74話 なぜ、2回とも…
俺たちはハグロニクスでの空振りを引きずったまま、次の都市へと向かった。なぜ、あそこには彗燦魂がなかったのだろうか…?
まさか、忌避は俺たちがくることを知っていて、今も2つ目の都市で待ち伏せしているのではないか。
いや、今あらぬ心配をしても不安になるだけだな。おれは今までどおり、必要な時に最善の行動をとるだけだ。
俺は遠くにうっすらと見える2つ目の都市:ダズベロスへの道を歩きながら、槍を手に馴染ませていった。
その都市に到着した瞬間、誰もが言葉を失った。ここは、あきらかに狂気に満ちている……
壁という壁に意味不明な落書きや、歪んだ人間の顔、血の跡が無数に描かれていたのだ。風が吹くたびに怪しい音が街中に響いていく。
「ここ……この都市は、本当に彗燦魂がある場所なのか?」
「ああ、残念ながらな。ここも忌避が降り立ってから、このような惨状になった。それまでは、異世界のものがする素晴らしい街だったのだが…」
「忌避がこの都市に来てから、汚染されたああいう輩が爆発的に増えていったのか」
「ああ。彼らを、俺たちは能騃と呼んでいる……見ろ。これだけの量の人が忌避によって惑わされ狂わされ、歩みたくもない道を歩まされているんだ」
ゲライウスの指差す方には、とてつもない数の人…ではなく、人のような生き物が歩き回っていた。彼らは意思を持たず、まるでただ俺たちと戦うためだけにいるみたいに周囲を歩き回っている。
俺たちが能騃たちの群れを避けて行こうとすると、その中の1人が俺たちに気がついた。そいつが俺たちに向かって吠えると、俺たちが隠れる暇もなく一つの群れ全体がそれに呼応する。
見ると、数百、いや数千近くの能騃がこちらへ向かって来ているのがわかった。
一人一人は造作もなく捌けるにしても、これほど大量に来られては対応しきれない。俺たちもまとまって行動しているせいで、俺は火弾すらも使えないのだ。
「みんな、奴らが来るぞ!一点突破で祭壇を目指す!こっちだ、ついてこい!」
ゲライウスの声に彼の付き添いが反応する。俺たちもそれに続こうとするが…そうだ、俺は飛んで行けるじゃないか!翼を取り出し上空へ行くと、俺はそこからゲライウスの行く先にいる能騃を火弾であらかじめ処理していく。
前方の能騃がすっかり消えた頃に、ゲライウスたち地上のみんなは走ってその祭壇へと向かっていく。俺はみんなが向かう方向を見て目を凝らし、先に彗燦魂の所在を見てしまおうとしたが…
「ない…?!」
俺が見た祭壇には、またも彗燦魂がなかった。この都市にも、ないのか…?まさか、そんなことは…俺は自分の目を疑い、ラナリリスたちの元へと降り立っていく。
地上から再び祭壇を見るが、やはりそこに彗燦魂は無かった。
「まさか…ここにも無い…?」
「やはり、忌避は私たちが来ることを予測していたのでしょうか?もしそうなら、彗燦魂をあらかじめ別の場所に…」
「いや。彗燦魂はやはりここ以外の保存場所はない…はずだ。ここに無かったら、俺たちにはどうしようもない…」
俺たちが落ち込んでいると、後ろから手が伸びて来る。驚いて振り向くと、先ほどとは比べ物にならないほどの能騃が再び迫ってきていた。
こいつらを相手にしていたら、脱出するのに何時間かかるかわかったもんじゃないぞ…俺はみんなと共に戦いながら、忌避から助けてもらった時のことを思い出す。
「ゲライウス!ゲライウスは、俺たち3人以外なら全員を連れて外に出られるか?」
「ああ…だが、お前たちにまで手が回らない。ここは、全員で…」
「いや、大丈夫だ…!とりあえず、俺たち以外全員でこの街の入り口まで戻る。できるか?!」
「………ああ。だが、お前たちは…」
「俺たちは俺たちの脱出方法がある!」
「…わかった。死ぬことはないだろうが、くれぐれも取り残されたりするなよ」
そう言って、彼らは霧を纏い消えていった。よし、あとは俺たち3人で転移するだけ…
「2人とも、近くに来れるか?今から、街の外へ転移魔法を使う。誰1人取り残されないように…」
俺は2人が近寄って来たのを確認し、転移魔法を発動した。一瞬で、俺たちは街の外へと放り出される。
「バーザール…お前、魔法を使えたのか…?」
「戦闘中、バリバリに使ってたけど…」
「まあいい。今重要になっているのは、彗燦魂をどうするか…」
「流石に、2連続で見つからないのは想定外ですね。これからどうしましょうか」
「ゲライウスがいいなら…俺は、このまま最後の都市へも行ってしまっていいと思う。3つの全てでなかったとしても、それがわかったことも成果だから」
「そう、このままじゃ埒が明かないんだ……俺も、3つ目の建劉園に賭けるしかないと思っている」
「俺も同意だ。もう無駄足はしたくない」
「私も……3つ目でようやく見つかることを祈ります」
「満場一致だな…次は、建劉園…『現世の天界』とも呼ばれた街だ。だが、あそこにも忌避の魔の手が触れ…」
「地獄となった…」
「元が良かったおかげでそこまでではないが、間違いなくそのレベルだ。みんな、息を吸うときはこれを通してくれ。さもないと…寄生されるぞ」
寄生…?!寄生って言ったか?なんだそれ…
「どういうことだ…?寄生?」
「言った通りだ。あそこには、冬虫夏草の動物版…いわば、俺たちに寄生し乗っ取る、最悪の植物が大量に生えている。助かりたかったら、言われた通りにしたほうがいいぞ。少なくとも、俺は操られて死ぬなんてのは絶対にごめんだ」




