96話 決戦開幕
「………」「………」「…………」
決戦前の数時間なんだ。脳対話とはいえ、緊張して、話せなくなるのも無理はない。
俺はこの戦いに勝たなければ、兄さんを生き返らせることはできない…それは、向こうの元の世界での犠牲が増えることになる。
(……絶対、勝たなきゃ……)
(…………ああ。勝つさ)
(皆さんの準備は万端です。負ける要素がありません)
ラナリリスはこの時のために、裏で武器の調整をしてきた。大釜であったはずのところを、大槍へとチェンジしたのだ。
キュラゴクスは、2日前に見せたあの技と共に、俺との模擬戦で更に鍛え上げられたと言っていた。必要となれば後衛として、そして前衛としても活躍してくれる。
そして、俺だ。魔気は満タン。キュラゴクスから教えてもらった剣技も、ある程度は染み付いている。火弾も、裏では更に使いやすいように研究を重ねた。
いける……前回相まみえて戦った時のように、独走はしない。しても勝てない…
俺は気を引き締めながら、空を切り裂いていた。1人決戦の地へ向かいながら、翼を広げて空を舞う。後ろからは、太陽が登ってきていた。
「それじゃあ頼んだ護衛兵。合図をしたら、一斉にこちらへ突撃してきてくれ」
「了解いたしました!!御三方、そして、ゲライウス様……ご武運をお祈りしております!!」
「だってよ、ゲライウス。何か言わなくていいのか?」
「今言ったところで、戦いには影響しない。それより、3人。準備の方はどうだ??」
「ああ。俺たち全員、万端だ。少なくとも、勝つ準備はできてる」
「そうか、ありがとう…そうだ。この場で、きちんと言っておきたい。3人には、感謝している。俺たちの計画を進める手助けをしてくれたこと、街のことを身を挺して守ってくれたこと……本当に、感謝してもしきれない」
「そういうことは、勝った後に言ってくれよ。そっちの方がアガるだろ?」
「ああ、そうさせてもらう」
忌避の方も、強くなっているだろうか?
ゲライウスからは、今回の頂上遊宴までの数十回は、抵抗なく殺されていたと言っていた。その頃のように、手加減してきてくれたらいいんだが…
「さあ、後10分だ。準備、するぞ」
そう言いながら、キュラゴクスは弓を構えて空へ一つの槍を放った。
「これで、やつもこちらに気がつくはずだ。気をつけろ、どこから奇襲されるかわからない」
「奇襲?そんなこと、するわけないだろ…俺をなんだと思ってるんだ?」
上……!見ると、俺たちの上空で忌避が佇んでいた。いつから、あそこに…?!
「来たか、敵…忌避!!」
「そんなにカッカしないでくれよ。俺の耳がイカれちまう…あ、耳なんてないんだった!」
「そのやかましい口、今すぐ閉じてやる……」
「はは、面白い!今まで俺に幾度となく惨敗してきた奴が、いまさら俺に勝つ?夢は夢の中でのみ頼むよ、ゲライウス」
その言葉にイラついたのか、ゲライウスが勢いよく空に飛び出してやつに斬りかかった。斬り合っているうちに、両者は一気に地上へと落下していき…
周辺には、砂埃が立ち込めた。その中でも斬り合っているのか、中から剣の衝突する音が聞こえてくる。
「行くぞ、2人とも!」
「ああ。だが、待ったほうがいいかもしれない。様子がおかしい…」
立ち込めていた砂埃が消えていくと、剣で抑えあっている両者が現れた。1人で、忌避に対抗できている……?!まさか…
「ふふ、ふはは、はははははっ!すまなかった、ゲライウス!こんなに強くなっているとは思わなかった。今回は、手加減をせずに戦うと誓おう!」
そう言うと、忌避は剣を生成してゲライウスをガッチリと固めて動けないようにした。その直後、彼を中心として無数の剣が再び生成される…
まずい!あれがそのまま振り下ろされたら…!
「待て…!!!」
俺たちは、同時に剣とゲライウス、忌避とゲライウスの間に入った。周囲には瞬時に火花が散り、その衝撃で空気が揺れる。
「おいおい、1対4か?不公平にも程があるだろ!」
「勝手に1対1だと思い込んだのはそっちだ。この戦いに、ルールなどない」
俺はラナリリスとキュラゴクスに合図して、キュラゴクスと共に一瞬で前線を離れた。キュラゴクスと共に転移すると彼を空中に放置し、その隙にドラゴンの姿へと戻って彼を背中に乗せる。
「これで、どうだ?!撃てるか?」
「ああ。だが、2人が邪魔だ。今すぐには撃てん」
「わかった、待ってろ…」
(ラナリリス!準備ができた。キュラゴクスと共に、一瞬だけそこを離れてくれ!3、2、1で頼んだ!)
(わかりました…!)
ここで上手い具合にタイミングを指示しなければ、忌避も逃げかねない。キュラゴクスの槍が着弾する直前に、2人には離れて貰う必要がある…
(行くぞ…3、2、1……!)
「キュラゴクス、いまだ撃て!!)
「わかった…っ!!」
(0!!!)
(はい!!)
俺がラナリリスへと合図を送った直後、忌避の元では凄まじい爆発が起こった。大丈夫か…?2人とも、巻き込まれていないか…?
俺は心配になりながらも、キュラゴクスと共に転移魔法で元の場所へと戻っていく。すると現地には、全く傷を負っていない2人の姿があった。
「大丈夫だったか、2人とも!」
「はい、バーザール様。ゲライウスも、私も無事です。忌避がどれだけのダメージを負ったのかはわかりませんが…」
炎の中から、足音が聞こえてきた。
俺たちは再度、その方向へ身構える。
そこには、数多の剣を掲げた忌避がいた。
「強いな、そこの人間。久々に、愉しくなってきたぞ!!!」




