第2話「木村さんの話」
ファミレスは駅から少し歩いたところにあった。駐車場が広くて、夜になると家族連れが増える店だった。六人で窓際のテーブルを囲んだ。木村さんと五人。
メニューを開いたのは松永だけだった。他の全員は最初からドリンクバーだけにした。松永はしばらくメニューを眺めてから、結局ドリンクバーにした。
「改めて」と木村さんが言った。「先日は突然集まってもらって、すみませんでした」
「いえ」と宗一が言った。木村さんはテーブルの上で両手を組んだ。メガネは今日もかけていなかった。
「劇団のことなんですが、正式に決定したわけではないんですが」隆二はコーヒーのカップを両手で持ったまま、木村さんを見ていた。
「場所の問題と、資金の問題と、あとは……誰が引っ張るか、という問題があって」
「栗原さんの代わりに団長を、ということですか」と入江が言った。
「そうなると、責任が大きくて。今の状況で、それを引き受けられる人がいるかどうか」入江は少し間を置いてから「そうですね」と言った。それ以上は言わなかった。
隆二は入江を横目で見た。入江の顔は静かだった。反対しているわけでも、賛成しているわけでもない。ただ、現実を見ている顔だった。
「続けることを諦めたわけじゃないんです」と木村さんが言った。「ただ、皆さんにも生活がありますから」
「栗原さんが準備してた公演は?」と松永が言った。木村さんが松永を見た。
「秋にやる予定だったやつ。台本はあるんですよね?」
「あります。途中まで書いてたものが」
「それ、やりませんか?」テーブルが静かになった。ドリンクバーのコーヒーメーカーが低い音を立てていた。
「最後の公演として」と松永が続けた。「それをやって、そこで一回区切りをつける」
木村さんがゆっくり頷いた。「そう言ってもらえると」
「異論ある人は?」松永が周りを見た。宗一、入江、岡崎、隆二の順に。誰も何も言わなかった。
帰り道、松永と二人になった。駐車場を出て、駅の方向へ歩いていた。夜の八時で、国道沿いのチェーン店の看板が光っていた。コンビニ、牛丼屋、ドラッグストア。どこの町にもある風景だった。
「よく言えたな」と隆二は言った。
「何が?」
「最後の公演、って」松永は少し考えてから「言わなかったら誰も言わなかった気がして」と言った。
「そうかもな」
「お前が言うと思ってたけど」
「俺は言わないよ」
「知ってる」松永が笑った。隆二は笑わなかった。笑えなかったわけではなく、ただそういう気分じゃなかった。
「松永はさ」と隆二は言った。
「うん」
「公演終わったあと、どうするつもりなの?」松永はしばらく歩いてから「まあ、いろいろ」と言った。
「いろいろって」
「彩花のこととか、店のこととか」
「結婚するの」
「まだそこまでは言ってないけど」松永は少し間を置いた。「でも、そういう方向かな」
隆二は「そっか」と言った。
それ以上は聞かなかった。聞く必要がないというより、聞いてしまうと何かが変わる気がした。何が変わるのかはわからなかったが。
駅の手前で道が分かれた。
「じゃあ」と松永が言った。
「ああ」松永が角を曲がって消えた。隆二は駅の改札を通った。ホームに立つと、電車がちょうど来るところだった。車内は空いていて、隆二は端の席に座った。窓の外に、町の夜景が流れていった。
大きくもなく、小さくもない町だった。どこへ行くにも電車で一本だったが、隆二はほとんどどこへも行かなかった。
—続く—




