75話 植物都市
冬虫夏草…聞いたことがある。虫の体に寄生し、養分を吸い尽くした後キノコになるという奇妙すぎる生態を持つ生物…
「……つまりは、私たちが寄生される、ということですか?」
「そうだと言っているだろう。さあ、植物たちが安定している今のうちに行くぞ。もう2度と、仲間を操られるのはごめんだ」
そう言ってゲライウスたちは足早に街の入り口を去り、中へ入っていった。今さらっと、恐ろしいことを言ったな。彼の仲間にはもう既に、植物の笑直になった人がいるのか…
「この世界には、こんなに恐ろしい生き物がいたのか…驚きだな」
「忌避は、恐ろしい生き物判定では無いのですね」
「あいつは、なんていうか…生き物じゃない気がする。うん、俺の勘だがな」
周りに生えている植物に気をつけながら、俺たちはゲライウスの跡を追っていく。所々で操られた人に襲われること以外何も起こらないのを見ると、今までで比較的安全なのかもしれない…
そんなことを考えながら歩いていると、すぐに祭壇の元へとたどり着いた。あれこんなに早く終わるのか…?
恐る恐る祭壇を除いたゲライウスの顔は、曇ることはなかった。むしろ、少し明るくなったきがする…
「………どうだった、ゲライウス」
彼は返事もせず、ただ中をじっと覗いていた。やがて大きな声が聞こえた後に、ゲライウスは勢いよく上半身を穴から引き出して手を高く上げる。
「取れた……いや、みんな、ここから離れろ!!」
ゲライウスが叫んだ次の瞬間、その筒の中から大量の人間が出てきた…いや、寄生されている人間だ。俺たちがこの穴に体を突っ込むことを知っていて、待ち伏せしていたのか…?
俺とキュラゴクス、ラナリリスはそれぞれ武器を構えて、奴らを倒しに行こうとする。走り出したのを見たゲライウスは、焦って声を張り上げる。
「みんな、あいつらに触れるな!斬るのもだめだ!内部から寄生体が飛ぶ!とにかく、何もせずに逃げろ!!」
マジか…!逃げるしかないのか!それを聞いた引き返し、急いでゲライウスの後を追って逃げ始める。俺は右手の偽装を解除し、ラナリリスとキュラゴクスが通り過ぎた後に近くにあった大きな石の塊を道に置いていった。
これで、少しは時間を稼げるはず…だがその見込みも虚しく、それは十数秒で突破された。寄生された奴ら、異常に足は早いし連携は揺るぎないし、なんなんだよ…!
そんなことを考えながら走っていたせいだろうか。俺は足元にあった石に気が付かずに、転んでしまう。すかさず、後ろから俺に襲いかかってくる……!
「おい、バーザール?!」
俺が転んだことに気がついたキュラゴクスが俺に声をかけたが、もう遅かった。俺の背中には、手を伸ばせばもう届く範囲に奴らの腕が伸びている…
【ドラゴンは、躓いたせいで死んだ】なんて、後世の人に語られたら恥ずかしくてたまらない。俺はその一心で、死を回避する方法を急いで考え始めた。
槍は、斬りつけるんだから逆によくない。強制発火は、背中の相手なんて見えるわけないからボツだ。龍王の風格は、ラナリリスたちまで巻き込む…!
そういえば、寄生している本体は植物だよな…?それじゃあ、火が効くんじゃないか?俺はその希望的観測に賭けて、一番効かないと踏んでいた火弾を背後に高出力で生成する。
(こんなことで死ぬなら…!最後に、生死を賭けてみる…!!)
俺は、運がいいのかもしれないな。俺の炎に触れた寄生人間は、思いがけずことごとく燃えてチリも残らずに消えていった。
「なに…?寄生体が燃えた?」
ゲライウスはこちらを見て、驚愕の色を見せている。とりあえず、助かったみたいだ…おれは立ち直りながら後ろに炎の壁を作り出し、奴らの行く手を阻む。
「バーザール様、早くこちらへ!」
炎が途切れ、再び背中を寄生人が追ってくる。俺はすんでのところで街から脱出でき、顔から地面に滑りこむ。
街の境界線を超えてまだ複数人が俺を襲いに来たが、線を越えた瞬間にチリとなり消えていった。回転して仰向けになると、と目の前では、ラナリリスとキュラゴクスが心配そうにこちらをのぞいている。
「大丈夫か…?躓くなんてらしくないな。操られでもしたか?
「ちょっと考え事をしながら走っていて…でも、逃げ切れたしなんとかなった…」
俺は立ち上がり、背伸びをしながら街の方を見た。街はすでに、何事もなかったかのようにに詰まり帰っている。
「………バーザール、お前の炎は寄生体に効くのか…?」
「?ああ。よくわからないけど、何故か効いたな。それは、そんなに驚くことか?」
「驚くに決まっている!数百年間、対処法が見つかっていなかったんだぞ…お前が9年、早く来てくれていれば…」
そう言って、ゲライウスはハッとして黙り込んだ。それはつまり、俺の前世は20歳になってすぐに死ねば良かったって言っているということか…?
「いや、すまない。取り乱した…みんな無事に彗燦魂を取れたんだ。これ以上のことは望まない」
「では、早く帰りましょう。この地に長く滞在していたせいで、忌避に見つかるというのだけは避けたいですから」
「しかし、なんでハゲロニクスとダズベロスには彗燦魂がなかったんだろうな?」
「俺も、それについては無かったという事実しかわからない。忌避がもし、装置や祭壇を使わずに彗燦魂を安置できる方法をこの数年で確立していたら…俺たちは奴を倒すことはほぼ不可能になるな」
「そんな…それじゃあ、どうしようもないってことか?」
「まだそうと決まったわけじゃない。悪い可能性は膨らむが、良い可能性は縮こまるものだ…あまり心配しすぎるのもよくない」
確かにそうかもしれない。今は無事に、一つだけだが彗燦魂を奪還できたことを祝うとするか。俺たちは少し満足げに、街へと続く道を歩き始めた。
…あれ、転移魔法は使わないのか?
俺たちがシャントタウンを望めるところに着いた時には、その異常さが見て取れた。
「この臭い…燃えている?まさか……!」
最悪の展開が頭をよぎった。俺たちが街を離れている間に、何者かが街を襲撃する…ゲライウスは街に戦力を残しておくと言っていたが、それが忌避にどれだけ通じるのかもわからない。
正直いうと、通常時とはいえドラゴンでも敵わなかった相手だぞ?そこまで信用できないと思っていたら、実際この状態だ。俺1人でも、この街に残っていれば良かった…!
「みんな、急ぐぞ!街が…街が、襲撃されている!」




