92話 敵はシンプル
「準備はいいか?」
「ああ……いつでも来い」
2人の間に、一抹の沈黙が流れる。それぞれの持つ武器には、己の顔が反射して写り込んでいた。
(……!早い!!!)
先に動いたのはバーザールだった。鞘のつけてある刀を手に、瞬時にキュラゴクスへと斬りかかっていく。
俺は想像より早いバーザールを前に驚くが、恐るるには足らない。
「全て、直線だ……」
右から左、左から右、突き。ほとんどはこの三つの繰り返しだ。それなら、予測だってできる…!
バーザールが刀を振り下ろすであろう位置に俺は剣を構え、パリィをして攻め始める。
夜の冷気を強引に切り裂くような、凄まじい風切り音。
キィィィン!
静まり返った空間に、鼓膜を突き刺すような金属音が鋭く響き渡る。
キュラゴクスは一歩も引かず、最小限の腕の振りだけでバーザールの刀を受け流した。
音を立てて刃と刃が擦れ合い、激しい火花が飛び散る。その一瞬の閃光が、互いの気迫に満ちた顔を闇の中に浮かび上がらせた。
「クソっ、やっぱりキュラゴクスに勝つのは無理か……」
「剣を振るった時間が違うからな。まあ、刀とは言えど、使い始めてすぐでこれはいい方だと思う。あとは……」
一通り模擬戦が終わった後、2人は木に寄りかかりながら疲れを取っていた。ラナリリスに聞いてみたが、彼女曰く怪しい動きをするものはまだ見えていないという。
「あとは、刀の振り方だ。2種類だけだと、知能がある敵……忌避に見切られやすくなる。技をつなげてみるのはどうだ?使ってみると、意外と悪くないぞ」
「技をつなげる、か。確かに、出来たら強い気がするけど………付け焼き刃の技なんて、俺を引っ張るような気がする」
「刀を使うこと自体、付け焼き刃だ。それなら、技くらい覚えておいても良いとは思うがね」
「そうか……」
「幸い、バーザールは疲れを感じにくいんだろう?それならここから二日間ぶっ続けで練習してみるのもいいかもな。何か、得られるものがあるかもしれん」
俺がそこまで話したところで、ラナリリスのいる方から爆発音が聞こえた。バーザールは咄嗟に宙に飛び上がり、何やら手で操作をし始める。
ああ、何か襲撃でもあったのか…?だけど、まだラナリリスから脳対話は来ていない。
「一応、見に行くか?」
「ああ、そうした方がいいだろう!俺は先に行って、様子を見てくる!」
「わかった。すぐに追いかける」
俺は剣と鞘を持ち、即座にバーザールを追いかけた。走り始めるとすぐに、もう一度爆発音が轟く。何か、まずいことでも起きたのか…?
〜バーザールから見た世界〜
俺は急いで、先ほど用意した火弾の元へと飛んでいった。近づいていくに連れて、煙がよりはっきり見えてくる…
夜の闇の中でも、俺のドラゴンの目にはそれがはっきりと見えた。ラナリリスが、肩から血を出しながら仰向けになっている…!近くには、数人ほどの黒い服を羽織った人の死体が転がっていた。
「ラナリリス!何があった?!」
「すみません、連絡ができなくて……先ほど、この人たちが、ここへ訪れて……」
「殺しに来たってことか、わかった。そいつらはどこへ?」
「右の方へ、行きました………後2人、と……言っていたので」
「わかった。待ってろ、今治す」
俺は治癒魔法を使って、ラナリリスの肩を治した。まばゆい光が辺りを包み込み、それとともに彼女の表情もだんだんと和らいでいく。
「ありがとうございます……私の手で、何人かは道連れにできましたが…」
「まさか、人間が襲ってくるとはな……待て、その残党はどこへ向かったって言ったか?」
「あちらの方向に……」
そう言ったラナリリスは、ハッとして俺をみる。俺も、おんなじことを考えた。あっちには…
「街………!!」
街にいる、狙われやすい人といえば………ゲライウス達が危ない!!!




