73話 予定外
俺たちは朝早くシャントタウンを出発し、1つ目の目標地であるハグロニクスへと向かう。緊張のせいか、みんなはあまり言葉を交わさない。少なくとも、俺たち3人以外は口を開いていなかった。
(2人とも、なんで黙っているんだ…?)
俺は数時間のダンマリに我慢できなくなり、ついに2人に脳対話を仕掛けてしまった。すると意外にも、すぐに返答していたのはキュラゴクスだった。
(いや、みんなが黙っているから場違いかと思って…喋ったほうがいいか?)
(私も…今は何も話さないほうがいいのかと思っていました。)
(いや、こんなことを言っておきながら俺も同じように思っているんだが…ゲライウスたちはなんで何も喋らないんだろうな?)
(おそらく、公私混同は絶対にしないタイプなのでしょう。)
ラナリリスはキメ顔でこちらをみてきた。いや、間違ってはいないかもしれないけどな…?それにしても分けすぎだろ。0か100しかできないのか。
(緊張でもしているんじゃないか?4万年、頑張ってきたと言っていたしな。)
(そういえば、年で換算すると2人は何年生きているんだ?数千万か?)
(数万も数千万も似たようなものです。彼らの経験した数万は、私たちの年月に換算することはできませんから。)
(逆も然り。まあ、似たもの同志ってことだな。)
(そのことを、俺はゲライウスに伝えてないけどな…あっちは似たもの同士だとは思ってないだろうに。)
(それもそれでいいんじゃないか?変な関係になっても良くない。昨日、みんなで確認したこともあるしな。)
(おや、お二人とも。着きそうですよ。あれが、今回の目的地………)
「ハグロニクス…やっと着いた」
それまで黙っていたゲライウスたちは、急に喋るようになる。彼らが目指していたであろう、ここから望めるハグロニクスは、お世辞にも都市とは言えないようなところだった。
建てられていた建物は半壊し、道は瓦礫と木々に埋もれ、風が吹くたびに木の葉のこすれる音が聞こえてくる。まるで何十年、何百年も前から誰も住んでいない、はるか昔に死に絶えた街のようだった。
「……ここに、彗燦魂があるはずなんだよな?」
「ああ。数年前に、場所や奪還方法は確立させておいてある。数百年前にこの地に忌避が来てから、ここを訪れるものは奴以外に1人もいなくなった…誰かに出会ったら、そいつは忌避だと思っていい」
俺たちは唾を飲み込んだ。キュラゴクスがボソッと呟いたのが、俺には聞こえた。
「…まずは、出会わないことを願うばかりだ」
廃墟と化した街の空気は、緑があるとは思えないほどに冷たく淀んでいた。俺たちは死角が生まれないように、後ろ向きにも人をつけながら進んでいく。
「ここだ。確か、この近くだったはず…あった、これだ」
ゲライウスはそういって、木々で覆われた箱の中から一つの石を取り出した。その石は不気味に黒く光り、禍々しいオーラを放っている。
「なんだその石は…ものすごい怪しい見た目をしているが、大丈夫か?」
「ああ。この石は以前…といっても数百年前のことだが、ここでやつと戦ったときに見つけてな。この石の原動力はよくわからないが、この尖った角が必ず彗燦魂を設置してある祭壇の方を向くことがわかった。ここの祭壇の位置は来るタイミングによって変わるゆえに、この石がないと始まらないはずだったが…無事に見つかってよかった」
そう言ってゲライウスは空に向かって、この石を投げた。石は地面に落ちる直前に止まり、その尖った角を東の方角に向ける。
「これはつまり、そのまま前を進んだほうにそのゲライウスの言う祭壇があるということだな?それじゃあ、早速行くとしよう」
「ああ。忌避に、俺らがこの地へ来ていることが知られる前にな」
俺たちは少し走りながら、その石が示す祭壇の方へと向かっていった。近づいていくにつれ、石の震えが激しくなっていく。
「そろそろなんじゃないか?これ以上震えていたら、いつか壊れそうだぞ」
「そうだな…石はここに置いて、後はまっすぐ進んで行こう。忌避が俺たちを待ち伏せしている可能性もあるから、みんな、気を抜かないようにな」
そう言いながら後ろを振り向くゲライウスの前からは、青白い光が見えてきた。それと同時に、大きな石像も姿を表す。
「あれなんじゃないか、ゲライウス。あの、青い光を放っている像が見えるところ」
「確かに、他の場所とは雰囲気が違いますね」
俺たちに言われてゲライウスがそれを見た瞬間、彼の声の雰囲気がガラッと変わったのがわかった。
「あれだ。あれが彗燦魂を安置してある、祭壇だ…!」
ゲライウスは急に走り出し、階段を駆け上がっていく。俺たちは急な加速に驚くも、置いて行かれまいと走りだしていった。
不謹慎なことを言うようだが、果たしてこんなに簡単な旅だったのか…?彼らが数万年準備したはずのこの旅は、こんなにも平穏なものなのだろうか。
そんなことを考えながらゲライウスやキュラゴクスの背中を追いかけていると、ゲライウスが急に立ち止まった。後から追いついた俺には、その理由がわかった。
「彗燦魂が……ない…?ゲライウス…」
「なぜ…?数年前まではここにあったはず。まさか………ここはダミーで、別に本物の祭壇があるのか?」
「忌避がそんな手間をかける意味がない。彼にとってはこの場で俺たちを殺すほうが楽なんじゃないか?」
キュラゴクスの言う通りだ。やつは、俺たちの生殺与奪の剣を握りている。彗燦魂を取られたくないのなら、俺たちを奇襲して全員を殺せばいいだけだ。俺はないという事実が信じられず、祭壇に近づき周囲をくまなく確認してみる。
だが、そこにはやはり何もなかった。ただの石の台座があるだけで、シャントタウンで見たような彗燦魂も、それがあった痕跡もない。
「少なくともこの祭壇に、彗燦魂はない。もしかしたら街中に落ちているのかもしれないぞ…探しにいこう」
「いや、あれは指定の機械や祭壇に収容しておかなければ力が暴発する。その結果、都市の1つや2つなどは容易に破壊できてしまうんだ。それによって滅んだ都市が何十個あったことか…」
「という事は、この街には彗燦魂は存在しない…ということですね」
どうする…?計画総崩れだ。一つ目の都市からこんな惨状だなんて、誰が想像できただろうか?
「ここにない以上、いくら探しても仕方がない。目的は忌避の持つすべての彗燦魂を奪還することだ。このまま2つ目の都市へ行って、そこにある彗燦魂も取る…みんな、これでいいか?」
「ああ。正直、何も起こらなくて退屈しているからな。忌避とは会いたくないけど、帰るのも何か違う気がするし」
俺がそう言うと、3人だけでなく他のものも俺に賛同した。みんなまだまだやる気があるみたいだ。
「よし、予定変更だ。今回は、ハグロニクスに代わり、ダズベロスの彗燦魂を持ち帰ろう!」




