴。本気でヤバいのよ」
キッカはその真っ赤に映える赤髪をかき分けながら。
「予想はしていたけど自動回復って本当に厄介ね。向こうは道連れ覚悟で攻撃してくるから相当手こずるのよ」
どうやらキッカでさえラブレサック教国軍を相手にすると余裕がなくなるらしい。
「そうか、なら仕方ないな」
俺としては少しでも皆が感じている戦場の空気を知りたかったのだが、キッカが本気で止めるのなら断念するしかあるまい。
仕方ないので俺はバイナリ平原を離れ、遠目でキッカとククルスの活躍を見ることにした。
「はい、これでまた一騎撃墜♪」
キッカの動きは流石というべきか、敵の竜騎士など比べるまでも無い。
キッカの必勝法というのは絶対的な速さによる死角からの攻撃だろう。
遠目に見てもキッカの速さは他の竜騎士と比べて約1.5倍速と映る。
しかもこれでターンやストップなども通常より早く行うのだから向こうからすれば消えたと錯覚しても仕方ない。
事実、すれ違うごとに相手は落下し、慌てて逃げようとしてもギールによってすぐさま追いつかれてしまう。
そしてククルスはキッカの力を存分に発揮できるよう、赤飛竜騎士団の面々に対して矢継ぎ早に指示を出し、キッカと相対せざるを得なくする。
キッカとククルス。
この2人が協力し合うからこそ赤飛竜騎士団は戦っているというより、舞っていると表現した方がしっくりときた。
「何というか、本当に曲芸みたいだな」
キッカとギールの動きを見た俺はそう感嘆する。
「あんな縦横無尽に駆け回るのはキッカもギールもお互い辛いと思うが」
このご時世、風を防ぐための壁など存在しない。
春とはいえ、まだ肌寒い季節。
上空100m地点で動きまわっていればあっという間に凍傷になると思うのだが、そんな兆しなど微塵も見せていなかった。
『2人とも若いのだろう』
イズルガルドはしみじみと呟く。
『我も若い頃はあれぐらいの動きをしたものじゃ』
それが真実かどうか俺には判別付かなかったが、確かめる術もないのでとりあえず頷いておいた。




