93話 人生の詠唱
「街か………!」
「バーザール様!私を気にせず、止めに行ってください!見ての通り、先ほどの襲撃でボタンが壊れてしまったので……ゲライウスたちは、このことに気がついていません!」
ラナリリスが言葉を言い終わるや否や、俺は地面を蹴って真っ暗な空へと飛び立った。
背後に俺が灯した火の明るさを感じながら、急いで街の方へと飛んでいく……!
ラナリリスを襲った奴らがゲライウスを殺したとなれば…1番大変な時期である今、混乱が起きる。
そんな状態じゃ、忌避を倒すなんて夢のまた夢だ。そいつらが市民に手を出さないとも言い切れない。
「間に合え……っ!」
街の入り口が見えた瞬間、黒い影が二つ、民家の隙間に滑り込んでいくのが見えた。
全体重をかけて刀で押しつぶす…のは流石にまずいだろう。すぐ近くには民家がたくさんある。衝撃で壊れたら、元も子もないからな。
俺は空中で構えながら落下の勢いをすべてスピードに乗せ、その片方に奇襲をかける。
「うわっ?!ぐああああ!!!!」
俺は見事に、片方を捕まえて空中に持ってくることに成功した。そのまま俺は刀を抜き、迅速に始末する。
俺の刀の直撃を食らった一人目の黒服は、何が起きたのかも理解できないまま悲鳴と共に死んでいった。
「まずは1人。あと、一人……!」
宙に舞い散る血飛沫の中から、即座に視線を巡らせる。
だが、もう一人の姿がない……?逃げられた?クソっ、仕留め損ねたか……
そう。残る一人は、バーザールの規格外の戦闘力と一撃の威力を間近で見て、正面から戦うのは不可能だと瞬時に判断したのだった。
よく考えろ。この状況、俺だったらどうする?俺がいるせいで、ゲライウスを狙うのは不可能。となると、残るは……
「ラナリリス…?!」
彼女のところなら、まだ護衛がまわっていないと考えるのが妥当だ。
先ほど攻撃方法を一通り見た手負いの女性と、空を飛び仲間を瞬時に殺した不気味すぎる男性。
どう考えても女性の方を敵にした方が、勝ち筋は高いと考えるはず…
心なしか、撮り逃した黒服の気配はすでに街の外、闇が広がる不気味な森の方へと向かっているような気がした。
「チッ、逃がすか!」
バーザールは森へ向けて飛んでいった。ドラゴンの目を限界まで見開き、人が通っている痕跡を最新の注意を払って探す。
しかし、どれだけ目を凝らしても、どれだけ深く森へ入っても、敵の姿が全く見つからない……完全に気配を絶ち、森の闇と同化している。まるで最初から誰もいなかったかのようだ。
クソ、どこだ……?!こんな時に限って、キュラゴクスへの脳対話も通らない!
焦りが、俺の胸を締め付けていった。時間が経てば経つほど、状況は悪化していく…
「おい、バーザール!そんなところで何をしている!!」
「キュラゴクス…!」
俺が焦っていると、目の前に爆速で走っていたキュラゴクスが現れた。俺がサボっていると思っているのか、相当の怒りと焦りが顔に現れている。
「1人は倒せた。だけど、残りの1人を仕留めきれなくて……俺の予想だと、おそらくラナリリスの方に向かっていっているんだ」
「ラナリリスの方か…!ラナリリスの元にいれば、いずれは奴に出会えるんじゃないのか?」
「今俺が居場所を感知できていない時点で、近くに来てもわからない。それどころか、俺たちが気がつく前に俺たちを見て逃げる可能性だってある。決戦前にそんな不確定要素が放っておかれるのは避けたいだろ」
俺の意見を聞いたキュラゴクスは、何かを決めたようにこちらを見た。
「……わかった。この近くで、1番高いところに連れていってくれ。それと、ラナリリスをこっちに連れてくる。最後に、弓だ。弓は、作れるか?」
「槍ならいけるけど……試してみる」
弓……弓。頑丈で壊れず、よく飛び、使いやすく、何よりキュラゴクスの手に馴染むような弓……
俺が即座に想像してみると、俺の手には即座にその弓が生まれた。
「……うん、申し分ない。それと、槍ももらえるか?」
「ああ、これを…俺はお前を塔の上に連れていったあとに、ラナリリスを避難させればいいんだな?」
「ああ。迅速に頼む」
俺は即座に転移魔法を発動し、キュラゴクスを塔の部屋に送った。そこから飛び上がり、屋上へ運んでいく。
キュラゴクスが着地したのをみると、俺は発射許可を出した。弓を弾き始めるのを見て、ラナリリスの元へと急ぐ。
「バーザール様…?なぜ、ここに?2人とも、倒せたのですか?」
「いや、あと1人残ってる。そいつは、おそらくこの近くにいるんだ。だからラナリリス、しっかり捕まっていてくれ。転移で逃げる!」
「転移…?バーザール様なら……」
「とにかく急いで!」
俺の声に押され、ラナリリスは俺へとボディタッチしてきた。彼女の手を掴み、転移…!
無事、発車される前に安全に転移をさせられた。
「遅かったぞ。もし俺が打っていたら、やつだけじゃなくバーザールやラナリリスまで…まあ、こういうのはいいか。あそこに、誰もいないな?」
「ああ。確認した、誰もいない」
「わかった………」
俺に確認をとったキュラゴクスは、弓に槍をつがえて深呼吸をした。槍を、矢に…?!
「Three million lives, three million deaths.
All returns to nothing, all ends in vain.
Four heroes stand here to pierce it through...」
キュラゴクスの体から、計り知れないほど高密度で、冷徹な魔気が爆発的に吹き荒れ始めていく。
それとともに、彼の手にある槍がその光を吸い込み無数の光の帯を漂わせていた。
「――Our lives,begin here!!!」
キュラゴクスは詠唱を完全に終え、槍を掴む手を手放した。一瞬だけ、森が固まったように見えた。途端に槍はどんどん森へと突き進んでいき……
壮大な爆発が、森で起こった。音波が迫ってくる…!俺は咄嗟に耳を塞いでみる。
だが、音波は来なかった。何故だかは知らないが、音波は街だけを遠ざけて広がっていく。
「流石に、これで殺せただろう」
「………………すげえ……」
俺はただ、すごいの一言しか出なかった。俺が先ほどの戦いで撃っていたものよりかは、強く感じてしまったのだ。
「久しぶりに使ったが……腕は衰えていないようで良かった。槍、ありがとうな」
………ん?今、魔気を使用していなかったか?
「そういえばキュラゴクス、魔気を扱えたんだ…」
「使えないと言っていたか?使えないわけではないが……あいにく0と100しか操作が効かないもんでな。こうやって一気に消費する方法でしか使えないんだ」
そう言って、キュラゴクスは弓を背中に装着した。意外と、弓も似合っているな…
って、そうじゃない。前線に戻らなければ。
「………だけど、あの様子じゃ、黒服の死体を確認しに行く必要もなさそうだな…」
「焼けて、灰すらも残っていないだろう。それよりも、寄生人間だ。この間に、迫ってきていないことを祈るばかりだな」




