95話 疑い払し
男を気絶させて担いだ俺たちは、その足ですぐさま塔へと向かった。
まさか、本拠地の中に裏切り者がいるとは……未だに、疑いたくなるような真実だ。
俺はゲライウスに出会うと、すぐさまことの経緯を伝えていく。
「――ということだ。この男が言うには、塔にいる誰かに指示されたらしい。直接顔は見ていないらしいが、金が届いた場所は間違いなくここだそうだ」
俺がそう言って説明を終えると、ゲライウスは怪訝そうな顔で床の男を見下ろした。男はまだ気絶したままで、ピクリとも動かない。
「……なるほどな。状況は理解した。この混乱期に乗じて、俺やお前たちをまとめて始末しようという算段か…」
ゲライウスはそう呟くと、視線を俺たちへと向けた。
「俺の中で、少しばかり心当たりがある人物がいる。確かに、この塔の内部に不穏な動きを見せる者がいるのは事実だ。俺はそいつら数人を、片っ端から調べていくことにする。昨夜といい今といい、お前たちには感謝する」
そう言って、ゲライウスは俺たち三人を見つめ、深く頷いた。
「まずは部屋に戻り、安心して休んでくれ。ここから先は、俺たちが片付けておく。それと、昨夜は本当に助かった。君たちがいてくれてよかった」
俺たちは部屋を出て、自室へと向かって歩いていった。ひとまずはゲライウスに情報を渡せた。
あいつが動いてくれるなら、おそらくこれ以上俺たちがしゃしゃり出る必要もないだろう。
「ひとまずは、これで。あとはゲライウスに任せて良さそうですね」
「ああ。だがここに数人も、不穏な人物がいるとは…休んで良いとは言われたが、気をつけるに越したことはなさそうだ」
「そうだな。数人か…………どちらにしろとりあえずは、お言葉に甘えて眠らせてもらうとするか!」
俺は手を頭の上に伸ばして、大きく伸びをする。さっきのゲライウスの部屋、何か違和感があった気がしたが……気のせいか。
「さてと………ジェアイズ、彼らはいなくなったか?」
「はい。目視できる範囲には確認できません」
「だってよ、先生……出てきても大丈夫みたいだ」
「ゲライウス……あなた、成長しましたね。以前教えた時より、さらに賢くなっています。的確な指示、人間の思い込みによる情報操作……今や、その腕は私を超えるほどです」
「先生は超えられても、エリオリアスは超えられない……やっぱり、先生から見ても彼女は異質か?」
「彼女は…そうですね。異質というより、異常の方が正しいと思っています。あなたと渡り合えるほどの剣技、あなたを超えるほどの知性…彼女は私を、1年足らずで超えた。向こう側の世界の人間であれば…先ほどの3人と並ぶ、もしくは超えるほどの人材だったでしょう」
「そうか…先生から見ても、あの3人は敵に回しちゃいけないか」
「3人というより、真ん中にいた彼…彼”だけ”は、刺激してはいけないと思っています」
「となると、敵に回さなければならない状況になったらどうするか…」
「私に、ヒントを教えて欲しいと?」
「まあ、ね。先生が俺は先生を超えたって言っても、俺自身はそう思ってないからな。ここは教師として、一知恵貸して欲しいんだ」
「なるほど…私の意見を元に普通の人がどう考えるかを計算し、自ら答えを作ると。教師を舐め腐るにも程がある」
「バレたか………わかったなら尚更、教えてくれないか?先生」
「まあ、今回はいいでしょう。久しぶりに生徒と長く話せたことの記念に、教えます………私なら、勝利の余韻に浸っているところを攻撃しますね。喜び、快感などの感情は、人を盲目にさせますから。もっとも、この方法をとってゲライウスが勝利できるかは別としますが」
「そうか。そういう考え方もあるのか…俺はてっきり、『この際、街の人をぶつけよう』とでもいうのかと」
「そのような狂気じみた方法は、何も考えていない状態のゲライウスしか取らないでしょう。命を軽視しすぎです」
「命を、軽視………そうか!そうすれば良いのか!ありがとう、先生!先生のおかげで、妙案が思いついた!」
そういうと、ゲライウスは足早にある部屋へと走っていった。その部屋には一人、「先生」だけが残される。
「全く……せっかちな生徒だ」




