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94話 陰謀

 幸いなことに、今晩は寄生人間の襲撃はなかった。

 キュラゴクスに聞くと、わざわざあの大技を放つ必要はなかったらしい。確かに、俺が地中に火弾(ファイヤーボール)を隠しておけば良かった話だ。

 まあなんにしろ、結果はうまくおさまった。キュラゴクスにとっても良い予行練習になっただろうし、悪くなかったといえるだろう。



「結局、昨日のあいつらは何だったんだろうな?あの様子じゃあ、あの2人が強かったというわけではなさそうだし…」


「確かにな。あの連携の薄さを見る限り、手練れの暗殺者というよりは…凡人のようだった」


 キュラゴクスは剣を持ちながら、手首を捻って具合を確認していた。すぐに鞘へとしまうと、森の焼け落ちた部分を見つめ始める。

 昨夜の大爆発で消し飛んだ場所には、綺麗に丸く朝の光が差し込んでいる。


「普通の人が、ゲライウスや私たちの暗殺を企てるでしょうか…?失敗すれば、どうなるかはわかりませんし」


「バーザールに見つかって逃げるほどに命惜しさに動く凡人を、そこまで盲信させる何かがあったということだ。たとえば…」


「断れないほどの巨万の富。あるいは、逆らえば死より凄惨な目に遭うという絶対的な脅迫…?つまりは、裏でそいつらを操っていた雇い主が確実にいるってことだな」


「ええ。実行犯がどれほど無能だろうと、背後にいる人は別でしょう。この混乱期を狙い、確実にゲライウスを殺そうとした狡猾な人がいるのは確実です」


 そいつらを倒しておかなければ、今夜もまたくるかもしれない…3人の中には、そんな思いがあった。

 俺はどうであれ、2人はシンプルな人間だ。三日三晩寝ずにいるとなると、決戦にまで影響が出る。


「だが……具体的にどうやってその雇い主を見つけるのかが問題だ。手がかりはあの森だが、先日俺が焼け野原にしてしまった」


 キュラゴクスの至極真っ当な疑問に、俺は頭を抱える……こともなかった。


「いや、わざわざ探しに行く必要はないと思う。昨夜のあの大爆発だ…仲間が戻らない上に、朝起きたら森の中に知らない焼け野原ができてるんだからな。普通なら、何が起きたか見にくるはず」


「なるほど…彼らの焦りを誘い、向こうから尻尾を出させる。良い作戦ですね」


 そうと決まれば行動は早めに。俺たちは早速、昨夜の大爆発の現場へと向かった。




 森の焼け落ちた場所へと近づくと、そこにはすでに人だかりができていた。

 朝起きてみれば、森の一部が綺麗に丸く消滅しているのだ。近隣の住民たちが何事かと集まり、遠巻きにざわざわと騒ぎ立てるのも無理はなかった。


 これだけ人が集まっているとなると、普通に待っているだけでは見失いかねない…


「手分けして探そう。俺はこっちにいくから、2人はあっちとそっちに行ってくれ」


 俺の提案にラナリリスとキュラゴクスは頷き、三人はそれぞれ散らばって群衆の監視を始めた。

 野次馬に紛れ、あからさまに動揺している奴や、焦って仲間の痕跡を探している奴が必ずいるはずだ。



 数分が経った頃ふとキュラゴクスの方に目を向けると、その方向に黒服の男が1人いるのがわかった。

 挙動不審すぎる様子で辺りを見回しながら、俺の方へとふらふらと歩み寄ってきている。男の額からは大量の冷や汗が流れており、目が泳ぎきっていた。

 焼け跡に残っている何かを確認しにきたのか、俺が昨夜の当事者だとも知らずに、吸い寄せられるように近づいてきたらしい。

 俺は自ら男の方へと一歩踏み出し、逃げ道を塞ぐようにその肩をがしっと掴んだ。


「ひぃっ!?」


 男の身体がビクリと跳ね、あからさまに動揺して後ずさろうとする。俺はひとまず抵抗する男を気絶させて、近くの木へ運んでいった。

 近くにいたキュラゴクスとラナリリスはそんな俺の行動を見て何か勘付いたらしく、こちらにすぐに駆けつけてくれた。

 俺はその男を往復ビンタして、早く起こそうとする。


「う………うわっ!!な、なんだお前たちは! 離せ!」


「静かにしろ。お前、昨夜の黒服たちの仲間だな? あいつらはもうこの世にいないぞ」


 すかさずキュラゴクスが冷徹な声で脅しをかけていく。あいつ、そんな声も出せるのか……思わず、俺までも驚いて固まってしまいかける。

 ドラゴンでもビビるその声に勝てるわけもなく。男は、その圧倒的な力と恐怖にあっさりと涙目を浮かべ、ガタガタと震え出した。


「う、うわああああ!!わかった、話す、話すから!」


 キュラゴクスの怖すぎる声に、男は耐えかねたように悲鳴を上げて必死になって白状し始めた。


「お、俺たちは……あの塔にいる誰かに言われたんだ!!直接会って話したわけじゃないし、誰が言ったのかは分からねえんだ……!それなのに……お前たちは!」


「情報提供、さんきゅーな。もう一回寝ててくれ」


 俺はすぐに、もう一度その男を眠らせておく。一応、街の人々が近くにいるんだ。大声を出されて人々が寄ってくるという事態も困る。


「これで、よし」


「しかし、あの塔の中にいる誰かが、暗殺の依頼をしたということですよね…ここまできて、内部に敵あり、ですか……」


「一応、ゲライウスには伝えておこう。ゲライウスも狙われていたんだ、少なくとも彼は依頼主ではないだろう」








「どうだ?ジェアイズ、バーザールたちに何か目立った行動はあるか?」


「はい。ゲライウス様、どうやら彼らは、こちらへ向かってきているようです。例の男も、担がれています」


「さて、首謀者が俺と先生だということがバレたか…あるいは、単なる報告なのか」

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