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64話 自傷

「バーザールが…消えた?」


 いるはずの方向を向いても、そこには誰もいない。そもそも、バーザールなど存在しなかったかのように綺麗に消えていた。


「どういうことだ…?」


「私にはわからない…………おや、今思えば…私の刀も消えているみたいだ。彼が持っていったのだろうか?」


「まさか、バーザール様は刀を奪って…いいえ、バーザール様に限ってそんなことはないですね」


「ああ。この中に、心当たりがあるやつはいないか?流石にあいつをそのままにしておくのはだめだ。1人で帰ろうとしているにしろ、他の考えがあるにしろ…」


 そこまでキュラゴクスが言ったところで、3人は異変に気がついた。遠くから、小さな呻き声が聞こえる…それは大きくなっていき、この町中に響いていった。


  [ぐああ、ああああ!!!]


「この声……バーザールだ!見にいくぞ!」




 俺は泡沫(うたかた)に刀を振るった後、その刀を持って急いで飛び去った。嫌な予感がする。数ヶ月前にとある悪魔と戦った時の、あの感覚…

 その悪魔と戦っていた時、俺は何やら幽霊のような知らないものに体を乗っ取られた。その時に感じた吐き気と気持ち悪さが再び、俺の体に押し寄せて来たのだ。

 今、近くには怨霊みたいなものもいないはずなのにのに、何故…?そんなこんなで他のみんなが巻き込まれる危険性を考えて、こっそり抜け出して来たというわけだ。

 

 俺は街の外れの小さな家の中に入った。そろそろ、まずい…これ以上この状況でそのままに放っておくと、前みたいに乗っ取られかねない。俺は倉庫に行って鞘から刀を取り出し、刃をこの身に向けた。

 これで刺せば、痛みで吐き気を消せるのではないか…?少なくとも前に手を切った時は全く痛みを感じていなかったから、痛みが大きくても大きすぎるということはないだろう。


「うっ……」


 いよいよ、まずい…これでまた暴走したら、あの3人はこの世界で俺に瞬殺される。それは、彼らからしても俺からしても受け入れたくない。

 俺は覚悟を決めて刀を握りしめ、腹に突き刺す。


「くっ、あああああ…ぐああ、あああああ!!!!」


 痛い。いや、痛いなんてものじゃない…死ぬぞ、これ…!額からは汗が滲み出て来て、刀に滴っていく。あいつは、泡沫はこれほどまでの痛みを耐えていたのか…

 しかし、喜ばしいことに持っていた吐き気や気持ち悪さはどんどん薄まっていった。よし、このまま………っ!


「あああああああああ!!!!!!!」


 痛みとともに、体から得体の知れないものが出ていっていくのがわかる。あと少し…!

 全部出てきた…!俺は顔を顰めながら前を向くと、そこにはさっき見たドラゴンの幻影が浮かんでいた。こいつが病原菌か…その幻影はこちらを睨みながら、つぶやく。


「粉骨砕身か…お主は至高の拠り所だったのだが、惜しかったな」


 そう言いながら、それは倉庫の窓から出ていった。よかった、これで俺が暴走することはない…安心すると、一気に痛みが吹き返して来た。

 今はあの幻影が体の中にいない。ただただ、体に刀が突き刺さっているだけだ…俺は痛みに耐えながら刀を抜こうと手を伸ばすが、届かない。というよりは、手を動かせない…?

 手を見ると、痛みによって激しく震えていた。刀を引き抜けない…!それはつまり、ずっとこの苦しみを味わうということでもあった。


「ぐ、ああああ!!」


 痛い。頭がどうにかなりそうだ…身動きが取れないせいで、あいつらに助けも呼べない。せめて3人さえ呼べれば…あの時、一声かけてからこちらにくればよかったな。

 そんなことを考えながら、痛みで気絶しそうになったその時だった。


「バーザール様!ここですか⁈」


「バーザール!来たぞ、何があった!」


「胸に刀が刺さっている…!2人とも離れてくれ、私が引き抜く」


 そう言って、泡沫は俺から刀を抜き取った。俺は疲れで前に倒れ込む。なんで、またこいつが来るんだ…!


「大丈夫か、バーザール!死ぬな!!」


「大丈夫…だ…。少し、事故があってな…ありが…とう」


 そう言ったところで、俺の記憶は途絶えた。次に起きたのは、現実の世界でのベッドだった。




「幸い、この刀で刺されたこと以外はこれを何もされていないようだな…」


「ああ。だが、この刀に刺されて数分も意識を保っていたことに驚くな…通常のドラゴンですら、1分程度で倒せるというのに」


「とりあえず、バーザールを連れてここから出るぞ!バーザールをこんな目に合わせたやつがいるところにこれ以上いたら、バーザールだけじゃ無く俺たちも危うい」


 キュラゴクスはバーザールを背負って、街へと走り出す。いつの間にか空へと昇っていた月を背景に、見覚えのある人間は4人のことを見下ろしていた…

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