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71話 ヒーローと思わぬ収穫

モックタウンの地下にあるのが、シャントタウンです…

「やめろ!!!!」


 奴は俺の言葉をものともせず、腕を振り下ろした。俺は思わず目を瞑り、顔を逸らす。人は剣で斬られると、ほとんどの場合生きては帰ってこれない。

 どうする…どうしよう…?焦り過ぎて、思考がまとまらない…呼吸だけが浅く、早くなっていく。



 俺が絶望という谷に落ちかけていた時だった。顔を逸らした方向から、剣で斬り合う音が聞こえてきたのだ…


 まさか…いやいくらキュラゴクス達も、斬られて生きているわけがない。少しの希望を抱きながら急いで顔を上げると、そこには頼もしそうな背中が見えた。



 2日前に俺のことを襲ってきたあの槍使いが、仲間を連れて来ていたのだ。その中の2人は奴と剣を交えており、2人はラナリリス達を助けようとしている。助かった…!

 その槍使いは俺を見るなり、困ったような顔を見せて来た。


「貴様…その状態でも生きているのか…?まるでゴキブリだな。ほれ、起きあがれるか?手を貸してやる」


 そう言って彼は、ニヤニヤこちらを見ながら切られた俺の手に手を差し伸べている。


「……切れた手に貸されても…」


「ふん。しかし、貴様らは奴に3人で戦うのか…?無謀にも程があるぞ。この場は、一旦撤収だ。あの2人も連れていく。いいな?」


「ああ…感謝する。あいつは、何者なんだ?不死身でもなければあんな奴…」


「あいつの名は忌避(キケズ)。この頂上遊宴(ヴィクター・レガリア)は肆使のプロキシのみ出場が許可されているはずだが、なぜか彼だけは唯一肆使本人が出場している。故に、俺たちでは手に負えない…」


「ゲライウス、退避準備完了したよ!」


「わかった。それじゃあ行くぞ、ゴキ。しっかり手を掴んでおけ、死んでも知らんぞ」


 俺は再生した体を持ち上げながら、槍使い:ゲライウスの肩を掴む。瞬きしたその瞬間に、俺たちはどこか薄暗い部屋へと転移していた。



「ここなら、やつからも逃れられる。俺たちがこの頂上遊宴が開催されるたびに使っているところだが…とうとう、今回で137回か。こんなにも長く続くとは思わなかった」


「ありがとう…それはそうと、ここはどこだ?キュラゴクス達は?」


「安心しろ、あの2人なら別の部屋にいる。今、仲間たちが介護しているはずだ。貴様は、3人で戦っているのに仲間のことも見ずに1人ででしゃばるとどうなるかを学んだ方がいい」


 反論しそうになったが、その言葉をグッと抑える。こいつは、あの時の全てを見ていたわけではない。だが、言っていることはごもっともだ。俺はラナリリス、キュラゴクスを無視して1人で戦っていた…


「それともう一つだ。ここはあの街の地下にある、もう一つの街…シャントタウンだ。地上には全く人がいなかっただろう。そこに住んでいた人々は皆、頂上遊宴の際には下へ避難している」


「確かに、ここは少し賑やかだな…」


「今までなら、開催されるたびに俺たちはすぐに戦い、死んでいったものだが…今回は違う。準備を重ね、この時を待っていた」


 そういうと、ゲライウスは壁を叩いた。瞬間、四方向に現れた扉が開き、そこからさっきの4人が出てくる。


「次回で、俺たちはこのゲームを終わらせる。お前も、手伝ってくれ」






「逃げたか…面白くないな。これが『一番面白いゲーム』なのか?」


 肆使:忌避は空を仰ぎながら、天に向かって話しかけていた。当然、彼の言葉に答えるものは1人もいない。


「…………寿希、どうだ?最近はちゃんと食べているか?不自由があったらいえよ」


「あのなぁ、父さん…俺はもう成人したんだ。その程度のこと、1人で解決できるよ」


「そうか…5万と生きていると、物忘れも酷くなるもんだな」


「肆使の物忘れがひどくてどうするんだよ…素直に俺のことが恋しかったっていえば、少しはこっちも返事できるのに。まああんたがそんなことを言えるような立場でも人でもないのはわかってる、そこまで期待しちゃいない」


「酷いことを言うようになったなぁ…これも成長か」


「はいはい。これ以上言うことはないか?切るぞ」


 そう聞こえるとすぐに、電話は切れた。忌避は再び空を見上げて、1人つぶやく。


「物忘れか…………。自分で言っておきながら、酷いことを言ったな」






「頂上遊宴を、終わらせる?」


 どういうことだ?それはつまり、俺が今回勝つことは不可能ということか。


「ああ。今回、俺たちの勝利を持って、頂上遊宴を終わらせる。そのために俺たちは長らく耐えてきた」


 ということは、今回の勝敗は…?

 そう聞こうとして、俺は踏みとどまる。今、ラナリリスとキュラゴクスの命は奴らに握られていると言っても過言ではない。下手に探って、敵を増やすのは悪手…


「お前が協力してくれるのなら、俺たちはお前を勝たせると約束しよう」


「………まじか」


 つい、言葉が漏れてしまった。……いや、まじか。こんなこと、あり得るのか…?協力まで貰えて、勝ち残ることもできる。これ以上の好条件はないぞ…!

 だが、これは俺1人で決めていいことではないはずだ。他の2人の意見も聞いておきたい。

…まあ、返事は分かりきっているけど。


「わかった。2人は、どこにいるんだ?」


「あの、倒れかけていた方ですか?あの2人は今、ベッドに寝かせていますよ」


 彼女がそう言った瞬間、どこからともなく声が聞こえ始める。


「おーい、バーザールー!どこだ、ここー!ラナリリスー!返事してくれー!」


「………もう起きたようですね。ものすごい回復速度です」


「お前のお仲間、元気そうだな」


「いや、なんかすまん…少し席を外す」


 俺は声のする方の扉へ進んでいき、キュラゴクスと出会う。キュラゴクスは、声ではわからなかったが少し焦っていたようだった。


「バーザール…!よかった…急に知らない奴らに連れてこられて、気がついたらここにいたんだ。バーザール、お前は大丈夫だったか?」


「ああ…ここは、以前俺のことを槍で刺そうとしていたあいつ、いるだろ?あいつの本拠地だ。俺たちは、あいつに助けてもらった」


 キュラゴクスに経緯を説明していると、後ろから足音が聞こえる。槍のトラウマから咄嗟に振り向くと、そこにはラナリリスがいた…見た様子、悪いところはなさそうだ。


「お二人とも…無事だったのですね」


「ラナリリスも…!よかった、これで全員揃った」


「ここは…どこですか?見た様子、まだ遊宴の世界にいるようですが」


「ああ、ここはだな…」


「シャントタウンの塔の最上階。窓から外を見れば、街を一望できるぞ。それと、俺の名は『槍で刺そうとしていたあいつ』ではない。ゲライウスという名前がある」


「……!前に襲ってきた…!!


 そりゃあ、そういう反応にもなる。これは、また一から説明する必要がありそうだ…


「いやまあ、詳しく話すとだな…」




「そういうことでしたか。助けてくださり、ありがとうございます」


「ん、ああ…それで、バーザール。結局、お前たちは協力してくれるのか?」


「少し待ってくれ。どうする?2人とも」


「私は、賛成です」


「俺も異論はないかな」


「……だそうだ。俺たちは、あんたらに協力することにする」


「いい判断だ。感謝する。では、こっちへ来てくれ。俺たちの計画を教えよう」

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