86話 人間災害
外に出た瞬間、俺たちにはキュラゴクスの声が聞こえ始めた。初めはノイズ混じりだったが、だんだんとその音質が良くなっていく…
(2人とも!!大変だ!建劉園の寄生人間が、全員忽然と消えた!!あそこからモックタウンまでは3〜4日かかる…つまり、忌避の言っていた『5日後』は、あの大群を相手にすることの可能性があるってことだ!)
(……マジか……なんで、もっと早く言ってくれなかったんだ?!その様子だと、判明してから少しは経っているだろ?)
(脳対話が届かなかったんだよ!バーザールたち、何処にいっているんだ?!)
…確かに、地下の街の地下に行っているんだから、繋がらなくてもおかしくない。むしろ、今つながっていることの方が怖いくらいだ。
(地下の地下だ…それはそうと、こっちは有益な情報を掴めたぞ。だがもしかして俺たち、今すぐに地上に戻った方がいいか?)
(もしこれが例の寄生人間を出現させたやつの計画に入っているとしたら、相当面倒臭い…出来るなら、戻ってきて欲しい。)
(そうか…)
刃碁遊館に元凶がいることに賭けてこっちの任務を完遂させるか、今すぐにでも上に戻って、来るかどうか定かではない奴らを相手にして作戦を練るか…
これが失敗したら、街の何万という人々が死ぬ。忌避の時は主な目的が俺たちだったからまだ良かったが、今回はそうはいかない。俺は迷い、道の真ん中で立ち止まってしまった。
(おそらく現在の情報だと、街の寄生人間を引き起こした方は刃碁遊館にいます。もし居なかったら地上に戻り、居た場合は捕まえればいいのでは?)
(…確かに、ラナリリスの通りだ。バーザール、そのつもりで頼んだ!)
(おう!すまないが、3時間以上かかるようだったら…)
(安心しろ、何があっても中断してすぐ塔に戻る!)
(よし、頼んだ…ラナリリス、とりあえず塔に来てくれ!)
「ではバーザール様、一旦お別れですね。乗り込む時には、くれぐれも気をつけてください…ご武運を」
「ああ!そっちこそ、寄生されたりするなよ!」
「…はい!」
俺はラナリリスと別れた後、急いで裏道に入ってそこにいた全員を気絶させた。これで安心して変身できる…俺は偽装を解除して、思う存分翼を広げた。
歩いて探していたら、相当効率が悪い。一刻を争う今、おそらく誰からも見えないであろう屋上から探すのが一番だと思ったのだ。
俺は一気に飛行高度を上げて屋上に着き、北の方を見渡す。パッと見た様子だと、刃碁遊館なんていう建物は見つからない。
まさか、もう一回地下へ行かなきゃいけないのか…?地下にある街の地下にある闇繁華街の地下にある店なんて、いよいよ危ないところだぞ。
「まあ、俺ならなんとかなるか…」
そうだ。今は危ないなどと言っている場合じゃない。数万人の命がかかっている。俺は屋上から1階へと飛び降り、街を歩き回って刃碁遊館を探し始めた。
「…今は、どのような状態なのですか?」
「如何にもこうにも、バーザールがいないことにはあの大軍には対抗できん。俺たちにできるのは、ただ作戦を練ることだけだ…クソッ!!」
「落ち着け、ゲライウス…幸い、まだ数日の猶予がある。治安隊は召集してあるから、あとは彼らの様子を見張るだけだ。バーザールに関しては…申し訳ないが、今回は敵の規模が大きすぎるからドラゴンとして動いてもらうしかないな」
「となると私たちは…出来るだけ街から遠ざかったところで戦えるように時間稼ぎをするということですね」
「ああ。あいつ以外に寄生人間を殺せる者がいないからな。地下の件、早く片付けてくれるとうれしいんだが…」
「そんで?俺に何の用だ、兄ちゃん?」
刃碁遊館に辿り着いて中へ潜入できた俺に、元凶らしき人物は問いかける。
「時間がないから簡潔に頼む。お前は、先の忌避襲来時に寄生人間をばら撒いたか?」
「……面白い質問だな。仮に俺がそれをしていたとして、お前はどうする?俺を殺したことで、止められると思ってんのか?」
「全員、殺す。さあ、さっさと吐け」
「はっ、嘘だな。殺す?んな度胸もないくせに」
そう言って、目の前の男は寄生人間の姿へと変わっていった。俺が刀を構えようとした瞬間、やつは近くにいた護衛の1人を俺に投げつけてくる。
「それじゃあ、殺してみろよ!!」
「?!」
クソ…!投げられた人を避けた俺の刀と、やつの腕が交差する。勝敗は一瞬で決まったが、やつは何事もなかったように腕を再生して再び襲いかかってきた。
「野郎ども!今こそ、この思い上がりを殺す時だ!行け!!!」
「グガ、ギ……オオオオオオ!!!!」
クソ、周りの奴も全員寄生人間だったのかよ…!俺は刀で凌ぎながらファイヤーボールで順番に片付けていく。1人、また1人と後もなく消えて行き、最後には元凶が残った。この時間、わずか数十秒。
「クソ…っ!クソクソクソクソ!!」
「さあ、観念しろ。命は貰うぞ」
「……ヘッ!素直にくれてやるかよ!」
やつはテーブルを薙ぎ倒し、俺の進路を遮って出口へ向かった。まずい、こいつを外に逃したら…!俺は必死に止めようとしたがそれも虚しく、やつは繁華街に出た。
やつは、寄生体を撒き散らしながら逃げている。奴が通った道中では苦しみの声がだんだんと増えていき、寄生人間が爆発的に生まれていく。俺が階段を駆け上がって街に着いた頃には、すでに繁華街の数百人がその犠牲となっていた。
…多少の犠牲は仕方がない。このままだと、地上にまで寄生人間が出て行きかねない…!
「fireball………」
俺はありったけの力をファイヤーボールに詰め込む。その手にあったはず火の玉は爆発的に大きくなり、天井に当たり爆発しそうになった。
「ignition!!!!」
溜まっていたエネルギーが一気に解放され、地下の繁華街へと降り注ぐ。膨大な熱と光に包まれた街は、再び見る頃には見るも無惨な火と廃墟の海へと姿形を変えていた。




