85話 さ〜かや〜
いくら地下の闇繁華街で周りを見渡しても、寄生人間は見当たらなかった。むしろ、怪しい候補が多すぎて全員が寄生人間に見えてくる…
「本当に、この中に目標の人物がいるのか…?」
「………見えませんね。もしかしたら、すでに完全に人間へと変身した後かもしれません…」
「もしそうなら、結構めんどくさいな……そうだ、手分けして探さないか?俺はこっちを見てくる」
「わかりました。では、私はこちらを…くれぐれも、気をつけてくださいね」
「ああ。見つかったり、手掛かりが見えたら脳対話で連絡を頼む!」
そう言って、俺たちは二手に分かれてどんな姿かもわからないやつを探し始めた。とりあえず、裏道を探すか…一通り見たのにいないなら、そういうところにいるとしか思えない。
裏道は、予想以上にたくさんあった。その何処もが、酒とタバコの臭いが充満する不快な道と化している。腰に刃物をつけている、どう見ても殺す気満々の男が別の男に絡んでいたり、シンプルに闇取引をしていたり…
考えながら歩いていると、何かが肩にぶつかった。後ろを振り返ると、コワそうな男がこちらを睨んでいる。
「どこ見て歩いてんじゃボケェ!目ん玉ほじくられちまってんのか?!」
うわ…泥酔×常識皆無じゃん…こういう奴らの対応が、一番困る。
「はいはい。酔ってんなら、人に迷惑かけずに帰ってくれ…」
「おいおい、え度胸しちょるなぁワレ。1発くらっとこか?」
「遠慮しときます。地味に急いでるんで…んじゃ!」
「なめとんとちゃうぞ!!」
ぶつかってきた男は、逆ギレして俺に殴りかかってきた。だが、泥酔している上に、相手が俺な時点で当たるはずもなく…見事に俺に交わされ、壁に突進していく。周りにいた人たちは、こぞってこっちを見始めた。
まずい、騒ぎを起こさないようにしているのに…こんな時は、とっとと退散だ。俺はできるだけ早く、そそくさとその裏道を去っていった。
「どうしようか…あんなことをずっとやってても、何にも手がかりを得られないぞ…」
「それなら、次は試しに何処かの店にでも行ってみなよ!こんな一生行かなさそうなところに来てるんだから、少しくらい楽しんでもいいと思うけど?」
「今は、街の人の命がかかってるんだぞ?そんなに悠長なこと、してられないよ…というか、お前は誰なんだ?何処にいるんだ?なんか前に似た様な状況があったけど…
俺はこの世界に来た直後のコリノーを思い出す。
「え、あたし…?あたしは、まあ…ね!それじゃあ、また!」
「あ、おい、逃げるな!おーい!」
………よく考えたら、周りから見れば俺は1人で喋っている変人だ。我に帰った俺は顔を赤くしながら歩き出す。
さっきはあいつの言う通りにしたら上手く行ったし、今回も店に行ってみるのもありなのかもしれない…
俺はとりあえず、脳対話でラナリリスに連絡を取ることにした。
(ラナリリス…俺のこれ、聞こえているか?聞こえていたら、返事を頼む)
(なんでしょうか?まさか…)
(いや、見つかったわけではないけど…ここに入るときに知らない奴の声が聞こえただろ?あいつの言う通りにしたら、過程はどうであれ結果的にはここに入れた。そいつからさっき、適当な店に入ってみろって言われて…一応連絡してみようかなって)
(そうですか…今、どこにいますか?合流して、行ってみましょう)
(了解。今は…でっかい酒屋の前にいる。えーっと、名前は…「くてくろ庭」ってところだ)
(……)
「もしかして、バーザール様…?」
「うわっ!!」
脳対話での応答がなくなったと思ったら、急に後ろから声が聞こえた。俺はびっくりして、少し大きな声をあげてしまう。
「なんだ、ラナリリスか…よかった」
「すみません、バーザール様…こんなに近くにいると思っていなかったので、つい…」
「大丈夫。それより、何処に入る?俺としては、トラブルが起きなさそうなところがいいんだけど…」
「この地下に、そのようなところがあるはずもない。」
「そうなんだよな…もうここはいっそのことは諦めて、目の前のここに入ってみるか…?」
「私はどこでも大丈夫ですよ。バーザール様が決めてください」
