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舌戦

「ふざけておるのか?」


 明朝――戦いの前において大将同士の舌戦の際、ラブレサック教国の総大将から出たセリフがそれである。


「いきなり失礼ではないかな? 私は至って真面目だ」


 太陽の光を受けてキラキラと輝く金髪をかき分けながらヴィヴィアンは自信満々に答える。


「何度も言った通り、ジグサリアス軍の総大将はこのヴィヴィアンだ。我が夫は上空で見守っておられる」


 ヴィヴィアンが俺の方へ向くと、向こうの総大将も俺を確認する。


「鋭い目つきだな」


 ラブレサック教国大将――ベルフェルト=ラードビッツの第一印象がそれだった。


 クロス以上の大柄な体躯を持ち、さらに全身から発せられる巨大な岩の様な威圧感は俺が出会った中で随一をだろう。


 教国の大将として何度も遠征に出かけたせいか、強者に陥りやすい傲慢とは縁がなさそうに見えた。


「さすがラブレサック教国、良い人材を揃えているな」


 イズルガルドに乗っている俺は敵の陣容を見てそんな感想を漏らす。


 100人隊長から上の幹部は一般兵卒と気迫が違う。


 聞いた話だとラブレサック教国が抱えている兵というのは全員幹部クラスで、他の下級兵士はよそから借りるという形式を取っている。


 そんなことをしたら意思疎通が取れないのではと疑問に感じたが、彼ら幹部を間近に見た俺は納得せざるを得なかった。


『あれほどの者達をよくぞ集められたものじゃ』


「ああ、魔物大侵攻が起こっていなければと考えたらゾッとする」


 これでさえ目一杯弱体化し、こちらを強化していてもこのような感想を出させるとはさすがラブレサック教国といったところか。


「まあ、俺としては彼らの他にも傍で付き従っている傭兵団も注意しなければならない」


 この戦いにおいて無名有名問わず多くの傭兵団がどちらかの軍に押し掛けてきた。


 傭兵団のトップの内90%以上が欲にまみれた眼つきをしていたが、中には大物と思える存在も確認できる。


 おそらく彼らを野放しにすれば後々重大な脅威を持ってくるだろうな。


「引き分けでも俺の負けだな」


 この戦、長引く様なことがあれば彼らは必ず伸びて来る。


 ユーカリア大陸の平穏のためにはこの一戦で決着を付けておく必要があった。


「さすが神に逆らう異端者ユウキ=ジグサリアス=カザクラ! 表に出ぬのは臆病者の証! 恥を知れい!」


 大気を揺るがすほどの大声量で俺を弾劾するベルフェルト。


 その怒りに満ちた気迫から本気で怒っているように思える。


「ハッハッハ! これは愉快! どうやらベルフェルト殿は石頭らしい!」


 が、ヴィヴィアンは涼しい顔でベルフェルトを嘲笑する。


「我が夫、ユウキは新しき時代を作ろうとしている! この戦もその一環! この私が大将を務めることによってその幕開けを皆に知らしめるのさ!」


「貴様! 神聖な戦いを愚弄するのか!」


「戦いに卑怯も何もない! あるのは勝者と敗者のみ!」


「何を言うか! 騎士の誇りを知らぬ小娘が!」


「舐めるな! 私は元王女! 誇りの大切さは痛いほど知っておる!」


「はっ! 亡国の王女が何を知っておるのか! そんな者を大将に据えるとはカザクラの程度が知れようものよ」


『不味いな』


 イズルガルドの懸念に頷く俺。


「ああ、少し血が上っているな」


 俺の視線の先にあるのはキッカやユキ等初期から共についてきてくれた者達。


 俺の侮辱に対して怒ってくれるのは嬉しいが、この場で熱くなってしまっては駄目だろう。


「ここはヴィヴィアンに頼るしかないか」


 何とかこの場を切り抜けて欲しいと祈りながら俺はヴィヴィアンに託した。


「アーーッハッハッハッハッハ!」


 突然の高笑いに自軍の怒りはおろか向こうも呆気に取られる。


「貴様! 何がおかしい!」


 そう怒鳴り返したのはヴィヴィアンに呑まれない為だろう。


 一瞬前まで視線を左右に彷徨わせていたことからそう推測する。


「クックック……いやあ、ベルフェルト将軍の小ささを知ってな」


 肩を震わせながら不敵に微笑むヴィヴィアンは続けて。


「人というのは己の器量の内でしか判断できんものだ。それに逸脱するような者に対しては理解が及ばぬ」


 ここでヴィヴィアンは大きく息を吸い。


「我が夫! ユウキ=ジグサリアス=カザクラは貴様如きが測れる器ではない! 浮浪児から王へと上り詰めた者がどうして凡人であろうか!」


『ふむ、やはりあの小娘は度胸が据わっておる』


 ヴィヴィアンの火を噴く様な言葉にベルフェルドは上手い返しを思い付かなかったのか二、三言返すだけに終わる。


「確かに、おかげでキッカ達も冷静さを取り戻せたようだ」


 完全に収まったわけではないが、少なくとも冷静さを取り戻してくれたようだ。


 むしろうまい具合に闘志を保っているベストな状態だと捉える。


「俺にヴィヴィアンと同じことをやれと言われても出来ないな」


 あんな大勢の注目が集まっている中で発言するなんて、緊張によってガチガチとなって十分な受け答えが出来ず、都合良く丸め込まれてしまう未来が容易に予想できた。


『何、適材適所よ。ユウキ殿はクロスや小娘の様に人前に立つのに向いていないだけじゃ』


 確かに俺はどちらかというとベアトリクスの様に裏で物事を進めるのが向いているらしい。


「まさかこの時になってから気付くことがあるとはな」


 新たに知った自分という存在に俺は頭をかいた。

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