79話 密悪
俺は転移魔法をひょいと使って、建劉園のすぐ近くまで来た。相変わらずこの街には、奇妙過ぎる植物がたくさん生えている…忌避を倒した後も、それは依然来た時と変わらなかった。
「よし着いた。ラナリリスと、キュラゴクス。もう動いていいぞ」
「2人とも、俺のわがままに付き合ってもらってすまない。改めてお礼を言いたい」
「そんなことないです。そんなに、かしこまらないでください」
「ああ。少しここに来てみたかったしな。不気味すぎるけどこんな光景、前世でもこの世界でも見たことがない」
「それじゃあ2人とも、俺は少し深部に行ってくる。流石に死なないよう心がけるが…万が一、何かあったら空に向かってこの剣を投げる」
「その光景を見ることがないようにして欲しいな」
「万が一の話だ。大丈夫だ、安心してくれ」
「では私も、少し調査をしに行きます。どこで落ち合いましょうか?」
「適当に終わったやつから、街の入り口に居ればいいんじゃないか?見た感じこの街はそこまで大きくはなさそうだし、大声でも出せば誰かには届くだろ…それじゃあ俺も行かせてもらおう」
「はい。お二人とも、また後でお会いしましょう」
「それじゃ」
よし、これからは…技術の習得だ。忌避が使っていた、あの古代の複製魔法… 2人を連れるためにここに来たが、ついでにこの街に手がかりがあれば嬉しい。
そう思って一通り街を探してみたがまぁ、そんな都合の良いことがあるはずもなく…それらしい手がかりは見つからなかった。やっぱり、1から考える必要があるのか。
俺は諦めて、単純に魔法を取得する方法を考えようとする。だが、いくら考えても思いつかない…
思えば、俺が魔法を習得する方法は大体が自然に入手しているのだ。自ら手に入れようとすることなんて一度もなかった。魔法の習得方法ってなんだ…?!これこそ全知王の出番だ!
(ヘルメス!この世界の魔法の習得ってどうやってやるんだ?前に言った古代魔法を習得したいんだが…)
〈魔法の習得、強いては古代魔法の習得には、どちらも一貫して形から入ることが必要です。バーザール様の場合その後の魔気操作を伝授してくれる人はいませんが、おそらく 現代魔法は 古代魔法 弱体化させたものであるため、現在 習得している魔法を応用すれば習得できる可能性があります〉
形から入るのか…
〈はい。先ほどお話しした通りにしなかった場合、自らが自身の魔気をどう操作すれば良いかをあらかじめ知らない状態で試運転することになるため、魔気が暴走する可能性があります。人間の時代を切り開いた魔法使いでさえ、これを守らなかった際にひどい目に遭っているため、必ず守ることを推奨します。〉
そうは言ってもねえ…いくらそのモーションが完璧になったとて、実際に使えなければ意味がないんだよな…
魔気が込められなければ、使うふりをした一瞬だけの敵を怯ませるのにしか使えない。その程度なら、従来の技を使ったほうが圧倒的に勝率は上がるだろう。
結局は、手に入れる方法無しか…せめて俺には出来なくても、方法は存在して欲しかった。そう思いながら街を歩いていると、角の建物の影に人影が落ちているのが見えた。
その影はこちらに気がついたようで、さっと隠れる。
あれ、ここにはキュラゴクスもラナリリスもいないはずだが…2人のどちらかがここまで迷い込んだのだろうか?そんなことあるか…?
俺は不思議に思いながらも建物の近くに行ってみる。なんだか電子音が聞こえるが、気のせいだろうか?
「ラナリリスか…?隠れずに出てきてくれ」
その影の主は俺の声を聞いた瞬間、必死になって逃げ始めた。…?なんだか、怪しいな。俺はそう思って空を飛んで奴らの前に回り込み、立ち塞がる。
「「うわあぁぁぁぁ!!!!命だけは、命だけは勘弁を……!!」」
…………一般人か?いや、ここにいる人間が一般人なわけがないか。俺はそう思い、彼らを隅々まで観察してみる。
黒い服、黒いズボン、黒い靴、黒い頭。いや頭は当たり前か。こうみると、某漫画の悪の組織に見え…ないな。
「君は、なぜここにいるんだ?」
「は、はいぃぃ!すみませーーん!!!僕は、僕は……!」
「馬鹿野郎!相手は悪魔じゃねえ、人間だ!別に危険じゃねえ!」
「んなこと言ったって空から飛んできてんだぞ、空から!そんなやつを人間だなんて、兄こそ馬鹿だろ…!」
「あの〜。君たちは、なぜここにいるのかな?」
「いやまあ、俺たちはだな、その…」
「歩いていたらここに辿り着いたって言うか…そう!散歩をしていたらここまで来ちゃったんだ!!」
「……ここに?」
明らかに隠そうとしていることがあるな。この2人…嘘が下手すぎる。ちょっとでも脅したら、全部吐いてくれそうだ…
「言え。さもないと…」
「わかりましたわかりました!!!言います、全部言います!だから命だけは…」
「あーもう馬鹿野郎!!そんな大きな声出したら…!ほら、言わんこっちゃない!寄生人間が…!」
周りには、こいつの声を聞きつけた寄生人間がうようよ集まりはじめた。めんどくさいな…俺はとりあえず、周りに火弾を撒き散らしてみる。
「そんで?なんでここに来てるの?」
「俺たちは金が欲しくて…決して、悪意はないんです!許してください……お願いします!!」
「あーもうめんどくさいな。あんたらは何をして、誰に命令されてんだ?」
「僕たちは街の奴らに依頼を受けてやったんです〜!!元の依頼主の名前とか顔なんて知りません…!」
「だから、何をやったかも聞いているだろ…!」
「寄生植物の、サンプルを、とってましたーー!!!」
「……は?なんのために?」
「だから、知らないって言ってるじゃないですか!頭悪いんですか!!」
「ちょっ、、おまっ、、、バカ!殺されるぞ!」
寄生体のサンプル…?ラナリリスみたいに、寄生人間の予防薬を作ろうとしている人がいるのか?
「他に何か言われたか?例えば、『他人に見られるな、見られたら絶対に植物は置いて来い』とか…」
「全くおんなじことを言われました!」
…どうやら、サンプルはサンプルでも悪用するためのサンプルなようだ。もし善用するなら、隠れたり証拠を消す必要などないんだからな。
「……わかった。俺と出会ったことはくれぐれも他言するなよ?もし言ったら…」
「「絶対に言いません!!!!!」」
「よろしい。そんじゃあまた」
……まずいな。寄生体の悪用となると…街の人間全員が寄生体になる。それどころか、あのシャントタウンも建劉園に早変わりだ。なんとしてもそれだけは阻止しないと…
そう言えば、2人はどこへ行った?さっきまで聞こえていた剣の音が聞こえない。
「キュラゴクス〜!ラナリリスーー!!2人とも、どこにいるんだー!!」
だが、帰ってくるのはただの静寂だけだった。この街はそれほど大きくはないはずなのに、どちらにも声が届かない…?明らかにおかしい。もしかして2人とも、まさか…!




