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91話 実力の証明

 ある日の夜、キュラゴクスは灯りも点けていない暗い部屋の中、一人で愛剣を見つめていた。窓から差し込む月の光が、冷ややかに刃を照らしている。


   俺は、本当に役に立てているのだろうか……


 胸の奥から湧き上がってきたのは、彼らしくもない、泥臭い自問自答だった。

 300万回を超える気の遠くなるような輪廻。

 それだけの回数、生と死を繰り返し戦いを経験してきた彼にとって、今や戦場はどれだけ死者を出さずに済むか、という計算の場に過ぎなかった。


 無駄を省き、友人・戦友を思い、最も死なぬ確率の高い選択肢を重ねる。

 それがこれまでの彼の絶対的な生存戦略であり、繰り返される人生での鉄則だった。

 だが、今回の人生にはその膨大なデータをもってしても測りきれない人物が生まれた。


 その中心にいるのは、言うまでもなくバーザールだ。

 彼は今までの彼とは違い、キュラゴクスが300万回の経験から導き出す「予測の限界」を、いつもいとも簡単に、そして不条理なまでの力技で踏み越えていく。

 前回の戦いで放たれた、あの強化verの火弾(ファイヤーボール)もそうだ…本来なら必ず死者が出る、なんなら全滅もありえたはずの戦況を、理屈を超えた執念と一撃で覆してみせた。


 300万の計算が、バーザールの前ではまるで意味を成さない。

 その底知れなさに、これまで破れたことのない輪廻を本当に打ち破れるのかもしれないという奇妙な高揚感を覚えていた。

 予測通りにいかない未来が、これほどまでに胸をざわつかせるとは思ってもみなかったのだ。


「……『座して案ずれども、最適解は出ず』………か」


 小さく呟き、キュラゴクスは剣を鞘に収めると立ち上がった。

 静まり返った塔の廊下を、自身の足音すら消しながら歩いていく。

 バーザールの部屋の前へと辿り着き、軽くノックをしてから、吸い込まれるように部屋の中へと足を踏み入れた。

 そこには、まだ寝れていない、まさにこれから夜間の警戒に向かおうと身支度を整えているバーザールの姿があった。

 不意の訪問者に、バーザールは驚いたようにその動きを止め、こちらを見つめている。


「どうしたんだ…?こんな真夜中に」


「バーザール。出発前にすまない。少し、相談があるんだが…話しながらでもいいから、聞いてくれないか?」


「いいけど、そんなに畏まらないでくれよ?こっちまで息苦しくなる」


「わかった。ちょっと、話を聞いてくれ」


「わかったよ。歩きながらでもいいか?」



 塔から出た2人は、久しぶりに2人きりで並びながら歩いていた。


「んで、どうしたんだ?」


「ああ……率直にいう。俺とお前で、模擬戦をしないか?」


 俺が急すぎることを言い出したからか、バーザールの顔が固まったのがわかった。

 確かに、俺は強いが……出会った時とはもう違うんだ。今となっては、バーザールの方が十分に強いだろう。


「キュラゴクスと……か?」


「ああ。可能なら、の話だが…どうだ?」


「………やってみたくはある。正直、俺は剣に慣れていないからな。だが……」


「もちろん、飛ぶのと刀の鞘を抜くのは無しで頼む。2,3日後に決戦が待っている状況だ、危険すぎる。だがその決戦前に、できるだけ技術を高めておきたいのも事実…意味のないことかもしれないが、やれることはやっておきたい」


「よしわかった。そうと決まれば、さっそくやろう。物はもう持っているな?」


「ありがとう。感謝する」


「………もう少し、馴れ馴れしくしてくれないか…?最近のキュラゴクスは、緊張しすぎだと思うぞ?」


 そうか…?思えば、確かに緊張していたのかもしれない。今回で終わると思うと、人はこうもなるものなのか…


「よし……わかった。警戒を緩めるわけには行かないから、前線で模擬戦をする。バーザール、行くぞ!」


「ああ、それくらいがちょうどいい。わかった、すぐに行く!」




 あらかじめ居たラナリリスと合流した2人は、競い合いながら前線へとたどり着いた。

 幸い、俺たちがいない間に寄生人間の襲撃はなかったらしく、真夜中の暗闇の中で防衛のバトンは俺たちに渡された。


「これは、緊急時の連絡ボタンです。これを押せばゲライウスさんやその他の方々に瞬時に連絡が届くので、万が一忌避(キケズ)がきた場合には躊躇なく使ってください」


「ああ、ありがとう。こんな夜中まで、よく見張ってていてくれた。あとは任せてくれ」


 俺は一兵からそのボタンをもらうと、それをポケットにしまって2人の元へと戻った。


「何を話していたのですか?」


「これだ。瞬時に、ゲライウスたちへ危機を知らせるボタン…使わないことを願うけどな」


「とりあえず、地中には100個ほどファイヤーボールの埋め込みは完了したよ。これでいつでも、好きなタイミングで地雷を爆発させられるようになったようなものだ」


「あとは、明かりがあれば…」


「そうですね。このままでは暗過ぎて、敵襲にも気がつけません」


「そうだろう?2人がそういうと思って、今上空に灯りを灯しているところだ。街の人々には申し訳ないけど…」


「融通がきくな、ありがとう。では、俺たちは…」


「ええ。今は私が見張っておきますので、存分に模擬戦をしてください。ただし、怪我を伴うものは絶対にやめてくださいね」


「わかってる。ありがとう、ラナリリス」


 剣の具合は…大丈夫そうだ。あとは、何も邪魔するものがいないことを願おう。

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