63話 兄さんの死と刀の秘密
泡沫と共に城へと向かう道中、俺は飛びながらある違和感に気がつく。彼女の腕には、大きな傷があった。そんな傷を持ちながら、あの大きな刀を振るっていたのか…
「泡沫……お前、その右腕の傷は」
「ああ、これか。思えば、あれから随分と経ったな………これは数千年前に傷つけられたものだ。一生治らないと言われているが…この程度、死にはしない。すでに痛みも感じなくなった。何も問題はない」
彼女はそれ以上語ろうとはしなかった。問題大アリだろ…というか、腕が完治していたらもしかして俺、負けていたかもしれないってことか…?恐ろしくて考えたくもないな。
俺たちは城が近づいてくるにつれ、異変に気がついた。城の一部が大きく抉れ、そこだけ爆発があったみたいに崩壊している。まるで巨大な何かにぶち当たられたような跡だ…
「……これ、先代のドラゴンの仕業か?」
「ああ。前にいたドラゴンが暴れた痕だと思う。さて、どこから入るかだが…」
「俺が抱えて上まで運ぼうか?」
「…………その言葉は他の人には安易に言わないほうがいい。だが、今は他に選択肢はなさそうだ…頼む」
泡沫はそう言って、俺の真下に歩いて来た。俺はそれを抱えて、その崩壊している周辺へと飛んでいく。あれ?意外と軽いな…
内部は予想以上に荒れていた。コの字になった城の壁には大きな爪痕が何本も刻まれ、天井の一部が落ちて道を塞いでいる。降りられそうなところは…あった、ここにしよう。
「ここ……現実の城と全然違うな」
「この世界は可能性を映すことがある……特に、強い想いや後悔が残りやすい。覚えようとする者がいなければ、忘れられることもまた、無い」
泡沫がそういうと、崩壊したところにドラゴンの幻影が生まれた。それは人間の形に変わり、虚空に向かって話しかける。
[ここのはずだが……?冗談はよせ。なぜ、誰も姿を見せぬ?……………奥か。]
そいつはそう言い、奥へと向かっていった。向かった先には、兄さんの部屋があるはず…
「たぶんあいつは、兄さんの部屋に行ったんだと思う。ついてきてくれ」
「あなたに、兄がいたとは。その兄も…」
「いや、兄さんはドラゴンじゃない。俺の中身は人間なんだが、人間だった頃の兄だ」
「あなたは、人間だったのか…」
「まあ信じて貰うほうがきついだろうけどな。今言ったことは忘れてもらって構わないよ」
そう言いながら、俺たちは兄さんの部屋に着く。こちらの世界に来ても、ここらへんは変わらないな…まるで人がいるみたいだ。
部屋のドアに手をかけた瞬間、大きな音が数回聞こえて来た。銃声…それと同時にドアの取っ手が外れる。下を見ると、腹に小さな穴が空いていた。
俺が腹を再生するのと同時に、ドアの向こう側でドサッと音がする。血の臭い…まさか……
俺は急いでドアを開ける。ドアに寄りかかっていたらしく、俺の足にその死体は寄りかかってきた。
「はっ…………」
「よくやった、丗仭。これで… ひとまず私たちの計画がばれることはなくなった。もう帰ってもいい」
その言葉が、俺の頭の中で大きく反響した。「よくやった」?今目の前で死んだのは、兄さんだ。顔も、服もそっくり。まるでそこにはいなかったかのように、兄さんの体は金色の塵を出しながら消えていっている。
「……泡……沫?これは………どういうこと、だ?」
泡沫はゆっくりとこちらを向いた。表情は相変わらず穏やかだったが、目が冷たくなっているのがわかる。
「今、消えている彼か?彼は、この世界を…」
「違う………!そんなことは聞いていない…俺の兄を、何故殺したかを聞いているんだ…」
「彼が、あなたの兄………?大丈夫だ、まだ君の言う彼は生きている」
どこがだよ…!目の前で殺された。死んだんだ。それでも「まだ生きている」…?
「必ず、取り戻す…!」
俺は泡沫の剣を奪い、兄を殺した本人に斬りかかる。すんでのところで転移魔法だかなんだかで奴には逃げられた。俺はそのまま、泡沫にも斬りかかったが、鞘で受け止められた。
「落ち着け、バーザール!この世界で死んだだけで……」
「死んでいる…?」
やっぱり、兄は死んだ。何故俺がこんなにも奪われ続けなければいけないんだ…
「ああああああああ!!!!!!」
(バーザール! 聞こえるか!?)
一心不乱に刀を振るっていると、キュラゴクスの緊迫した声が脳に強く響いた。
(今すぐには説明できないが、そちら側の世界に入れそうだ!着くのが城だから、少しそちらにいくのに時間かかるが…後少しでその世界から出られるぞ!)
同時に、部屋に大きな鏡が現れていった。俺たちはそれを挟んで、いまだに斬り合っている。
「バーザー…!」
俺が刀を振り翳した瞬間、目の前に鏡の中からラナリリスが現れた。彼女は俺の刀の軌道のど真ん中にいる。 止まれない…最悪だ。世界がゆっくりに見えた。走馬灯って、これのことなんだな…
ザクッ…………
前を見ると、ラナリリスと俺の間に泡沫がいた。左腕に、俺の奮った刀が深く刺さっている。
「大丈夫です…か?」
「大丈夫か!そこの女性!」
「バーザール、刀を引き抜くな…私に任せてくれ」
そういい、泡沫はいまだに刀が刺さったままの腕に右手を掲げて、刀を抜き去る。その光景を不思議に感じたのは、全く出血していないからだったのだろう。
「その刀で斬ると、斬られた側から血液はでない。だが、斬られた際の痛みは計り知れない…流石の私も、これはっ……つらいな」
「大丈夫ですか、泡沫。あなたは、何故ここに?」
「私の趣味だ。今、彼に斬られたのは…私が悪い。全て、説明していなかった…」
「ほら、バーザールもちゃんと泡沫?と話したらどうだ?」
そう言って、2人はバーザールのいるところへと目を向けた。だがそこには何もなく、ただ城の外の景色が見えるだけだった。
「……バーザール?」
「バーザール様?」