「うーん…もういいや!この店の前に来た時にあの声が聞こえたんだ。別にここで間違えているわけじゃないだろ!」
そう言って、俺は酒屋のドアを開けた。その瞬間、中からはものすごい熱気と声が聞こえる。まあ、予想通りだ…俺とラナリリスは苦笑いしながらも、席を見つけて座る。
俺たちは適当に空いていたカウンター席に座り、店員に飲み物を注文した。俺は無難にビールのようなもの、ラナリリスは果実酒っぽいものを頼む。
ふう…とりあえず、周りを見渡してみるか。すぐにグラスが届き、俺は軽く口をつけながら店内を観察する。
外と同様に怪しい客は山ほどいるが、寄生人間はまだ掴めない。ラナリリスも静かに周囲を警戒しているみたいだ…
「おいおい、嬢ちゃん。こんな汚い店に珍しい美人がいるじゃねえか」
突然、隣の席から酔っぱらった男が二人でニヤニヤしながら近づいてきた。一人はガタイの良い筋肉質、もう一人は瘦せ型だが目がギラギラしている。
明らかにラナリリスを狙ってるな…可哀想に。狙う相手を間違えたな。
「ほらほら、俺たちと一緒に飲もうぜ。そっちのガキは邪魔だ、どっか行かせろよ」
「…………」
は?ガキ?え、○したい。前世じゃあ確かに小さかったかもしれないけど、今は普通に少し高いだろ…
ラナリリスは無言で俺の方に視線を向けてきた。迷惑…というより「どうしますか?」という心の声が聞こえる。
「悪いが、俺たちのテーブルに近づくな。彼女は俺と一緒にいる」
俺の、2人がラナリリスに懲らしめられないようにという優しさで警告したにもかかわらず、筋肉質の男は大笑いしてきた、
「は? ガキが何様のつもりだよ。嬢ちゃん、こんなヒョロい奴より俺たちの方が楽しいぜ?なあ?」
瘦せ型の男がラナリリスの肩に手を伸ばそうとする。ラナリリスが軽く身を引いたが、男は構わずさらに近づいた。
「やめとけって言ってるだろ」
俺はため息をつきながら立ち上がった。ラナリリスも静かにグラスを置く。あ、まずい…あと少しで…
「何歯向かおうとしてんだよ!チビは大人しく——」
デカいほうが苛立ってラナリリスの腕を掴もうとした瞬間、ラナリリスの鎌が男の喉に押し当てられた。急に殺意が露わになったラナリリスを見て、男2人はたじろぐ。
「言葉を慎んでください。それ以上喋るようなら、喉を切り裂きます」
「………あーあ。やめとけって言ったのに…」
「お前…女の分際で…!」
痩せている方が、ラナリリスに向かって殴りかかっていった。俺はそれを止めて、脇腹に拳をクリーンヒットさせる。男は「ぐえっ」と情けない声を上げて机に当たって倒れた。
それを聞いた店内の視線が一瞬集まったが、すぐに「また喧嘩か」と興味を失ったように皆が元の飲みに戻っていく。この界隈では珍しくもないらしい。まあ、そりゃそうか。
「ったく、言った通りにしろよな……」
俺がぼやきながら男たちを見下ろすと、倒れた瘦せ型の男のポケットから、何かが床に落ちた。 ……鱗?どう見ても見覚えしかない赤い鱗が数枚、転がっている。これは……!
ラナリリスも気がついたようで、素早く拾い上げ、目を細めた。
「はい。これは、寄生人間の…」
「お前ら……紺色のやつか?それとも、そいつの関係者だな?」
俺が男の襟を掴んで引き起こす。瘦せ型の男はまだ意識が朦朧としていたが、鱗を見た瞬間に顔色が変わった。
「ひっ……!ち、違う、俺はただ……!」
「黙れ。どこでこれを手に入れた?その寄生人間は今どこにいる?正直に吐け。さもないと……」
「わ、わかったよ!俺はただ……あいつから鱗を貰って、不老になりたかっただけだ!本物は……北の、刃碁遊館にいるって聞いたことがある。金持ちの客に化けて、女を食ってるって噂で……!」
男の言葉を聞きながら、俺はラナリリスと目を合わせた。どうやら、あの見知らぬ声の助言は当たりだったみたいだ。
「情報、どうもありがとう。今後は、身の程をわきまえて喧嘩をするようにな」
俺は少し多めにお金をカウンターに置いて、店を去った。あっちが喧嘩を打ってきたせいで荒れたとはいえ、流石に少しは払っておいて方がいいだろう…あとは、実際にそこに行ってみるだけだ。
地下にある街の地下ってどうなってるんだろう?




